第4話・3
「エー、ヤダよ。姉貴一人で行けよ」
「だって、アンタがいないと侑真君に会えないじゃない」
「オレが行ったって会えねぇよ。だって、一回しか会った事無いんだし。しかも随分前の事だし。アイツだって、オレの事なんか忘れてるかもよ?」
「そんな事無いっ。大丈夫。侑真君はきっとアンタの事覚えてるわよ。間違いないって」
どっから出てくるんだよ、その自信。
呆れ果てたトオルは、長年の姉弟関係の経験上、自分の中で何か悟ったのか、ため息をつくとそのまま黙って立ち上がり、リビングを出て行ってしまった。
廊下を抜け、階段を上がって行くトオルに智里は、
「とにかく、連れて行くから。絶対、会わせてよねっ!」
と、叫んでいたが、バタンとトオルに自室のドアを閉められてしまった。
それから約一ヶ月後。
トオルは、姉・智里に連れられてファッションショーの会場に来ていた。
面倒だし、女物の服なんて興味無いから、行く気なんてさらさら無かったのだが、姉の強引さとある物のおかげで来ることになってしまったのだ。
ある物とは。
それは、新聞記事を見て、トオルが久々にユウマの事を思い出した日から二週間くらい経った日の事だった。
「トオルー。アンタに手紙来てるわよ。随分立派な封筒ねえ。結婚式の招待状みたいじゃないの」
学校から帰ってきたトオルに、母親が手紙を手渡した。
「マジ?何だろう?」
「送り主は、吉岡侑真って人みたいよ」
渡された手紙は、ハガキをひとまわり大きくしたような白い封筒だった。裏を返すと、確かに差出人は吉岡侑真になっていた。山型の蓋の部分には、金色の縁取りが施されていて、同じく金色のバラを模ったシールが貼られていた。
「スゲェ封筒だな…。これじゃあ結婚式の招待状じゃん」
トオルの歳で、結婚式の招待状が来る事は滅多に無い。招待される事があっても、親戚関係なので、招待状は親の元に届く。友達であることはおそらく無いはずなので、トオル自身、こんな封筒の手紙を貰った事は初めてだった。
普段なら、蓋の部分を無理矢理引っ剥がして開けるのだが、今回の封筒は見た目も立派なだけあって、隙間無くガッチリと封がしてあった。どうやら、そこから開くのは無理のようだった。
端の方を手でちぎろうかとも思ったが、封筒の紙自体も分厚いので上手くいかなかった。
仕方なく、ハサミで端を切り取って中身を取り出してみると、封筒の中からは二つ折りになった紙が出てきた。
「やっぱり。中までこれかよ」
と、トオルがつい口に出してしまうくらい、予想を裏切らない便箋。封筒と同じ素材で出来た、少し厚めの紙が一枚。四隅は、丸く滑らかにカットされていて、これも封筒同様、端は金色の縁取りがされていた。
それは、結婚式ではなかったが、まさしく招待状。ユウマの母親、デザイナー・吉岡朱理ファッションショーの招待状だった。
直々に招待状を貰ってしまった手前、こうしてやって来たのだが、トオルにとってはつまらないだけの時間。ショーも無事見終わり、トオルはホールの外に出てきた。ホールの中では、吉岡朱理の握手会があるとかで、智里はトオルをそっちのけで長い列に並んでいたからだ。
姉を置いて帰ろうか迷っていた時、
「三上くん!」
と、声をかけられた。
声のする方に振り向くと、ユウマがトオルの方へ駆け寄ってくるところだった。
「三上くん、来てくれたんだ」
「……ああ。招待状貰ったから、一応な」
ユウマは、ショーで着ていた煌びやかな衣装姿のままだったので、トオルは一瞬戸惑った。