第8話
神暦3,170年12月も終わりの頃、私たちは第7国と第6国の国境に到達していた。
以前のアッパー・リブからアローヘッドへ移動した時の日数を考えると、かなりのハイペースでの移動であった。 まあ、あの時は寄り道も多かったんだけど。
第6国への国境には、堅牢な城壁が続いている。 本当に許可がないと通れそうもない。
私なら関所の強行突破はできるだろうけど、仮に突破してもその後が問題だろう。
「じゃあな、行ってくる。 迎えはまだ来ていないらしいから、アタシ等はここで少し足止めだな。 アローヘッドには・・・そうだな、来年の7月末に集合ってことでどうだ?」
「7か月あれば、なんとか第12国まで行っても戻れるかねぇ。 事件が起こらなければ・・・だけどよ。」
「まあ、無理はするなよ。 第8国だけでも十分だ。」
「エルザ、パトリック・・・くれぐれもお酒の飲み過ぎには注意しなさいよ。」
「お前はアタシのママか。 今回は国の大使なんだ、そんなヘマはしないぜ。 なあ、パトリック。」
「・・・・・」
「おい! パトリック!?」
「カメリア、俺もエルザが飲み過ぎないように気を付けるさ。」
「あははは・・・エルザさんもパトリックさんも、お体に気をつけて下さいね。」
「ああ、クー。 次に会う時、お前がまた一段と成長しているのを楽しみにしてるぜ。」
「クー、カメリアとゲオルグの事を頼んだぞ。」
「はい。 お任せください!!」
「それじゃあエルザ、パトリック、俺たちは行くぜ。」
「じゃあねエルザ、パトリック、朗報を待っているわね。」
「私、エルザさんたちがビックリするくらいに強くなりますから!!」
「おう、またな。」
いつもの赤い皮鎧に赤い両手斧ではなく、白銀の鎧に長剣を腰に差したエルザと、いつもと似てはいるが、鎧と盾は白銀になっているパトリックが見送る中、私たちは国境を後にした。
「エルザさんとパトリックさん、物語に出て来る姫騎士さまとお付きの騎士みたいでしたね。」
「そうね。 馬子にも衣装ってやつかしらね。」
「マゴニモ・・・?」
「ううん。 なんでもないわ。」
「で、お2人さん、どうするよ。 とっとと第7国は出ちまうか?」
「ゲオルグさん、私行きたいところがあるんですけど、寄ってもいいですか?」
「クー、平気なの? 第7国からは早く出た方がいいんじゃない?」
「そうだな。 今のところ大丈夫だったが・・・ちなみにどこに行きたいんだ?」
「ゲオルグさん、実は・・・」
クーは私に聞かれたくないかのように、ゲオルグに耳打ちする。
(クーも私に隠し事なの? お姉ちゃん悲しいわ・・・)
「分かった。 そこなら第8国に向かう途中だし、それほど遠回りにもならんだろう。」
「ありがとうございます。」
「なによクー、私には教えてくれないの?」
「ゴメンねリア姉。 着いてから話したいので、ちょっと待っていてくださいませんか?」
「まあ、クーがそう言うなら良いけど・・・」
「よし、じゃあ行こうぜ!」
そして、1週間ほど後・・・
私たちの馬車は、神殿のような所に到着いていた。
すでに年は明けて神暦3,171年1月3日になっている。
年が明けてスグという事もあるのだろう、巡礼者のような人たちが沢山いて賑わっている。 色んな地方の服装が見えるが、その殆どは獣人族であるように見える。
「何? 獣人の神さまでも祀られているの?」
「リア姉は目立つとアレなんで、フードを被ってね。 絶対にフードを取ったらダメだよ?」
「え? なんで?」
「ここはな・・・クー、もう言っても良いだろ?」
「はい、お願いします。 ゲオルグさん。」
「カメリア、ここは月の女神ルーナの神殿だよ。 獣人が多いのは、ルーナが獣人にめちゃめちゃ人気があるからだな。」
「へぇー。 でもなんで私がコソコソしないといけないの?」
「リア姉、忘れちゃったの? ここはルーナさまの神殿だよ? ルーナさまを描いた絵で一番有名な絵があるんだよ? リア姉にソックリな・・・リア姉が素顔でウロウロしていたら大騒ぎになっちゃうよ!?」
「あ、ああ・・・そうなのね。」
「じゃあ、俺は馬車で待っているから2人で行ってきなよ。」
「ありがとうございますゲオルグさん。 行ってきますね。」
私とクーは馬車を下りて参道に向かう。
言うて、私は「そこまで警戒するほどか?」って思っていたんだけど・・・クーがしつこく言うからフードは深めに被る。 巡礼者たちも、そういう出で立ちが多いから、確かに目立たなくはなるだろう。
神殿までの参道には、たくさんのお店が立ち並んでいる。
月をモチーフにしたアクセサリーとか、同じく月モチーフの焼印が押されたお饅頭的なものとか、果ては、柄に三日月型の装飾が付いた木刀ならぬ木杖とか・・・なんだコレ? 故郷の温泉街を思わせる混沌っぷりだ。 こんな混沌を秩序神は見逃しているのか?
「わぁ・・・見てリア姉、あの木の杖。 ルーナさまのシンボルを模しているんだね。 カワイイ~。」
「え? ああ、そうなんだね。 あー、うん。 カワイイ・・・のかな?」
(クーの感覚って、時々分からないなぁ・・・でも、あれで商売が成り立っているのなら・・・やはり、私の方がおかしいのだろうか?)
「色々欲しくなっちゃうけど、まずはルーナさまの絵を見に行かなきゃ。」
「そうだね、そうしますか。」
商店街を抜けても、参道はまだ結構続いている。 かなりの規模の神殿だ。
「この神殿は、随分大きいんだねー。 こういうのって第6国にあるイメージだったけど、凄いねココ。」
「そうなんです。 第6国には、秩序神や太陽神、天空神なんかの主要な神さまの神殿があるんですけど、ルーナさまの神殿は無いんです。」
「そうなの? ルーナも秩序神側の神さまなんじゃなかったかしら? そんなに詳しくは知らないけど。」
「そうなんですけど、ルーナさまが秩序神に従ったのは、一番最後なんです。 それで、昔のオーディア教団は、ルーナさまをあまりよく思っていなかったみたいで、神殿を造らなかったんです。」
「へぇ~・・・」
「でも、獣人はルーナさまが大好きだったんで、昔からルーナさまを崇めていたんです。 特に第7国は獣人の国って言ってもいいくらいの所ですから、昔から月神信仰が盛んだったんですよ。」
「へぇ~、クー詳しいんだね。」
「はいっ!」
いつになく、クーのテンションが高いように思える。 獣人の獣の部分が月に惹かれるんだろうか?
「それで、ルーナさまの神殿を造りたいって言う獣人たちの願いを、オーディア教団が認めてくれたのが1,500年位前で、それから何百年もかけてこの神殿を造ったんです。 秩序神を始めとした第6国の神殿は、魔導帝国との戦争の後・・・3,000年位前から建設されているんです。 この神殿は大分新しいんですよ。」
「そうなんだねー。」
そんな話をしている内に、参道から神殿内に入る。 石造りの立派な建物だ。 柱にも細やかな細工がされており、壁、天井、床と至るところに配置されている神話をモチーフにしたのであろう絵や彫像なんかも凄い。 獣人のルーナに対する熱い想いのようなものは凄く感じられる。
「ふぅ・・・」
しばらく神殿内を歩いた後に、目の前に現れた両開きの扉の前で、クーが立ち止まって息を整える。
「どうしたの?」
「いよいよです。 リア姉とルーナさまのご対面の時ですよ。」
「そうなのね。」
「リア姉も驚きますよ? 絶対。 じゃあ、開けます!」
クーが扉を開ける・・・最初に私の目が向かった先は、床だった。
辺り一面に、巡礼の獣人たちが膝をついてお祈りをしている。
(うわ・・・コワっ・・・)
その光景にちょっとした狂気を感じてしまう。
(そう言えば、この国では「狂気」のことをルナティックと言わなかったか?)
「リア姉、どこ見ているんですか。 向こうですよ。 ほら、ずうっと前。」
「うん。」
私は、クーに促されるまま正面に視線を移す・・・少し遠いけど金髪の青い服を着た女性の姿が見える・・・そこに描かれた姿は、本当に私の母「鳴」そのものだった。




