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~馬鹿VS水~

「きゃっ」

 響花はバランスを崩し、その場に倒れこんだ。

「おっ、転んだ。もう、おしまいか?」

 木崎はニヤニヤしながら響花に歩き寄った。

「やっ、来ないで。」

 響花が悲鳴をあげた。木崎が素直に立ち止まる。

「そう。近寄ってほしくないか。じゃあ、とどめと行くぜ。」

 木崎は右腕を後に引いた。トンファーの先に浮かんだ水の塊がゆっくりと大きくなっていく。やがて水弾はサッカーボールくらいの大きさになり、発射可能となる。

 響花は恐怖で腰が抜けて動けなくなっていた。

 原三は動けないばかりか、呼吸もだんだん厳しくなってきていた。

 絶対絶命の二人に木崎はためらいもなく水弾を放つ。

「じゃあねー」

 木崎のいちいちカンに障る声が響花の耳をなでた。

「きゃーーーー」

 響花は身を固くする。ふと、誰かが彼女の前に走りこんできた。そして、その誰かは持っていた傘で迫りくる水弾を横一閃した。水弾は砕け、水滴があたりを濡す。

 その場にいた誰もが唖然とした。木崎がまず最初に口を開いた。

「お前、誰だ?」

 彼の問いにその男は傘を構え直しながら答えた。

「俺は陣東高校陸上部二年、川島竜。そこで溺れかけてる侍とここで腰ぬかしてるレディーのクラスメートだ!」

 川島はこれでもかというぐらいの大声で、尚且つ芝居がかった口調でそう叫んだ。数秒の沈黙のあと響花が声をかけた。

「川島君、危ないからどいてたほうがいいよ」

 どうやら、彼の渾身の名乗りは誰の心にも響かなかったようです。

「……大丈夫だ」

 川島は複雑な心境であったが気にせず、木崎に向かって怒鳴った。

「おい、顔くちゃくちゃ男、女に手出すとはいい趣味してんな!」

 その声は極自然に木崎の耳に入っていった。だが、その声の内容は自然に心に浸透するなんてことはなかった。

 木崎は顔を真っ赤にして

「誰が、顔くちゃくちゃだ! 生れつきこんな顔だ、ばかやろう。」

 と言い返した。

 ……木崎は顔をけなされるのが大嫌いだったのだ。特に決して立派とは言えないその顔を。

「そもそも、お前、傘で何が出来るんだよ」

 木崎がやり返しに暴言を吐く。ただ、ミラのおかげでKYレベルが上がっている川島のほうが一枚も二枚も上手だった。

「うるせぇ。悪いのは顔だけじゃなく、口もか」

「てめー、またけなしたな。壊す。絶対に、絶対に壊してやる!」いよいよ木崎は理性を抑えきれなくなり喉を痛めそうだと心配されるくらいの大声で叫んだ。それを見ていた川島が呟く

「やべぇ、キレさせちまったか……」

 このままだとあのくそ強力な水の弾、撃たれてやられちまう。だが防ごうにも今持っている傘じゃ力不足だ。もうすでに取っ手の部分が取れかかってるし、あと一発防げれば良いほうだ。しかも、腕にかかる負荷も尋常じゃない。さっきは、なんとかなったが今だってそのときの衝撃で手が震えているんだ、次もうまくいくとはかぎらない。

「……どうしたものか」

 困り果てる川島。それに気づいたのか響花が言った。

「川島君、逃げて。このままじゃ、川島君までやられちゃう」

 川島は軽く振り返り答えた。

「馬鹿言うなよ。女子をおいて逃げられるか」

 続けて若干照れつつ、こう告げた。

「それに一週間前に約束しただろ。守ってやるって。だから、俺は絶対に逃げねぇし、絶対にお前を傷つけさせない」

 今度ばかりは響花にも思いが通じたようで

「川島君……」

 と感慨深げに呟いた。

 川島は軽く頷き、敵に向きかえった。

「おいっ、叫んでないで、早くこいよ。俺が倒してやる」

 と格好よく言ったものの……。

 威勢で現状は変わらない。そもそも単純に考えて、水飛ばしてくるやつに傘振り回して勝てるわけはない。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。ふと川島は痺れた手を眺めた。

 ……てか、俺、いよいよピンチだな。攻撃けしかけてる場合じゃなかった。

 川島の視線が敵へと移る。顔面がくちゃくちゃなその男は彼の挑発に対し、さらに激昂しトンファーを後ろに下げていた。

「……ちっ、来るか」

 川島は傘の取っ手を引きちぎり、脇に放った。ちょうどその時木崎がトンファを大きく振るい、水弾を飛ばしてきた。水弾は確実に川島をとらえていた。

「くそっ」

 悪態をつきつつ、今となってはただの金属の棒となってしまった傘を盾がわりに前にかざした。傘に水弾が命中し、水が飛び散った。衝撃が川島に伝わり、彼が若干後ずさる。だが、何とか持ちこたえられたみたいで、ほっと一息をつく。それもつかの間手に持っていた傘はぐにゃりと折れ曲がり、盾にはもう使えそうになかった。

 ……何とか一発は凌いだが、次は多分無理だな。何かこの状況を打開できる物はないのかよ。

 川島はあたりに目を配った。助けを求めるにも人はいない。木々が生い茂っているが折れ曲がった傘じゃ、なぎ倒すこともできない。樹大はさっき見たときより苦しそうな面持ちになっている。本当に何もないのか。その刹那、川島はあるものを見た。頭の中にある考えが浮かぶ。しばらくの考慮の末、川島は決断した。

 しゃくだが仕方ない。

「白井。情けないの承知で頼みがある」

 川島が用件を彼女に告げる。それを聞いた響花は頷き、立ち上がった。

「うん、わかった。頑張る!」

「頼んだぜ」

 川島はそう告げると敵に叫んだ。

「おい、ぶおとこ。お前の攻撃、全然効かないんだが、実力もないのか」

「誰がぶおとこだ。てか、てめーにはその壊れた傘が見えないのか? 見れば俺の技の強さが分かるだろ!」

「ああ、これか。確かに傘は壊れたけど、俺は壊れてないよな。もしかしてお前、傘程度の物しか壊せないんじゃねぇの?」

 川島が半笑いで叫んだ。この発言は木崎の怒りを限界まで掻きたてていた。

「…………お前、そんなに死にたいか。なら、今すぐにぶっ壊してやるよ!」

 木崎は素早く両手を引き下げる。続けて、腕を前に振るい左右のトンファーからそれぞれ水弾を放つ。水弾は放った途端一つにくっつき特大の弾丸となって、川島に向かっていった。

「双烈波!」

 木崎が声高に技名を叫んだ。

 水弾はぐんぐんと川島に近づいていく。

 川島にはもはや闘う力は残されていなかった。傘を地面に落とし、あとは着弾を待つのみ。それで、自分の役割は終わる。川島はため息をつき呟いた。

「結局気持ちを伝えられないままか…………響花」

 顔を俯け、彼は目を閉じた。ふと、心地好い風が顔に吹き付けてきた。そして、耳からは聞き慣れた あいつの声が入ってきた。

 ――こ、この声は……。

 川島は目を開いた。そこには油断なく刀を構える樹大原三の姿があった。

「川島、おぬしの志、しかと受け取った」

 原三はそう言うと刀を振り上げた。


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