第10話
ルーナの神殿を後にした私たちは、早々に第7国を抜けるために北上する。 ルーナの神殿は、第7国でも結構北側に位置していたようで、ほんの数日で第8国への入国を果たせた。
まずは、街を目指す。 ブルグマンシアに関する情報を集めるためではあるが、とにかくベッドで眠りたかったので、宿屋に泊まるためだ。
私たちが進んだ道沿いで、第7国から一番近いジュバの街に到着したのは、お昼過ぎであった。 旅の道中ほとんど1人で御者をしていたゲオルグは、さすがに疲れが貯まっているようで、宿屋で遅い昼食を取った後は、すぐに眠ると言って部屋に入ってしまった。
私とクーは、ギルドに行ってみようか? なんて話もしていたが、情報集めにはゲオルグがいた方がいいだろうという事で、明日にする事になった。
「じゃあ、どうしよっか? 街でも見て回る?」
「うーん・・・ルーナさまの神殿で結構お金使っちゃったしなぁ・・・特別欲しいものもないし・・・リア姉と2人きりになるのも久しぶりだし、私たちもお部屋でゆっくりしませんか?」
「お風呂があれば良いんだけどね・・・第8国には、お風呂文化がないのよね?」
「そうですね。 でも、あんなにお風呂がある第9国のほうが珍しいんだけどね。 私の生まれた第7国も、お湯に浸かるって風習ないしね。」
「そっかー。 私の故郷ではお風呂はあたりまえだったからなぁ・・・クーはお風呂ってまだあまり得意じゃないの?」
「いえ、最初はもちろん抵抗ありましたけど・・・あれは素晴らしいです。 一度入ったらやめられません。」
「そうでしょう? けど、無いものはしょうがないから、とりあえずお湯で体拭こうか?」
「はい。」
私は、宿から借りて来た桶に、魔法で生成したお湯を注ぐ。
お湯で濡らしたタオルで、クーの背中を拭いてあげていると
「改めて思いますけど・・・」
「何?」
「リア姉の魔法って、本当にスゴいですよね。 なんでも出来ちゃう・・・」
「なんでもって訳じゃないけどね。 まあ、そこいらの魔法士に比べたらスゴい・・・とは自分でも思うけどね。」
(それも、もしかしたらルーナさま(仮)の血の所為かも知れないけど・・・)
「その・・・ティグリス家にはお抱えの魔法士なんかもいましたけど、皆2~3種類の魔法しか使えなかったと思いますよ?」
「そっかー。 まあ、3種類も使えれば、立派な魔法士と言えるわね。」
魔法には、四大元素とされる火、水、風、土の4つと光と闇の2つ・・・計6つの属性があるとされている。 この6つに嵌らない魔法もあるように思われるが、一般的にはそういう認識になっている。
この内、火と水、風と土、光と闇は相反する関係にあり、通常魔法士は相反属性を同時に持つことはない。 なので、通常の魔法士ではどんなに優秀でも3属性が限界になる。
しかし、私を含めて相反属性を合わせ持つ者は稀に存在する・・・が、あくまで例外だ。
人間の中では、妖精族が一番魔法の適性があるとされていて、中でもエルフ種は、ほとんどの人が2種類以上の属性適性を有している。 エルフ種ほど魔法のイメージがないドワーフ種なんかでも、大体は1属性の適性は持っている。
他では、翼人族は風の適性を持つ者が多く、爬虫人族では水棲系は水、陸上系は土の適性を持つ者が多いと聞く。
妖魔族は、魔法適正の少ない鬼人種などの肉体派と、魔法適正の多くある魅魔種などの魔力派があるが、魔力派妖魔族は闇属性適性の者が多いらしい。
人族は、6属性適性が万遍なくあるが、そもそも魔法適正を持つ者はそう多くない。 複数属性に適正を持つ者などさらに少ない。
獣人族は、人族と同じような感じだが、魔法適正を持つ者自体が人族よりもさらに少なく、魔法を使えるものはほとんどいない。
本人にどの属性の適性があるのか、どの程度の適性の高さがあるのかは、魔導帝国の『遺物』を基に開発された魔法具(水晶玉のようなもの)で判定することができる。
しかし、魔法適性があったとしても、攻撃系、治癒系、補助系といった系統もあり、どれが向いているのかまでは魔法具でも判定できない。 系統の適性にそぐわない勉強や訓練を行っても、適正にない魔法を習得するのは難しい。
そのため、今では長年の研究や実績の積み重ねにより創設された、魔法のための学校があるのだが、そこで行われる訓練や試験により、どの系統が向いているかをある程度は判別できるようになって来ている。 しかし、未だ100%確実とまでは行かない。
判定によって、本来あったはずの系統の適性が見逃されたり、又は誤った判定により適性のない系統の訓練を行ったりということはあるようだ。
また、学校で画一的な教えを受けた者は、皆同じような魔法を習得するようで、多様性が失われていると言った弊害もあるが、魔法習得の可能性が上がるという事は大きなメリットには違いない。
適性のある属性と系統に関する勉強や訓練を行っていると、ある時に頭の中に魔法の名前が浮かんでくる。 それが、自分の使える魔法だ。 そこからその魔法を何度も使って、威力・精度を磨いたり、より深い勉強をすることで次の魔法が浮かんでくる・・・といった形で魔法は増えていくのだ。
ま、実際には言う程簡単なことではないが・・・
他では、師となる者から伝授されることで習得できるケースもあるやに聞く。
また、私自身もそうだが、自身が使える魔法を工夫することで、違った効果の魔法を自力で生み出すことができる者もいる。
さらに、特になにもしていなくても、天性の才能により、いくつも魔法を有している者もいるが、それもまた例外中の例外である。
「私も魔法が使えれば良かったんですけど・・・獣人は魔法適正がある人、少ないもんね。」
体を拭き終え、ベッドに横になっていたクーが、天井を仰いでポツリと漏らした。
「リア姉は、例外中の例外の中でもさらに例外でしょう? 相反する属性の魔法も使えるし、その上どの属性の適性もものスゴく高いでしょう? 使える魔法の種類だってスゴく多いですし・・・」
「まあ、そうなんだけどね。」
「ズルいなぁ・・・・・・あっ! ごめんなさい。」
クーは飛び起きて、私の手を握ると、思わず口にしてしまった一言を詫びる。
「大丈夫だよクー。 確かに魔法は生まれ持った適性で、かなり決まってしまうところがあるからね。 生まれた時から複数の適性があった私は・・・私が希望してそうなった訳ではないけど、ズルいよね。」
「リア姉、ごめんなさい。 イヤみを言ったつもりはないんです。 本当にごめんなさい。」
「大丈夫よ、クー。 あなたがそんな娘じゃないって知っているわ。 それに、前に言ったでしょ? あなたがイヤだって言っても離れないって。」
「うん。 ありがとうリア姉。」
「それに・・・今の私には、クーに光の魔力を感じるんだよね。」
「今の・・・リア姉ですか? それに・・・私にも魔法の適性があるかもしれないんですか?」
「そう・・・思うんだけど。 もしそうなら、光は・・・あなたにはピッタリだわ。」
私は、クーを抱き寄せて、思い切り息を吸い込んだ。
「え? 何をしているの?」
「クー吸いだよ。」
「え? クー・・・スイ・・・?」
「そ。」
「そんなに近くで、思い切り息したら・・・私の匂いで臭くないの?」
「臭くなんかないし、それがクー吸いなの。」
「・・・なんか、ちょっとイヤだけど、それをするとリア姉は嬉しいの?」
「そうだよ。 幸せな気分になるよ。」
「そっか。」
その日は、私たちも夕食も食べずにそのまま眠ってしまった。




