屋上
屋上る中学校の屋上にて、一人の少年が自殺を図っていた。
この世に希望など無い。望みなど無い。喜びなど無い。楽しみも無い。
あるとしたら、絶望に悲しみ、虚しさ、憐れみ、孤独、痛み、言い出せばきりがない。
屋上には爽やかな風が吹きわたる。風は少年の背中を押すように背中に当たる。あと一歩、踏み出せば、地上に真っ逆さま、落下、落ちる。重力の影響で落ちていくしかない。そう考えるとすれば、飛び降り自殺は重力に殺されているようなものだ。じゃあ、自殺じゃない。他殺だ。それを言い出したらきりがないので惜しいが割愛する。
あと一歩。
あと一歩なのだが、それが踏み出せない。もうかれこれ一時間半近く、あと一歩が踏み出せない。
死にたいくせに死ぬ勇気も無いなんて、情けない。
これが当たり前だろうか。少年はひたすら考え続ける。
これが病気による死だったならば勇気に関係なく死ねる。しかしそれでは病気で亡くなった方に大変失礼なことだ。誰だって病気にはなりたくない。それを喜ぶのは可笑しい。病気で死にたいなんて。
それはどうも叶わないらしい。
少年は昔から健全で健康で風邪など十五年生きてきた中で一度引いたかどうか。というレベル。免疫力がずば抜けていると言っても言いのか、少年は家族にインフルエンザが出たときだって、うがいも手洗いも消毒もマスクも何も予防をするようなことをしていなかったが家族でただ一人かからなかったという記録を持っている。
どうでもいい異常性はさておき、その少年は今知っての通り自殺を図っている。
少年の名は里釘願。性別は男。趣味低酸素。特技が無いということが特技の一般中学生。
里釘の自殺動機は普通に、
人生に疲れた。とか生きていても良いこと無い。とか苦しい辛い痛いとか単純で簡単な、誰でも言いそうな理由。ちなみに里釘に友達など皆無。存在しない。
それも自殺動機の理由の一つである。
里釘が溜め息を吐いた所で扉の開閉音。
里釘は振り向く。屋上と校内を繋ぐ扉からは一人の茶髪の男子生徒。
里釘は思った。何処かで見たことがある。と。
「え?ちょっと!?ちょっと君!何やってんの!」
茶髪の男子生徒は里釘に叫ぶ。そして走って里釘に近づき手を引っ張り屋上の縁から離した。