6話 インフィニティ・オンライン(後編)
「もしもーし、魔王さん?聖剣一点お持ちしました」
「ましろくん、宅配便じゃないんだから……」
「はーい。今開けるわね」
魔王城に辿り着いたましろ、鵜久森、来夢、林檎、綺羅々の5人+1匹を赤羽根榴姫が出迎える。
「ところで赤羽根さん」
「何?」
「魔王の側近なんでしょ?戦わなくていいの、ボクらと」
「アタシ、負ける戦いはしない主義なの。流石に聖剣アリで100前後のレベルで5対1じゃ負けるっしょ。ーーそれにそろそろこの物語から出たいなって考えてもいるしね」
「魔王サマは意地っ張りだから困るよねー」
「いいのかなぁ、ましろくん魔王城の中でそんなこと言ってると」
「あ。そこ落とし穴あるから気を付けて」
「へ?」
「ほら言わんこっちゃない!」
落とし穴ゾーンに踏み出し一瞬身体が宙に浮いたましろの腕を掴んで、鵜久森がかろうじて引っ張り上げる。
「アハハ。魔王サマ、城内のあちこちに仕掛けを施してるの。今までの勇者たちに1番効いたのは熱毒吐きドラゴンの像だったかしら?」
「ああ、それなら大丈夫かな。よいしょっと」
起き上がったましろが仕込み杖を振ると、5人と1匹が青白い光に包まれる。
「ちょっとー。聖剣のバリアとかましろがチートすぎてあたしの出番がないんだけどー?」
「あはは、ごめんね」
ヒーラー職の綺羅々が不満を溢す。
「とにかく、コレでギミックも回避出来るね!ーーいざ行かん魔王のもとへ!!」
◆◆◆
「くっ……、あいつら、俺が工事費をふんだんに注ぎ込んだギミックを、次から次へとチートスキルでクリアしやがって!!しかもよりにもよって聖剣持ちが月影ましろだと!?」
水晶玉で勇者御一行の様子を見ていた魔王ーー夜闇鴉は玉座から立ち上がる。
「ふふふ……。ようやく魔王の間に到着、だね」
「案外早く着きましたね」
「金のスライムを手当たり次第倒して、レベル上げした甲斐があったね」
「おかげで魔王城のモンスターが雑魚も同然でしたわ。HPギリギリで逃げ出すものたちばかりで余計な犠牲もなく済みましたし」
「おーのーれー!!月影ましろ……俺がこの世界で手懐けたモンスターたちをよくも……!!」
「それって魔王と言うよりは、テイマーの方が向いてる気がするんだけど」
長いレッドカーペットの続く、扉の前に現れた勇者御一行。鵜久森はましろを肘で小突く。
「どうするましろくん?僕が最初に戦ってみた方がいいかな?」
「うーん……。勇者をそっちのけで魔法使いと戦う魔王なんて、聞いたことないけど……」
魔王の鋭い視線が、ましろを射抜いている。魔王がとても、ましろと戦いたがっている。
「はいはい。それじゃあ仕方ないね。魔王の相手はボクがするよ」
「はいは一回でいい!剣を抜け月影ましろ!正々堂々真っ向勝負といこうじゃないか!」
空中で一回転をし、夜闇鴉がましろたちの側のレッドカーペットの上に着地する。
「ましろくん頑張れー!」
「ファイトー!ましろー!」
「頑張ってくださいましー!」
「魔王に勝ったらおやつタイムですよー!」
「……なんだか照れ臭いなぁ。ボクってそういう柄じゃないし」
照れて帽子で顔を隠すましろ。気を取り直し、帽子をピンと跳ね返す。
『ーー来ます!』
「!?」
仕込み杖の細身の剣から発せられた声のおかげで受け身の反応が取れた。
『右!上!下!右です!』
「くっ……!なんだその剣は!?ただの聖剣じゃないのか!?」
剣先を読まれ、大剣を操る魔王に焦りが陰る。
「ふふふ……。それがね、元がスマホの剣だからか、AIで敵の動きを予測出来るらしいんだ」
その予測があってこそ。魔法使いのステータスでは本来補えない、力や俊敏といったステータスを底上げしてくれている。
「ダークネスバインド!!」
『無駄です』
ましろを縛りつけようと無数の細い影が畝り迫り来るが、ましろが細身の剣を一振りするだけで聖剣が作るバリアが生じる。
「おのれ……!!」
「じゃあ次はこっちからいくよ……!炎!!」
スペルカードを顕にし、剣先に当てると無数の炎の球が浮かび上がり、魔王に襲いかかる。ステータスの影響か、ましろが普段使う炎よりも火の球が大きく数段威力が高い。
魔王は防ぐ手段が無く、エンハンスで強化済みのマントを犠牲にして火の球をやり過ごした。
「……まさか、防御力を貫通するほどの威力とはな」
「ふふふ……。今のボクはそれだけじゃないよ」
「何?」
「シャイニングレイ!!」
ましろが杖を振る要領で細身の剣を一振りすると、魔王の頭上に光の矢が降り注いだ。
「ぐっーー!!?」
『効果は抜群。敵個体のHPの半分を損傷』
「ご苦労様。アルパイングリーン」
ましろは膝を付いた魔王の目の前で剣の切先を向けた。
「この聖剣相手じゃ、部が悪すぎるよ魔王さん」
「どうやらそのようだな……。くっ……、そんなチート武器、一体何処で手に入れたんだ」
「この聖剣はボクのスマホと引き換えにして手に入れたもの」
「すげーと思ってたらスマホかよ!?道理でアルパイングリーンなわけだな!?」
叫ぶ魔王を他所に、ましろは細身の剣を仕込み杖に戻した。
「ねぇ、魔王。ボクたちと協力して女神インフィニティを倒そう」
「インフィニティ……。あの最初に出てきた女神か……。俺を敗北確定な魔王役になぞしおって」
「ただ、魔王が居なくならないと女神インフィニティには会えないみたいだから……こうしてっと」
「!?」
ましろは杖の先を魔王の心臓ーー闇色に染まる核へと当てがう。すると魔王の姿が光に包まれ、光が分散した後から角を無くし、銀の鎧を身に纏った人物が現れた。
「ほら。キミはもう魔王じゃなくなったよ。勇者パーティの一員さ」
「……礼は言わんぞ」
「御礼なんて。別にいいよ」
さぁて、とましろは杖の後を大理石の上でトントンと打ち応援してくれていたみんなを振り返る。
「女神インフィニティに挑む前に、腹ごしらえといこうか」
「あたしたちはお菓子だけじゃなくて、普通の料理も食べたいよねー!」
「では王都の料亭へ参りましょうか。金のスライムを倒した際の金貨がたんまりとありますし」
「ええ!途中で仕留めた狼やドラゴンの肉も渡して調理してもらいましょう!」
「……あれれ……。僕って、今回王子じゃなくて勇者だよね……?」
若干疑問に思う鵜久森だったが、ほら行こうよと綺羅々に手を引っ張られ、その悩みは数秒の内に消え去った。




