屋上・再
「まだいたのか。生徒会長」
里釘は五月雨に言う。
「まだいたさ、死にたがり」
五月雨は里釘に言う。
座っていた五月雨は立ち上がりズボンについた埃を手で払う。
「やっぱり屋上にいて正解だった」
「待ち構えてたのかよ。生徒会長」
里釘は続けて言う。
「生徒会長が授業サボってどうすんだよ」
五月雨は息を吐いて微笑を浮かべる。
「僕は今、生徒会長としてやらなければいけないことがある。これは先生にも伝えてある。問題なんか何処にもない」
「へぇ、もしかしてそのやらなければいけないことって俺の自殺を止めることか?」
里釘はもう、自殺する覚悟を決めていた。もう屋上から降りない。降りるときは死ぬときだけだ。と。
「そうだよ。でも僕がここにいる以上、飛び降りれないよね」
五月雨はサッカー部であった。ちなみにゴールキーパー。今は生徒会で抜けているが、試合では相手に一点も入れさせなかったという無敗記録を持つ。反射神経はずば抜けている。
里釘はそのことを知らない。
「なんで、なんでお前がいたら俺は飛び降りれないんだ?」
その刹那ー里釘は屋上の端に向かって走る。
五月雨より5mくらい離れたとこに向かって走る。
走る。走って。飛びだす。
里釘の体は半分、宙に飛び出したが、すぐに、逆に引っ張られる。屋上に引っ張られる。五月雨に服を引っ張られる。里釘は屋上に背中を強く打ち付ける。
「はがっ!」
背中を押さえ呻く。
「ふふ、分かったろ?君は死ねない。僕がいる限り」
ドヤ顔。
五月雨はこれで一安心と言った様子だ。
「はぁ、はがっ、くっ、っ、いってぇーよ」
ゆっくりとした動きで立ち上がる里釘。
「ふぅー、生徒会長。自殺の方法が飛び降り自殺だけだと思うなよ…」
里釘はポケットに手を突っ込みカッターを取り出す。チキチキチキと嫌な音をだし、刃が顔を出す。
里釘はそれを首に向けた。
刃の先が首の皮膚に触れて皮膚を薄く切り裂く。
薄汚れたコンクリートに赤黒い液体が滴り落ちた。




