撮影中
夜の9時。とある公園の砂場で酒臭いハゲたおっさんが泣きながら砂を殴っていた。
「地下には地下の暮らしがあるという。地下には地下の生き方があるという。うぇーん、地下街と地下鉄とモグラとミミズのバカヤロウ!!」とハゲたおっさんは泣きながら言った。
「ワシが、こんなに土に還りたがっているのにさ、土は拒否権を発動しちゃってるんだな。早くあの世からの御迎えが来ないかなぁと待ちわびているのにさ。キャバ嬢に渡した破格のお小遣い5000万円が戻らないかもしれない。もう現世を放り投げて来世に賭けたい心境に至る。もしも生まれ変わりがあるのなら次はトノサマバッタになりたいなぁ〜。なれるかなぁ? ヘイ、yo!」と酒臭いおっさんは公園にあるゴリラの形をした置物に向かって話し掛けていた。
「いっそのこと銀行強盗でもしようかしら?」と酒臭いおっさんはゴリラの置物にヒソヒソと耳元に打ち明けた。
「馬鹿野郎!!」と、突然、怒鳴り声がしたかと思うと酒臭いおっさんは顔を殴られて後ろに倒れてしまった。
「誰だよ!!」と酒臭いおっさんは大声を出したが周りには誰もいなかった。
酒臭いおっさんは慌てて立ち上がると公園の中を小走りして殴ってきた相手を探し回った。
「痛いなぁ」と酒臭いおっさんは頬を擦ると目の前にあるベンチに座って頭を抱えた。
「ワシはキャバ嬢の早乙女愛衣ちゃんに貢いだんじゃないんだ。お小遣いをあげただけさ。決して騙されて絞り取られたわけじゃない。だって早乙女愛衣ちゃんは『邦彦さんってタイプなんです』とか『邦彦さんみたいな彼がいたら良いのになぁ』とか『邦彦さんのお嫁さんになれたら幸せになれそう』とか言ってたもんね。絶対にワシに好意を見せていたから脈アリだと思うんだよね」と酒臭いおっさんの邦彦は自分に言い聞かせるように言ってみた。
「馬鹿野郎!!」と、またしても、突然に怒鳴り声がしたかと思うといきなり邦彦は顔を殴られてベンチの後ろに吹っ飛んで倒れてしまった。
「誰だ!! いい加減にしろ!!」と邦彦は喚き散らして辺りをグルグルと動き回り殴ってきた相手を探した。
「ここだよ」と滑り台に座る人影から声があった。
「き、貴様、訴えてやるぞ!!」と邦彦は叫ぶと、滑り台に向かって走った。
「はははは。哀れだな。キャバ嬢がお前みたいなバカスカたんに惚れるわけないだろうが。男を騙すプロに騙されちゃって情けない奴め」と滑り台の男は滑りながら言った。
「ちょっと待てコラ!!」と邦彦は言って滑り台に登ると滑り台を滑って降りてきた。
「ここまでおいで」と若い男は煽ると再び滑り台に登った。
「おい、言いたいことはそれだけか?」と邦彦は悔しいのか涙目になりながら言った。
「道の真ん中でウンコしたり、道端でもウンコしたり、デパートにある服売り場の隅っこでウンコしたり、宿泊しているホテルの部屋の中でウンコしたり、風呂場でウンコして排水口を詰まらせたりする人間はウンコをするために日本に来ているようなもんなんだ。あっちこっちでウンコをするために日本に来るならば、即、強制送還、国外退去、入国禁止にすべきだと考えるのが筋だし正しい判断だと思うね」と滑り台にいる若い男は言いたいことを言うと滑り台を滑った。
「一体、な、な、何の話をしているんだ? ワシに関係あるのか?」と邦彦は怪訝そうに言った。
「『言いたいことはそれだけか?』とアンタに言われたから、ただ言いたいことを言っただけさ。しかもおっさん、今、アンタもウンコを漏らしているじゃないのかい? このウンコ野郎!」と若い男は強い口調で言うと踵を返して闇の中へ消えてしまった。
邦彦は慌てて自分のお尻を触ってみた。
確かに邦彦はウンコを漏らしていた。ウンコが漏れていてズボンはウンコまみれになっていたのだった。
「ちくしょう。早乙女愛衣ちゃんに惚れられて、早乙女愛衣ちゃんに3年間で5000万円近くの、お小遣いを渡して、何故か急に1週間前から早乙女愛衣ちゃんが勤務するキャバクラからの出入り禁止を食らった挙げ句に、今、ワシはウンコを漏らしている」と邦彦はうなだれて言うとスマホを取り出して早乙女愛衣ちゃんに別れの電話を掛けようとした。
邦彦はスマホで早乙女愛衣ちゃんの電話番号に掛けると耳に当てた。電話が繋がった。
「あっ、愛衣ちゃん? ワシ」
「お掛けになった電話番号は現在使われておりません。もう一度、電話番をお調べになってから掛けてください」と機械の声がしてきた。
「う、う、嘘だろう!? まさか!?」と邦彦は呟くとスマホを握りしめたまま『キャバクラ 〈ジュゴン〉』に向かって全力疾走をした。
邦彦は6丁目にある『キャバクラ 〈ジュゴン〉』の近くに着くと息を整えるために深呼吸を繰り返した。
『今が丁度忙しい時間帯だ。早乙女愛衣ちゃんは新しいスマホにしたんだと思う。ついでに新しい電話番号に変えたにちがいない』と邦彦は自分に言い聞かせるように心の中で言った。
邦彦は店の前に着くと唖然としてしまった。『キャバクラ 〈ジュゴン〉』はシャッターが閉まっていて張り紙が貼られていた。
『10年間のご愛好誠にありがとうございました。4月5日をもちまして〈ジュゴン〉は閉店することとなりました。お客様、関係者各位の皆様のご繁盛をお祈り致します。本当にどうもありがとうございました。〈ジュゴンスタッフ一同より〉』
邦彦は体を震わせながら張り紙を読んだ。
頭にきた邦彦はウンコまみれのズボンを脱ぎ捨てると閉店した『キャバクラ〈ジュゴン〉』の前で野糞をするために屈み込んだ。
犬の遠吠えが聞こえてきた。
通行人はいなかった。
向かい側の電柱の上に街灯と邦彦に向かって丁度いい位置にある防犯カメラがあることに気付いた。
邦彦は泣きながら防犯カメラに向かってピースをすると頑張ってウンコを踏ん張った。
終わりッス




