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機械仕掛けの光の先へ  作者: 真栄田エイラ
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プロローグ

2004年度コバルトノベル大賞に応募した作品です。

2004年当時の設定なので、作品に出てくる内容は現在とは技術の進歩により多少異なります。

二人の少年の友情と成長、決して簡単ではない未来への挑戦や希望を書きました。


 その夜、少年は自室でゲームのコントローラーを握り、テレビ画面に向かって格闘していた。最近出たばかりの最新作。友達との間で競うようにして攻略しているゲームに熱中していた。

階段下からは時折、母親の寝る時間を告げる声が聞こえてきていたが、部屋までやってこないのをいい事に適当にあしらっていた。

次々と、画面上に現れるミッションをこなしていく。気がついたら、日が替わる時間をとっくに過ぎていた。

 明日も学校だから、さすがに少年も「そろそろ寝ないとヤバイ」と思い、慌ててデータをセーブしてプレステの電源を落とした。

画面は、入力切替でゲームモードの、何も映らない真っ暗な状態に戻った。普段なら、構わずにそのままテレビの電源も消してしまうのだが、この日はなぜか他の番組にチャンネルを戻そうと、リモコンを手に取った。

 そうして、たまたまチャンネルを合わせただけの番組が画面に映し出されると、少年はリモコンを操作しようとしていた手を止めた。

それは、少年が見ようと思ってした事ではなく、まるで引き込まれるかのように、無意識のうちにそうしていた。

 番組は途中からだったが、内容を聞いていると、スイスの独立時計師に密着したドキュメント。

 少年も、さすがにスイスが地図の上でどこにあるかはわかっていたけれど、この国についてはあまり知らなかった。知っている事があるとすれば、社会の授業で習った永世中立国という事だけ。スイスは時計が有名だって事自体、この時初めて知ったくらいだった。

 少年は、腕時計なんて持っていなかったし、興味も全然無かった。しかし、なんとなくだが、その番組がおもしろそうに思えた。

 でも、もう夜中だし。

そう思い、テレビを消して寝ようともしたが、画面には一流時計メーカーがビルを構える、スイスの町並みが映し出された。

 ロレックスとかオメガとか、少年でも知っているメーカーの看板も出てきて、もう少しだけ見てみようという気にさせていく。

 街中の、一流時計メーカー通りを過ぎると、画面は一転。スイスの片田舎の映像に切り替わった。そこには、独立時計師の工房があるというのだ。

 独立時計師の工房では、時計師の仕事場を見せてくれた。製作していたのは、『バーゼルフェア』という、スイスで開催される時計フェアに出品する為の機械式複雑時計。

少年は、時計の内部なんて見た事もなく、どういう仕組みになっているか知らなかった。

初めて目にした時計の構造。一つの時計の中に、あんなにたくさんの部品がある事に驚いた。

小さいけど、どれもが精巧に作られた部品の数々。これらが複雑に組み合って、一秒一秒時を刻んでいくのだ。

その大切な部品は、一つ一つ時計師の手によって専用のレンズ越しに、まるでミクロの世界での作業のように組み立てられていく。

時計師の視点で映し出されるテレビカメラの映像は、気の遠くなりそうなほど繊細な作業を、とてもリアルに感じさせてくれていた。

そればかりか、次々と未知の世界の映像が飛び込んできて、少年を飽きさせない。それは、真夜中の眠気や、明日の事など忘れてしまうくらい、少年の心をしっかりととらえていた。

それも、

「録画すれば良かった」

そう後悔させるほど、少年を夢中に、虜にしていった。

中でも、少年に一番衝撃を与えたのは、『トゥールビヨン』。

『トゥールビヨン』とは、時計の歴史を二世紀早めたと言われている天才時計師、アブラアン・ルイ・ブレゲが発明した機械式時計のシステム。ブレゲは、マリー・アントワネットからも時計の注文を請けていた。

『トゥールビヨン』が一体どういう物なのかとか、色々と紹介されているような素晴らしさが理解出来なくても、あの有名なマリー・アントワネットが顧客という事だけで、ブレゲの偉大さは少年にも十分伝わってきていた。

マリー・アントワネットの為に作られた時計の設計図がテレビに映し出された。

それは、長い歳月の中で茶色く変色したのかはわからなかったが、所々、端がちぎれたりしていて年代を感じさせていた。

時計の設計図と言われても、少年にはわかるわけがない。さまざまな形状のイラストと文字。当然、文字は日本語ではないし、何語かさえもわからない。何かの研究記録にも見える。

少年が、それをただボーっと眺めていると、

「銀河系を連想させるような、美しい設計図です」

なんていう、ナレーションが入ってきた。

そのナレーションも手伝って、少年の頭の中には、銀河系やたくさんの星雲、彗星や星たちが散りばめられ、広がっていった。設計図から放たれる壮大なスケール感は、まさに宇宙空間のように思えた。

「よくわかんないけど、スゲェ」

少年は、この時の衝撃を深く心に刻み込む事になった。

少年の名前は、三上明。明るいと書いて、『トオル』という。その名の通り明るく、元気で好奇心旺盛な小学六年生だ。

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