~雨ののち……~
木崎は原三の放った『百花乱舞』を後方に跳ぶことで避けた。
あいついつの間に水縛りをぬけた。
木崎は現状を再確認した。あの俺を馬鹿にした川島という男は百花流が双烈波を弾いたことにより無事。
百花流――情報によると樹大原三と言うらしい――は水の中にいたはずなのに今は目の前にいる。
そして、あの娘……。ん? あいつずっと川島の後ろにいなかったか。いや、双烈波を放ったとき前方には川島しかいなかった。
……まさか。
木崎はここでようやく気づいた。あの娘は川島が俺の注意を引いてる間に刀を拾い、水の中の樹大原三に渡したのだ。
「……やってくれるじゃねぇか」
木崎はふっと息を吐いた。俺は少々冷静さを欠いていたようだ。だが、もう正気に戻った。絶対に三人ともグシャグシャに壊してやる。木崎は舌なめずりをした。
そして、彼は再びトンファを後ろに引き、水流弾を発射しはじめた。
川島は地面に腰を下ろした。ベチャンと泥がはねる。そんな彼に響花が歩み寄った。
「大丈夫?川島君」
「ああ。なんとか」
川島は息切れをしていたが続けて響花に話しかけた。
「よくやってくれたな、白井」
「ううん。川島君が言ってくれなかったら、皆やられてたよ」
「……だけど、俺は情けないな。結局、樹大に頼ることになったんだから」
川島は苦々しげに呟いた。
「そのようなことはない」
そう言ったのは響花でなく原三だった。
「そんなことはないぞ、川島。おぬしは侍ではないのだから戦えなくて当然。問題なのは気持ちだ。勝てないからと言って逃げたり、命ごいするのは確かに仕方のないこと。しかし、おぬしは逃げなかった。さらに、吾を助けた。おぬしは侍と呼ぶに値する人物だ」
「樹大……」
まさか、こんなに誉められると思っていなかった川島はポカンとした。
「樹大君の言う通りだよ。自信もちなよ」
響花も川島を元気づける
「白井……」
川島はなぜか目頭をあつくした。
……俺そんなたいしたことしたっけ。
原三は深々と息を吐いた。さて、そろそろ戦いを再開しようか。
原三が敵を見据える。ちょうど相手が水弾を放ってくるところだった。原三は素早く斬撃を放ち、水弾を防ぐ。同時に
「響花、川島、隠れていろ」
と二人に呼び掛けた。
「わかった」
川島が応じ、二人は木々の影に隠れた。
「よし」
原三が刀を振り上げ、百花乱舞を放つ。
木崎がそれをよけ、水弾を連続発射。
対して、原三はそれらを巧みにあしらい彼に近づいた。
「また、来やがったな」
木崎はそう言って肉薄する原三の足元に大きめの水弾を放出。原三はジャンプで避けたがあっという間に地面はぬかるみ、宙に水滴が舞う。
すると、木崎が
「もう一度、水の中に沈め」
と叫んだ。
原三の周りに先のように水の粒が現れた。しかし、それを見た原三は顔色一つ変えなかった。
「同じ手は食わん!」
掛け声と共に彼の周りに花びらが出現しすぐさま消える。そして、彼を中心に風が吹き、水の粒を吹き飛ばした。
「なっ」
動揺する木崎。
原三はその隙を逃さず、刀を突きだした。
木崎は反射的に水を発生させ直撃を避けた。だが、水が暴発し後方にモーレツに飛ばされる。
木崎が地面に倒れ込む。
「くそっ。もう、水縛りはきかないか……。ならば……」
木崎は立ち上がり両腕のトンファーを重ね合わせた。
原三が警戒して一、二歩下がる。
木崎はお構いなくトンファーを離し、技を放った。
「葬波」
トンファーから流れだす水。原三は後ろにとびつつ少し前の地面に斬撃を何発か放つ。
そこに穴があき、水が流れこんだ。
「よし」
攻撃を止められ、微かに喜びを浮かべる原三。
一方、木崎は左腕に持っていたトンファー捨て、あいたその手で右手首を掴むという体勢をとっていた。
そして、右腕のトンファーの側面には五つのピンポンほどの水の球が浮かんでいる。それらは時間が経つにつれ、青さを増した。
……こいつはまずそうだ。原三はさっきの攻撃により開いた距離を埋めようとした。だが、すぐに、それは難しいと思い直し立ち止まる。さて、どうしたものか。おそらく、やつは次の一撃で決めにくるだろう。どんな技を放つかわからない以上、後手に回っていれば負ける。
……ならば
「やつが技を放つより前に仕留める」
原三は刀を引いた。
ふふっ、うまく距離を取れた。これで、俺の最強技を放つ準備が整う。
木崎は左腕のトンファーをその辺に放り出し、左手を引いた右腕に添えた。その状態で、ありたっけの気をトンファーに注いだ。すると、五つの水の球がトンファーの側に列を成して出現した。
それを見た、樹大原三ははいったん近づこうとしたが諦めたようだった。
賢明な判断だな。今からじゃ、発射は止められない。近づけば近づくほどいい的になる。
まぁ、近づかなくても当たるだろうがな。
当たればさっきの水の粒とは違い、すぐに水の中に入れ、圧殺できる。
さぁ、いよいよラストだ。
ちょうどその時、気の充填が完了した。
すかさず木崎は技を発動した。
「くらえ!五水弾!」
五つの水の球がまっすぐ原三に向かっていった。
原三は迫りくる水弾を右に避けた。
「無駄だ」
木崎の合図で水がはじけその水滴が再び原三を襲った。彼にもう避けるすべはない。
「俺の勝ち……うぐっ」
木崎は突如の胸の痛みに閉口した。
見ると原三が何か技を放ったようだった。
「なん……だ……と……」
木崎は膝を折った。せっかくの五星弾も彼の意識が安定しないと意味はない。
「くっ……そ……」
彼は地面に突っ伏した。意識をなくした彼に、雲は慰めるように、再び雨を降らせ始めた。