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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第8章 カメリアとクー4

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第5話

 貴族とそのお付きの格好をしたエルザとパトリックは、城塞都市アローヘッドの領主である、オルブライト侯爵邸の門前にやってきていた。


 エルザたちを前にした、侯爵邸の門を守る兵士が唖然とした顔をしている。


「え・・・エリザベート様? ・・・お戻りになられたのですか?」

「ええ。 エリザベート、只今戻りましたわ。 通していただけますか?」

「はいっ! 直ちに!! おい、開門だ!! エリザベート様がお戻りになられたぞ!!」

「そんなに大げさにしないで下さいますか?」


 門を通り、屋敷の入り口に辿り着く間に、メイドたちが駆け寄って来る。


「エリザベート様!! そのような格好では困ります!! すぐにお召替えを!!」

「いいえ、結構ですわ。 それよりも、お父様に面会できるように取り計らっていただけませんか?」

「いけません、お着替えが先です。 私たちが侯爵様に叱られてしまいます!! さあ、お早く!!」

「あーもう!! だから良いって言っているだろ!! そんな事より、早く親父殿に繋いでくれよっ!!」

「さあ、こちらへ!!」

「おいっ! パトリックっ!! お前は私の盾なんだろう? なんとかしやがれ!!」

 エリザベートは、叫びながらメイドたちに連行されていった。


「申し訳ありません、エリザベート様・・・私にはどうすることもできません。」

 エリザベートが見えなくなった頃に、ようやくパトリックが口を開いた。



 ドレスに着替えさせられたエルザが、広間でふてくされていると、ハデな服装をした金髪の美しい女性が声を掛けて来た。


「あら、エリザベートさん・・・戻っていらしたのね?」

「マティルダ姉さま・・・ご無沙汰しております。 姉さまもこちらにいらしていたのですね。」

「そうよ。 主人がお父様と重要なお話をしているの。」

「そうですか。」

「いい年して遊び歩ているアナタと違って、主人は街の運営のことでお父様と話をしているのよ。 お父様はお忙しいのですから、突然やって来たアナタに割ける時間は無くってよ。」

「もちろん分かっております、マティルダ姉さま。 私は何日でも待つつもりですよ。」

「私は、お屋敷から出て行きなさいと言っているのだけど? はっきりと言わないと分からないのかしら。」


「やあ、エリザベート。 本当に帰って来たんだね。」

「カール義兄さま・・・お久しぶりです。」

「あなたっ! お父様とのお話はどうなさったの?」

「マティルダ、御義父上はエリザベートが戻って来たとの話を聞いて、私にエリザベートを呼んでくるように仰ったのだよ。」

「あなたっ! そんなことだからあなたはっ!!」

「久しぶりに我が子が帰って来たんだ。 御義父上が会いたいと仰るのは無理もないだろう。 エリザベート、御義父上がお待ちだ。 早く行ってあげなさい。」

「カール義兄さま、申し訳ありません。 それでは失礼いたします。」


 カールがマティルダに文句を言われているのを横目に、エリザベートは侯爵の執務室へ向かう。

 カールは結構キツイことを言われているのに全然応えていない様子だ。


(マティルダ姉さまは相変わらずだな・・・カール義兄さまも可哀そうに。 カール義兄さまは、人は良いのだがな・・・)


 エリザベートは、父ウィリアム=オルブライト侯爵の執務室のドアをノックする。


「お父様、エリザベートです。」

「エリザベートか? 早く入りなさい。」

 ドアの向こうから、父の声が返って来た。


「失礼いたします。」

 エリザベートがドアを開けると、執務机から立ちあがった父ウィリアムが、応接用の椅子に掛けるように促す。


「お父様、長らく不在にしておりました。 申し訳ございません。」

「そんな挨拶はいい。 早く掛けなさい。」

「はい。 それでは、失礼いたします。」


 久しぶりに会った父は、一層老けた様子だった。

 美しかった金髪も、大分白くなっていた。 人族の平均寿命は上回っているため仕方のないことだが・・・年の割にまだ元気そうなので少しは安心した。


 エリザベートとウィリアムがしばし雑談をしていると、ドアの向こうが騒がしい。


 コンコンっとドアをノックする音がしたかと思うと、こちらの返答も待たずにドアが開く。


「父上っ、エリザベートが戻って来たと言うのは本当ですか!?」


 入って来たのは、長兄アルベルトと次兄フリードリヒであった。


「お兄さま・・・」

「アルベルト、入って良いと言った覚えはないぞ。」

「しかし、父上。」

「そうですぞ兄上、父上の許可もなく勝手に入るとは、いくら長男だと言っても・・・」

「お前もだ、フリードリヒ。 今は、エリザベートに話があるのだ。 2人とも出て行きなさい。」

「父上。 父上はエリザベートに甘すぎます。」

「そうですぞ父上、その点に関しては兄上の言うとおりですぞ。」

「アルベルト、フリードリヒ・・・私は出て行けと言ったのだ。 聞こえなかったのか?」

 父にそう言われた2人の兄は、渋々部屋を出て行った。


「すまないな、エリザベート。 全くあやつ等は・・・親の顔が見たいものだ。」

「お父様・・・そこは笑うところだったでしょうか?」

「ハッハッハッ・・・どこで育て方を間違ってしまったのか・・・私の責任だな・・・」

「お父様・・・」

「それで、エリザベートよ。 私と雑談するために帰って来たわけではないのだろう? そろそろ本題を聞かせてもらえるかな?」

「はい。 お父様。」


 それからエリザベートは、第10国での令嬢誘拐事件から始まった『ブルグマンシア』に関連する出来事を父ウィリアムに話した。


「そうか。 そんな事があったのか。」

「はい。 一応、兄上たちには報告をしていたのですが、その・・・どうも動いては下さらないようで。」

「アヤツ等は、私にも一切話を入れずに聞き流していたという事か・・・」

「はい、残念ながら・・・」

「ティグリスの娘は大丈夫なのか?」

「はい。 彼女の特徴的な黒髪は、うちの魔法使いが色を変える魔法で変えていますので・・・それに、初めて出会った時から1年足らずですが、随分成長して変わりましたので、狙われることは無い・・・と思います。」

「ギデオンは良い男だったが・・・残念だな。 しかし、ギデオンの娘か・・・あそこは確か、もう1人も行方不明だったのであろう?」

「はい、そう聞いております。 姉の方は、私も全く情報がありません。」


「それで、エリザベートよ・・・私に何を望むのだ?」

「ブルグマンシアに対する警戒をお願いします。 アローヘッドだけではなく・・・第9国全体で警戒・・・いえ、第9国を上げて排除すべきと考えます。」

「そうだな。 隣国の上層部にも入り込んでいるようでは、この第9国サジタリウスにも浸透しているかも分らんな。」

「お父様・・・どうしてそこまで・・・」

「お前がそれほど警戒している連中だ。 第7国や第10国の話を聞けば、そう考えるのは不思議ではないだろう?」

「さすがはお父様です。」

「フラムメウス王家には、私から話を入れよう。」

「ありがとうございます。」


「それだけでは無いのであろう?」

「お父様・・・私個人でのお願いがあります。」

「言ってみなさい。」

「1つは、第6国ヴァルゴへの入国ができるようにしてほしいのです。」

「なぜ第6国に行きたいのだ?」

「ブルグマンシアの件で、ホーリーオーダーの協力を得たいのです。 連中は第10国の件でもすでに動いていますし、恐らく今でもブルグマンシアを追っているはずです。 ブルグマンシアを相手にするうえで、連中は最も頼りにできると考えます。 例えブルグマンシアに教団幹部が関係していたとしても・・・です。」

「ホーリーオーダーか・・・彼らの助力が得られるかは分からないが・・・イグニス王に紹介状を出してもらえるように頼んでみよう。」

「ありがとうございます。」

「それだけか?」

「2つ目は、アッパー・リブで捕らえたブルグマンシアの供述調書を入手して欲しいのです。 他にも第9国で把握しているブルグマンシアの情報があれば、そちらも是非。」

「分かった。 先ほどの件と合わせて、王にお願いしてみよう。」

「2つで良いのだな?」

「・・・お父様・・・」

「資金の援助であろう?」

「・・・申し訳ございません。 既にお父様には随分と援助していただいておりますのに・・・」

「良いのだエリザベート。 お前は、アローヘッドの・・・いや第9国のために動いているのだからな。 本当であれば、お前にこそ侯爵位を継がせたいのだが・・・()()()()()()()のだ。 すまないな。」

「いいえ、お父様。 私は侯爵位が欲しいのではありませんので。」

「そうだったな。 しかし・・・本当に惜しいものだ。 兄たちにもう少し器量がある者がいれば良かったのだがな。」

「お父様・・・」

「いや、すまなかったエリザベートよ、今の話は聞かなかったことにしてくれ。 ところで、先ほどの頼みについては、すぐに書状を送るが返事にはしばらくかかるだろう。 その間はアローヘッドに滞在するのであろう?」

「はい。 そのつもりです。」

「何日かはこの屋敷に泊まって行きなさい。 一緒に食事をしながら、お前の冒険譚を聞かせてはくれないか?」

「はい。 お父様がそう仰るのであれば。」

「ありがとう。」

「いいえ、お父様。 私の方こそお父様にはご迷惑ばかりお掛けして申し訳ございません。」


 その後、エリザベートは4日間を侯爵邸で過ごした。

 兄や姉に代わるがわる小言や嫌味を言われつつも、尊敬する父の願いを聞いて滞在し続けた。

 そして、5日目の朝には侯爵の許しを得てカメリアたちの待つ屋敷に戻った。


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