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輝夜物語  作者: 辰華
1/1

赤子

目が醒めるとそこは狭く、暗く冷たい場所だった。


これは一体どういう状況なのかと把握する前に自分の身体に違和感を感じ身を捩る


身体が気だるく腕が動かしにくく

光源がなく、暗く何も見えないため手探りで違和感の正体を突き止めねばならないようだ


モゾモゾと体を動かし違和感の正体を探す


頭部、外傷や異常無しだが辺りが暗く見えないため現在地の把握が困難、周囲をそれとなく探ってみた所、恐らく何らかの筒状の容器に入れられているようだ。誘拐の可能性有りか?


胸部、主だった外傷異常無し しかし医療の専門家では無いため内臓物の状況は不明


腹部、これも至って異常無し

さて、最後に脚部…………無い、無いぞっ一体何処に行ってしまったんだ!?俺のアレはッ!


脚は怪我もなく無事だが、アレが見事に無くなっている。



そう、『男』ならば必ず保有している筈のアレがっ!






閑話休題






…………少し取り乱したが、一旦覚えている事と状況を整理しよう


俺の名前は竹取輝夜たけとり かぐやかの有名な竹取物語、かぐや姫からとられた名で在ろうと思われるが、この名前には良い思い出が無い

性別は勿論『男』だ、断じて『男の娘』や『俺っ娘』では無いぞ

両親は居らず施設育ちだ

歳は20社会人に成り日々を惰性で過ごす冴えない男だった筈だ


アレが消えた理由……性転換の手術なぞ受けた記憶も無いし、ましてや自分から進んでそんなものを受けたいとも微塵も思わない


それでは、何故、『男』の象徴と言っても過言では無いアレが綺麗さっぱり無くなってしまっているのか?


さっぱり解らない、昨日を思い出して見ても特に変わった事は無かった筈だ。


何時もと同じ時間に会社に行き、普段通り上司と顧客のご機嫌取りという名の業務を終えた後、そのまま我が(ボロアパート)に帰宅、道すがらにあるコンビニで買ってきた弁当を食べ煎餅布団(万年床)に倒れ込み、泥の様に眠りに就いた筈が、いつの間にか狭く、暗く冷たい場所に

更に追い討ちをかけるがの如くアレまで無くなって……


もし神様が居るのならばどんな手を使ってもコロしてみせるぞ


等と自問自答していると、不意に身体の感覚が戻って来た


しかし、感覚が戻って来たと同時にもうひとつ重要な事に気が付いた


先程、触診していた時に感じた違和感が漸く晴れたのだ


某少年探偵では無いが、俺の身体が縮んでいたのだ


『何を馬鹿な、何故そんな大事なことに真っ先に気が付かなかったのだ?』と、軽く自己嫌悪を抱き再び思考の海に潜りそうになったが、アレが無くなっていた時点での[もう何が在っても驚かないぞ!]という意気込みも呆気なく消し飛び、俺は唖然呆然とするしかなかった




どれだけの間、この場所にいたかは解らないがこうも続けて事が起こると[もうどうにでもなれ]と投げやりになるしかなく、

更にその他に得られる情報も無い以上

行動することも出来ずにああでもない、こうでもないと思案していると、カツン……カツン……という何処からか何かを切る様な音が聴こえて来た


これはもしやすると、[大声で助けを求めれば此方に気付いて助けてくれるのではないか]


と思案した俺は声を出そうとして固まった


何故ならば、(こ、声が出ないだとッ!?)

声は声とならず俺の喉は、赤子が出すような[おぎゃあ]という呻き声ともつかない耳をつんざく音を発する事のみしか出来なかったからである


俺の声なき声が聴こえたのか、何かを切るような音がスッと消え、次第に独り言の様なぶつぶつと呟く様な声が微かに聴こえてきた


「……子か?……何処…ら?」


どうやら、俺の呻き声は木こり(仮称)に聴こえたようだ


そうとなれば、もっと大きな声で叫ぶように声を上げれば、気付いてくれるはずだ!と希望を掛け声を張り上げる


「おぎゃあッ! おぎゃあっ! おぎゃあああああああっ!」


先程よりも力強くより大きな声で叫ぶ


助けてくれ、気付いてくれ、声よ届けと


叫ぶような俺の呻き声を聞き、近づいてきたと思われる足音を聞き更に声を張り上げようとした際に聴こえた声を聞き、俺は息を呑んだ


「なんじゃ、この竹はっ! 眩く光り輝いておる!?」


…………眩く光り輝く竹だと?


それは、もしや竹取物語の……


「おっと、この光る竹は確かに珍しいがこうしては居れん 早く先の赤子を探さねばっ!」


木こりの声を聞き、ハッと我に返った俺は咄嗟に呻き声を張り上げた


「おぎゃあッ!おぎゃあっ!」


極至近距離から聴こえてきた、赤子の声に首を傾げ、辺りを見回す木こり


辺りに有るのは鬱蒼と生い茂る竹、木こりが掻き分けて来たと思われる踏み荒らされた獣道

そして、眩く光り輝く竹


「うん? 声はすれども、姿は見えず 幻聴かのぉ?」


キョロキョロと辺りを見渡すが、見付からず聞き間違いかと疑い出す木こり


木こりの嗄れた(しわがれた)声から察するに、かなりの歳をとっている様だ


まだ気付かないのかと焦り、駄目押しの様に呻き声を上げる俺


「おぎゃあッ!おぎゃあ!」


早く俺を見つけてくれ!と願いつつ叫ぶ


漸く、声がする場所を特定出来たのか、木こりはおもむろに持っていた手斧を振りかぶり、光り輝く竹に打ち付けた




衝撃




(うおッ!?)「うぎゃあッ!?」


なんだっ!?揺れたぞっ!物凄い 衝撃だッ!


カツン、カツン……

と連続で襲い掛かる衝撃に耐えられず呻き声を張り上げ、早くこの衝撃よ止んでくれと思い、目を閉じた


如何程の時間が経ったのだろうか?いつの間にか衝撃が止んでいる事に気がついた


ふと、瞼を開くと黒から現代では限られた場所でしかお目に掛かることの出来ない、綺麗な澄み渡った青い空、そして


(で、デカイっ!)


俺からするとまさに、巨人としか言い表せない程に大きい背の曲がった老人が眼前に手斧を手に放心したかのように立っていた


「おぎゃあッ!」


と、一鳴きしてみせると老人は我に返ったかのように即座に俺を手のひらに抱き上げた


「まさか 光る竹を伐ったら(きったら)、こんなに小さな赤子が出てくるとはのぉ 不思議な事もあるもんじゃ」


俺を見てそう呟く老人と、外に出られたことで一息ついた俺


端から見れば、さぞかしおかしな情景だったことだろう


「さて、この子を放置するという訳にもいかんし 一度連れ帰って婆さんと相談じゃな」


今後の方針を決めたのか、老人は俺を手に大事そうに抱えて元来た道を引き返す




特に問題もなく無事に老人の家についた俺と老人は、おそらく川で洗濯してきたのであろう衣服を持った老婆と鉢合わせた


「まぁっ!どうしたんです お爺さん その子は一体?」


老婆に率直に尋ねられ、これまでの経緯を話し出す老人


老人が言うことには、いつもどおりに野草と竹を採りに山に出向いた所、赤子の泣き声が聴こえ怪訝に思って声が聴こえる場所に近づくと、そこに光る竹を見つけ 不思議な事が有るものだと思っているとその竹の中腹辺りから先程聴こえてきた赤子の泣き声が聴こえてきたため、その上方を伐りとってみた所

中に三寸(9センチ)程の赤子が泣き声を上げているのを見つけ、思わず手のひらに抱き上げそのまま放置することも良心の呵責に苛まれ家まで連れてきてしまったのだという


俺としては今放り出されると何もすることも出来ず飢えて死ぬだろうがしかし、この老夫婦の家に『子ども』それも赤ん坊を育てられる金銭や余裕は無いだろうしどうやってこの状況を脱しようかと思考していると老婆が突然こう言った


「お爺さん、この子は神様からの贈り物じゃあないかしら」


すると老人は驚いた顔をして


「何を馬鹿げた事を、神がワシ達に贈り物をするじゃと!?」


激昂する老人を宥めるように老婆は穏やかな調子で言葉を紡いだ


「ええ、そうですよお爺さん 子どもを授かる事が出来なかった私達に対する心優しい神様からの贈り物よ 」


申し訳にくそうに言う老婆の表情に影が射す


老人は老婆の少し曇った表情を見て何も言い返す事が出来なかった


「きっと、きっとそうですよお爺さん、この子を我が子として大事に育てましょう」


そう、何かを振り祓うような先程とは正反対の晴れやかな太陽のような笑顔に見惚れ老人と俺は閉口するしかなかった




「さて、何をするにもこの子に名前をつけて挙げないとね」


名前と言われ流石にこの謎の状況で些か以上に混乱していた俺にまたもや危機が直面した


(俺の名前と別の名を付けられると慣れる迄にかなり面倒な事になる、それに余り良い思い出が無い名前だが、会ったことはないが、唯一の両親との繋がりでもある、どうにかして俺の名前を伝えなければッ!)


「おぎゃあッ!ぁ……ぐゃ……ぁぐや」


どんな名前にしようかあれこれ思案していた老婆に俺の声が届いたかは解らないが、不意に先程まで黙していた老人が呟いた


「かぐや、輝夜はどうじゃ?」


老婆は老人の声に思考の海から戻り


「かぐや、ねぇ 一体どうしてその名前を?」


純粋に疑問に思ったのであろう老婆が首を傾げ老人に問うた


「光り輝く竹から生まれ、永久に夜の闇を明るく照らすような眩い光を持ち続けて欲しい そんな願いから出てきた名じゃ」


老婆は老人の言葉を聴き


「良い名前ね、輝夜……私の闇を祓ってくれた 私達の可愛い子、今日から貴女の名前は『輝夜』よ」


そして老夫婦は嬉しそうな声で笑い合った


(……一先ず名前は元の名前と同じにする事が出来たが、この先もこんな奇跡が起こるとはそうそう思えない……それに先程は気が動転して気が付かなかったが、この家 いや付近もか、車は通っていないし家や服装も古めかしい、恐らく電気も通って(かよって)いないだろう……俺は一体何処に来てしまったんだ)




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