第4話
クエスト用の装備に着替えた私とクーが居間に下りる
「クー、新装備か? ガントレットに・・・剣もか。」
「はいっ! パトリックさん!!」
「あら、パトリックでもそういうの分かるのね。」
「カメリアは、俺の事を何だと思っているんだ?」
「いや、パトリックがそんな事をクチにするなんて思っていなかったからね。」
「それじゃあ、行ってきます!」
「おう、気を付けてな。」
クーが元気よく飛び出していく。
私もクーに遅れまいとして、早足に屋敷を出た。
少し進んだ先で、クーが私を待っていてくれた。
クーに追いつくと、早速手を繋いで歩く。
「エルザさんもパトリックさんも、組紐の事は言ってくれなかったね?」
「ええ、パトリックは気が付かなかったのかも知れないけど、エルザは絶対に気付いていたわ。 それでも敢えて触れてこなかったところを見るに・・・悔しがっていたに違いないわ。」
「でも、組紐はともかくとしても、5人でお揃いの何かを持つって言うのはチームっぽくない?」
「んー。 まあ、そうだね。 そう言うのがあっても良いかもね。」
「でしょ? 何がいいかな? 実用的なものがいいよね?」
「そうだねー。」
私とクーは、ギルドに着くまでの道中、お揃いのモノは何がいいか話しながら歩いた。
一方、カメリアとクーを見送った後のエルザとパトリックは
「確かにエリザベート様の仰っていた通り、揃いの紐で髪を縛っていましたね。 白と黒の・・・変わった紐でしたね。」
「なんでお前はそのことを言わなかったんだ?」
「いえ、エリザベート様が仰るものかと思いましたので・・・」
「ちくしょう・・・カメリアのやつ、わざと見せつけやがって・・・」
「揃いのものが欲しいのでしたら、私たちも何か揃いのものを身に付けますか?」
「お前なあ・・・何が悲しゅうて、お前やゲオルグとお揃いのものを身に付けなきゃならねえんだよ。」
「そうですか?」
「あーもういいや。 ちょっと飲み行くぞ。」
「まだ朝ですが。」
「いいんだよ。 飲んで、アイツ等が戻って来るまで寝るわ。」
「分かりました。 エリザベート様の仰る通りに・・・」
冒険者ギルドに到着した私とクーは、クエストの貼り出された掲示板を見る。
「今日中に戻って来られるようなクエストは・・・まあ、薬草採取とかだね。」
「討伐クエストは無いかなぁ?」
「あるけど、出会えないと時間かかるからね。 報酬は安いけど、薬草採取にしよう。 野獣と出会ったら、それはそれで討伐報酬は貰えると思うし。 まあ、それほど高くはないけどね。」
「じゃあ、そうしよう。」
私たちは、薬草採取クエストを請けて、北の城門から森を目指して進む。
1時間ほども歩くと森に到達する。
この森は、アローヘッド市に近く、人もかなり入っているためか比較的野獣なども少ない。 もっとも、奥に行けばそれなりの野獣に遭遇することはある。
薬草採取クエストは大体常時出ているし、新人冒険者がまず最初に請けるようなものなので報酬は安い。 しかも、街から近い方のものは取り尽くされていて、多少は森の中に踏み込んでいかないとならないので危険がないわけではない。
だが、新人ならいざ知らず、クーや私にとってはこの森で出会う奴等に遅れは取らないだろう。 もっとも、油断はできないけど・・・
しばらく奥地に進んでいくと、薬草の密生地に出会えた。
十分すぎる量が見込めたため、早速採取していると・・・
「リア姉、何か来る・・・」
獣人のクーはさすがに耳が良いようだ。 私も周囲の気配を探る。
「いるね・・・割と大きいのが・・・3・・・いや5頭かな?」
「うん。 そんな感じ・・・近づいてる。」
「クー、戦闘準備。 こっちに来なさい。」
ガサガサ・・・
草をかき分ける音がしたかと思うと、一斉に野獣は駆け出した。
すんぐりしたシルエット・・・しかし、その大きな丸っこいシルエットからは想像も付かないほどのスピードで駆け寄って来る。
「ウルスス・・・」
クーが呟いた。
熊だ。 こんな街に近い場所で、熊の・・・それも群れに出くわすなんて・・・熊って基本群れ無いのでは? なんて言っても、出会ってしまったのは仕方ない。
「ウルススーーーっ!」
クーが叫びながら突進していく。
「クー! 待ちなさい!!」
私は、クーを止めようと叫んだが、もう遅い。
「白光っ!!」
私は、少しでも熊の数を減らそうと白光を斉射する。1発では仕留められない。かといって、白刃氷嵐ではクーを巻き込みかねない。
「金剛盾!!」
一匹の熊と格闘中のクーに向かって、横から飛びかかろうとしていた別の熊の眼前に土の壁を出現させて阻む。 金剛と言っても「固い」という位のもので、金剛石・・・ダイヤモンド製ではない。
最初の白光による攻撃で足を引きずっている熊も含めた、残りの3頭が私の方に向かってきた。
よしよし・・・クーに向かわれるよりずっとやりやすい。
「白刃烈風!!」
この魔法は、私が良く使用する「白刃氷嵐」の風属性版とも言える魔法だ。
周囲に氷のダメージを与えるよりは良いかと・・・一応、私なりの森への配慮のつもりだ。
3頭まとめて光と風の刃で切り刻む。 しかし、動けなくはなったようだが、まだ死んだ訳ではない。
私は、とどめに白光で熊たちの頭部を貫いた。
「クー!?」
熊3頭を屠った後、すぐにクーに視線を移す。
クーは、最初の1頭を倒し、金剛盾にぶつかった熊と戦っている。
「うわああああああああっ!!」
クーは、叫び声を上げながら無茶苦茶に剣を振り回していた。
ケガをしているのか、相手の返り血なのか、クーの体は血に塗れている。
遠当てどころか、型も忘れて力任せに振るった新品のサーベルの刃は、既にボロボロになっているのが私には見える。
熊の動きが止まり、倒れかける所に、クーは渾身の一撃を振り下ろした。
キンッ
甲高い音と共にクーのサーベルが根本から折れた。
クーは、天を仰ぎ肩で息をしながら立ちすくんでいた。
「クー?」
私の呼びかけに、ピクっと体が反応したが、クーは何も答えてくれない。
「クー?」
私はクーの横まで進み、再度クーに呼びかける。
クーはゆっくりと私の方に顔を向ける。その顔は返り血で赤く染まっていた。
「リア姉・・・わたし・・・」
「いいよ、顔を拭いてあげる。」
私がハンカチを出して顔を拭いていると、クーの目から涙が溢れだす。
「り、リア姉・・・やめてよ・・・私にそんな事してもらう資格ない・・・」
「何言ってるのよ。 姉に可愛がられる妹に資格なんて必要?」
「私は・・・薄汚い偽善者だった・・・襲ってくる熊を見て・・・ウルススの一族を憎いって思う気持ちが抑えられなかった・・・口ではキレイごとばっかり言って・・・本当は・・・」
「偽善者なんて言葉も知っているのね。 クー、あなたはやっぱり賢くて良い娘だわ。」
「リア姉・・・私はリア姉が言うみたいなイイ子なんかじゃない。」
「分かった。 じゃあ、私がウルススの一族を滅ぼしてあげる。 それで良いでしょ?」
「・・・・」
「それとも自分でやらないと気が済まない? でも、さすがにクー1人じゃ無理だわね。 ウルススの本家のヤツだけは生かしてクーの前に連れてきてあげるわ。 他の連中は殺してしまうけど・・・それで良いでしょ?」
「嫌だよ・・・リア姉に人殺しして欲しくない。 ウルススの人達だって・・やっぱり殺したらダメだよ。」
「そうなの? 確かに理由もなく殺すのはダメだと思うけど・・・クーには理由があるじゃない? そして、クーの理由は私の理由にもなるわ・・・だから・・・」
「お願い・・・もう止めてよ・・・リア姉・・・そんな事言うの・・・やめてよ。」
「分かったわ。 クーがそう言うならやめるわね。 ほら、ちょうどクーの顔もキレイになったわ。 ケガは・・・大丈夫そうだね。 でも、さすがにコレだと街も歩けないわね。 お湯出してあげるから、服と体を洗いなさい。」
「・・・はい。」
クーの体と服を洗い、服を乾燥させている間、私はタオルを被ったクーを後ろから抱きしめている。
「落ち着いた?」
「はい。 ごめんなさい。」
「クーは、ウルススをどうしたいのか分かった?」
「・・・やっぱり、復讐をしたいとは思いません・・・多分ですけど・・・」
「そう、残念だわ。 クーを脅かすかもしれない存在は、先に排除しちゃった方が良いかと思ったんだけどね。 クーにその気がないなら・・・私の理由も無くなっちゃうわ。」
「冗談でも、そう言う事言わないで下さい。」
「んー、全く冗談って訳でもないんだけどね。」
「ツバキお姉ちゃん・・・こんな私でも・・・一緒にいてくれますか?」
「あれ? 何日か前にも言わなかったっけ?」
「すみません。 もう一度聞かせて貰ってもいいですか?」
「クリスターニャ、私はあなたが嫌だって言っても一緒にいるわ。 トイレにだってついて行くわよ。」
「もう・・・そこまでは言って欲しくなかったです。」
「ふふっ・・・よし、服も乾いたわね。 服も組紐もうまい具合にキレイにできたし。 薬草は沢山取れたし、熊も5頭仕留められたし。 これならクーの新しい剣を買う足しになりそうよね。」
「ごめんなさい。 ツバキお姉ちゃんがあんなに教えてくれたのに、その型も忘れちゃって・・・型が大切だってこと・・・良く分かりました。」
「そうね。 先人たちが何十年・・・何百年も積み重ねて来たものだからね。 結局、型どおりに剣を振るのが一番理論的にも正しいのよ。 ま、たまにいる剣に愛された変態・・・いや、天才がそれを上回ることはあったりするけどね。 そいつらは例外よ。」
「ツバキお姉ちゃんも、その例外なんでしょ?」
「どうだろうね? 私は、型の有用性は認めているのよ。 もっとも、私は一度見たら覚えちゃうけど・・・むしろ、素振りにこそ苦労させられたわ。」
「お姉ちゃんらしい話だね。」
「もう行こう。 早く戻って、もっと良い剣を買おう。」
「うん。 ありがとうツバキお姉ちゃん。 ・・・だ・・・だいすき・・・」
「えっ? なに? もう1回言ってくれる?」
「も・・・もう1回なんて言えません。」
「え~?」
アローヘッドへの帰り道でも、武器屋を周っている間も、お屋敷に戻る間も、クーはずっと私の手を握っていた。
だけど、手の繋ぎ方が今までとは違い、指と指を絡ませる・・・いわゆる恋人繋ぎに進化していた。
平静を装っていたものの、私は嬉しさのあまりキュン死するのではないかと心配だった。




