空中
「俺は生徒会長がなんと言おうが、死ぬ」
五月雨の言葉は里釘には届かない。
「死なせない。生徒を守るのが生徒会長。里釘くんがなんと言おうが死なせない」
里釘はゆっくり起き上がる。血はもう止まっていた。しかし里釘の顔色は悪い。
「よし…最期だ…」
里釘は血が足りてないのかふらふらしながら屋上の端に向かう。
「ダメだ…」
五月雨は里釘を追い掛ける。
「お前はまだ生きなきゃいけない!こんなとこで死んだらいけない」
「まるで俺の未来を知っているような物言いだな」
「知らないさ…知らないけれど予想は…出来なくもない」
「俺はどうなる?」
五月雨は笑って言った。
「里釘くんは、死なない。というより、死ねない」
その声は元気でどこか哀しげだった。
「もう、僕と里釘くんは友達なんだよ」
「は?」
「もう、お互いの過去、事情は大雑把であるけど把握しているし、第一君は僕に色々自分の悩みをぶちまけてくれた」
「あ、あれは…無意識だ…」
「うん。無意識だからこそ、無意識の内に友達になっていたと言うこと…無意識に信用しあってた」
「そんなはずは…ないだろ」
実は里釘。屋上に五月雨がいたことに少し安心したのだった。救われるかもと。
「俺と…生徒会長は友達?」
「そうだよ、友達だ」
五月雨が血で汚れた里釘の手を握る。
このとき里釘に小さな希望が生まれた。
初めて出来た友達。
涙がこぼれた。
しかし、1度決めたことだ。
「ありがとう…生徒会長。世の中捨てたもんじゃねぇな…」
そう言って、里釘は飛び降りろうとした。
が、服を捕まれる。
「え?」
五月雨は言った。
「死ぬのは僕だ」
「は?何で…お前はまだ生きるんだろ?生きたがり」
「僕はこうやって死にたがりを救うんだ。君の代わりに僕が死ぬ」
「どうして!どうしてだ!お前みたいな存在が死んでどうする!」
立場が逆転でもしたのか。
「さっきも言った通り、自殺も考えたって…」
五月雨は悲しげに笑って振る舞う。
「僕は死ぬために屋上に上がってきたんだ。そしたらたまたま君がいた。里釘くんも自殺しようとしていたから…助けたかった。僕みたいに、ダメな人間になってほしくなかった」
「ダメな人間はどっちだよ!」
涙を流し里釘は叫ぶ。
「それに里釘くん。君はいつから勘違いしていたかは知らないけれど…僕は『生きたがり』じゃなくって『逝きたがり』だったんだよ」
五月雨は里釘を屋上の内側へと突き飛ばす。
「やめろっ…」
五月雨はゆっくりと自然な動作で屋上から飛び降りる。
「逝くなっ…」
里釘の視界から五月雨の姿は消え去った。
「五月雨みきり!」
里釘が叫んだ。
その瞬間…五月雨は少しだけほんの少しだけ後悔した。
人を悲しませてしまった。
今までの辛くも、楽しく、充実していた過去が走馬灯のように頭を廻る。
涙が出てくる。
「皆…ごめんなさ
ぐちゃ
肉が飛び散った音が静かな街に響いた。
死にたがりと逝きたがりの運命は残酷であった。
里釘は涙を拭いて言った。
「俺は辛くても、嫌でも、苦しくても…五月雨の分まで生き抜いてやる…」
どこかの少年漫画のような台詞を里釘は五月雨に向かって言った。
えっと、次、終わり。多分。