第3話
クーの剣と籠手を新調した後、クーが早速新しい剣を使ってみたいと言うので、ギルドの訓練施設に寄る。
およそ2年ぶりとなるアローヘッド冒険者ギルドであったため、知らない人も多かったが(いや、元々そんなに付き合いのある人はいなかったけど)、見たことのある古株の冒険者やギルド職員はいた。
彼らの中には、私の姿を認めて話しかけて来る人もいたが、私は適当に話を合わせながら、とにかく私が『氷嵐の魔女』だってことは言いふらさないように言い含めた。
訓練場で、1時間以上思い切り剣を振り回してきたクーが水浴びをして戻って来た。
まだまだ暑い時期であるとはいえ、髪が濡れたままだとよろしくないと思い、ギルドの隅っこで私の魔法を使って髪を乾かす。
そして、その髪を三つ編みに編んだ上に、例の組紐で先端近くを縛る。
最近、ようやく三つ編みが出来る位にクーの髪が伸びて来たので、とうとうお揃の組紐を使う時が来たのだ。
私の髪は後ろで縛っているだけだが、その縛った髪を前側に垂らして、組紐を見えるようにする。
見る人が見れば、お揃いだって分かってくれるだろうか?
それから、食事処で夕食をとってから屋敷に戻る。
さっきも運動をしてきたのに、クーは屋敷に戻ってからも自主トレを怠らない。
私は、クーの自主トレを眺めた後、いつものように仲良くお風呂を済ませた。
エルザたちは、誰1人帰っては来ていなかったけど、早々に部屋に引きこもる。
「ねえ、クー?」
「なんですか?」
「私の秘密を、もう1つ教えてあげるって言ったら聞きたい?」
「え? まだ秘密があるの?」
「そうだよ。 まだいくつかはあるわよ。」
「知りたい。」
「分かったわ。」
私は、故郷の里から出た時以降、ほとんど常時持ち歩いている白木の杖(大分汚れてしまって、もう白木の杖とは言い難いけど)の持ち手に巻いている布を外し、柄を引き抜いて見せる。
現れた『直刀白鷺』の刀身を見たクーの目が輝く。
「わぁ・・・なんですか? リア姉の杖は剣だったの?」
「そうよ。 この剣・・・いえ、この刀の名前は『白鷺』って言うんだ。 私の生まれた里の宝物の1つだったの。」
「カタナ・・・? シラサギ?」
「そう。 私の国で良く使われているこういう形の剣のことを刀って言うの。 白鷺は・・・鳥の名前だね。 この国で言うと、イーグレット? ホワイトイーグレットかな?」
「そうなんだ・・・なんだか凄く・・・きれいな剣・・・いや、カタナだね。 白く輝いて・・・まるで、リア姉みたい。」
「そうかしら?」
「うん。 普通の剣よりも、私のカトラスやサーベルに似ているね。」
「そうだね。 私が最初にクーにカトラスを勧めたのも、刀に少しだけ似ているって思ったからなんだよね。」
「そうなんだ・・・」
クーの瞳は、いまだ白鷺を食い入るように見つめていた。
「やっぱり、リア姉は剣術もかなり凄いんだよね?」
「うん。 まあ、それなりにね。 1対1の真剣勝負だったら、クーやエルザたちにも負けないと思うわ。」
「リア姉は、ホントになんでもできるんだね。」
「そうでもないわよ。 クーも知っていると思うけど、私は体力がないからね。 1対1じゃなかったら私の勝率は、もの凄く下がっちゃう。 2人くらいならなんとか出来るかもだけど、3人相手ならまず勝てないでしょうね。 遠当てだって、クーみたく何回も撃てないわ。」
「でも、リア姉の本職は魔法使いでしょう? リア姉が本気になれば街だって壊しちゃうんだよね?」
「それは、例え話だけど・・・まあ、出来ない気はしないわね。」
「リア姉、前に私が言った事覚えているよね? 強者は広い心を持つべきだって。」
「もちろん覚えているわ。」
「そっか、それなら良いんだけど・・・私は、リア姉に人殺しなんてして欲しくないんだよ? 私たちは冒険者だし、悪人と戦うことだってあるけれど・・・本当は・・・」
「うん、ありがとうクー。 私だって、別にむやみやたらと人を殺したいなんて思わないけど・・・必要な時には、躊躇はしないわ。」
「・・・・」
「クー、ギュッとしていい?」
「いっつも聞かないのにするでしょ?」
「そうだけど・・・今日はクーに良いって言ってほしいわ。」
「いいよ。」
「ありがとうクー。」
「うん。」
私は、今は私の顔を真っ直ぐに見つめるクーを抱きしめる。
「いつか、私がまた短気を起こしそうになったら・・・クーが止めてね?」
「私じゃ本気のリア姉を止められないよ。」
「ううん。 多分クーにしかできないと思うわよ。」
「もしそうだとしたら・・・ずっと一緒にいてくれますか?」
「クーが嫌だって言っても、クーから離れないわよ。 なんならトイレにだってついて行くわ。」
「え? それはちょっと・・・遠慮願います。」
「うふふ・・・冗談だよ。」
「ホントかなぁ?」
それから4日間、私はクーと2人だけの時間を過ごした。
5日目の朝、目覚めて1階に下りると、エルザとパトリックが居た。
服装は、普段のラフな格好に戻っている。
「あら、エルザ、パトリックお帰りなさい。」
「エルザさん、パトリックさんお帰りなさい。」
「おう、カメリア、クー、久しぶりだな。」
「・・・・」
パトリックは、相変わらず無言で頷くだけだ。
エルザは・・・少しやつれた様に見える。
「用件は済んだの?」
「まあ・・・一応な。 ゲオルグは帰って来たか?」
「さあ、私たちは会っていないわ。 私たちがこの屋敷にいないときに戻っていたかはわからないけど。」
「そうか、やはりゲオルグでも難しいか。」
「なんの話よ。」
「悪いカメリア、まだ未確定だから・・・もうちょっと待ってくれるか?」
「分かったわ。」
「最近お前聞き訳がいいな、どうしたんだ?」
「クーに色々と・・・叱られたり、癒されたりしたからね。 今の私は、慈愛の女神の様に広い心を持っているのよ。」
「そ、そうかい・・・クー、いつも悪いな?」
「え? 私が特にしたことってないですけど・・・」
「いやいや・・・お前は、この世で唯一荒ぶる邪神を鎮める事ができる巫女と言っていい。 これはお前の力だから誇っていいぞ。」
「エルザの言うとおりだ。」
珍しくパトリックまでもが口を開いて、うんうんと自分で納得したような素振りをする。
「はあ・・・ありがとうございます。」
「それで・・・そのゲオルグはいつ戻って来るの?」
「そうだなあ、最低でも1週間以内には1度は帰るように言ってあるから、明日か明後日くらいには戻って来ると思うがね。」
「そう。 じゃ、それまでは特に予定は無い訳ね?」
「そうだな・・・アタシはちょっと・・・いや、かなり疲れたから、少しゆっくりさせてもらうわ。」
「分かったわ。 食事はどうするの? クーが作りたいって言っているけど?」
「ああ、悪い。 ちょっと不規則になるかもしれんから、アタシ等のはいいよ。 ゴメンなクー。」
「分かりました。 それなら、簡単なクエストを請けて見てもいいですか?」
「え? クーどうしたの?」
「最近少しクエストから離れているんで、ちょっとやってみたいです。 リア姉、一緒に行ってくれる?」
「いいわよ。 そうね・・・北の森での採取クエストとかなら1~2日でできるのはあるわね。 構わないでしょエルザ?」
「まあ、北の森なら大丈夫か。 クー、カメリアが森を焼き尽くしたりしないように注意してくれよ。」
「エルザ・・・あんたねぇ・・・」
「分かりましたエルザさん、リア姉、早く着替えて行こう!」
「そうだね。」
ドタドタと2階へ上がって行くカメリアとクーを見送った後
「元気良いなアイツらは・・・」
「そうですね。」
「見たかパトリック?」
「何を・・・でしょうか?」
「あの髪を縛っていた紐だよ。」
「紐・・・ですか?」
「ああ、2人してお揃いの紐でさ・・・やらしいったらないぜ。」
「紐には気が付きませんでしたが、彼女たちは仲が良いのですし、別にいやらしいことは無いのではありませんか?」
「アタシだって髪長いんだからさ・・・揃えるならアタシの分も買っとけっての。」
「・・・・」
パトリックは、女というのは相変わらず良く分からないものだと思うと同時に、自分の主人も良く分からない女なのだと、改めて思っていた。




