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自分が楽になるための

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/21

わたしは謝られること自体が嫌いなわけじゃない。

ただ、条件付きの謝罪が、どうしようもなく苦手だった。


怒っているあいだは止まらず言葉をまくし立て、こちらが折れていると分かった瞬間にだけ、謝罪をするものがいる。

まるで取引みたいに。

「ごめんね」

その言葉は、反省でも理解でもなく、ただ自分が楽になるための合図にしか聞こえない。


以前、そんな人と長く関わっていたことがある。

言い合いになると、必ず最後はわたしが折れた。

これ以上疲れたくないから。

空気が重くなるのが嫌だから。

自分の気持ちを説明するのに、もう声が残っていなかったから。


そうしてわたしが「もういい」と言った瞬間、相手は安心した顔をして謝ってくる。

優しい声で、穏やかな表情で。

周囲から見れば、きっと「いい関係」に映っていたと思う。

でも、その謝罪はいつも、わたしの気持ちが完全に踏み潰されたあとにだけ現れた。


謝られるたびに、胸の奥が冷えていった。

この人は、わたしを傷つけたことを悔いているんじゃない。

自分が悪者のままでいるのが嫌なだけなんだ。

そう気づいてしまった瞬間から、謝罪は救いじゃなく、確認作業になった。

ほら、もう君は抵抗しないよね。

ほら、これで僕は許されるよね。


ある日、同じ流れが来た。

沈黙。

圧。

期待される「折れる」という役割。

でもそのとき、わたしは初めて折れなかった。


「謝らなくていいよ」と言った。

「その謝罪、あなたのためでしょ」


相手は驚いた顔をして、何か言い返そうとしたけれど、言葉が続かなかった。

きっと初めてだったんだと思う。

謝罪が効かなかったのは。


その日から、その人はわたしの前で謝らなくなった。

そして、少しずつ離れていった。

それでよかったんだと思う。


本当に必要な謝罪は、相手が折れる前に出てくるものだ。

自分が気持ちよくなるためじゃなく、相手が傷ついたという事実から目を逸らさないためにある。


条件付きの「ごめんね」より、

何も言われない静かな距離のほうが、ずっと誠実なこともあるのだと、

わたしはそのとき初めて知った。

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