第2話
皆で朝食をとりおえて、私とクーで後片付けをしている時だった。
「おい、カメリア、クー。」
「なに?」
「はい、エルザさん。」
「昨日ちょっと話したと思うが、アタシ等は今日これから用事があって出かけて来る。 悪いが、誰と会うかは教えられねぇ・・・」
「そうだったわね。 行ってらっしゃい。」
「あれ? また突っ掛ってくるかと思ったのに・・・」
「あなたの秘密主義にいちいち反応していたら疲れちゃうでしょ? 間違って殺してしまうかもしれないし。 私とクーに害が及ばない限りは・・・まあ・・・今はどうでもいいわ。 いずれ話してくれるんでしょう?」
「あ・・・ああ、そうだな。 もの言いは、相変わらず物騒だけど・・・」
「クーに感謝しておきなさいよ?」
「ああ、そうだな。 クー、お前のお陰でアタシを含めて何人もの命が救われている。 本当にありがとうな。」
「あの・・・リア姉、エルザさん・・・この手のやり取り、何度か聞きましたけど・・・何なんですか?」
「いいのよクー、エルザの言っている事は、まるきり間違っているという訳でもないわ。」
「そうだぞクー、お前はそのままでいてくれ・・・この邪悪な魔女の殺戮衝動を押しとどめられるのは、お前だけなんだからな。」
「もー。 エルザさん、わざわざリア姉を挑発するようなこと言わない。」
「はい、すみませんクーさん・・・っと、冗談(?)はさておいて・・・アタシとパトリックは、ヘタすると数日は戻れないかもしれない。 ゲオルグにも別件で動いてもらうから、お前ら2人になるけど良いよな?」
「あら、そうなの? ありがとうエルザ。」
「ちっ、ありがとうってなんだよ・・・家のカギは預けておくから、出かけるんなら戸締り忘れるなよ?」
「じゃあ、準備してくるわ。」と、エルザたちが2階に上がって行ってから、そこそこの時間が経っていた。
その間に、ゲオルグは既に出かけてしまった。
「エルザたち、随分時間かかっているわね? 何をやっているのかしら?」
「そうだねー。」
「何日かはクーと2人きりになりそうだから、ご飯は外で食べようか?」
「え? 私、作るよ?」
「色々な種類のお料理を食べに行かない? クーのレパートリーも広がるかもでしょ?」
「あー、うん。 でもお店で出て来るようなお料理は、私には無理だよ。」
「いいのよ、凝った料理じゃなくって・・・味付けとか、ヒントになるようなモノはあるかもでしょ?」
「そうだね。 じゃあ、そうする。」
「おう、お前等まだいたか、アタシ等も行って来るからよ。」
エルザの声に振り向く・・・と!!
エルザは、正しく高級貴族といった出で立ちをしていた。 ドレスではなく、男の貴族のような格好だが、女性らしさは損なわれてはいない。
パトリックも、貴族の従者というようなスーツ姿だった。
「な・・・アンタ、本当に何者なのよ。」
「エルザさん、とっても素敵です。 パトリックさんもカッコいいです。」
「おう、ありがとうな。 そんじゃあ行ってくる。 くれぐれも問題は起こさないでくれよな。」
「あんたにだけは言われたくないわ。」
「そうかよ。 じゃあクー、毎度お前に頼りっぱなしで悪いが、ママの面倒見ておいてくれよな。」
「はい。 任せてください。」
エルザとパトリックを見送った後
「クー? お昼には大分早いけど・・・なにしよっか? クーはなにか買いたいものとかあるかしら?」
「そうだなあ・・・グローブを買換えたいかな?」
「そう。 それじゃあ見に行きましょうか。 クーの剣も結構くたびれて来たわよね。 剣も探してみようか?」
「剣は、まだいいよ。」
「どうしてなの?」
「だって・・・この剣は、ツバキお姉ちゃんに初めて買ってもらったものだもの。 私にとって宝物なんだよ。 もちろん、グローブだって大切だけど、さすがにこっちはもうダメっぽいし。」
「クー、あなたって本当に可愛いわ。 でもね、大事にしてくれるのは嬉しいけど、もし戦いの最中に折れちゃったりしたら・・・それでクーに何かあったら、お姉ちゃん悲しいわ。 別に捨てなきゃいけない訳じゃないし、新しいの買ったっていいんじゃない?」
「・・・・」
「クーは身長も伸びたし、力もついたから、もっと長い剣でもいいかなって思うけど。」
「はい。」
「まあ、とりあえず行ってみて、気に入ったのがあったら買えばいいじゃない。」
「そうだね。 じゃあ、一緒に行ってくれる?」
「もちろんよ。 お姉ちゃんに任せて頂戴。」
そして、私はいつものように、クーと手を繋いで商店街に向かう。
お屋敷でクーと話している内に、お昼近くになっていたので、先にお昼を食べることにする。 お昼は、なんとかクーを口説き落として、野菜中心の食事にすることができた。
これで、クーの野菜レパートリーが増えるといいんだけど・・・
「ごめんリア姉、ちょっとお手洗い行ってきてもいい?」
「私も行こうか?」
「もー、リア姉はここで待っててよ。」
「はーい。 いってらっしゃい。」
クーが席を立った後、私は食後の紅茶を飲みながら、窓から外を眺めていた。
「あら? あの娘・・・」
私の眼に止まったのは、エルフの女性と一緒に歩くトラ獣人の娘だった。
少しくすんだ金色のハネまくった髪の毛、大きな瞳の愛くるしい顔立ち、日に焼けた健康そうな肌、背は結構低く見えた。
大きな身振り手振りをしながら、エルフ女性に話をしている様から、とても元気が良いのであろうことが見て取れた。
ほんの10数秒だったけど、彼女が見えなくなるまで目で追ってしまった。
「クーと同い年くらいかしら? クーとは違った感じだったけど、可愛らしい娘だったわね・・・トラ獣人って、皆可愛いのかしら?」
「リア姉、お待たせしました。 もうお店出る?」
「そうだね。 行きましょうか。」
「はいっ!」
私は、クーには先程見たトラ娘のことは言わなかった。
別に隠すことでもないけど、取り立てて言う程のことでもないと思ったから・・・いや、違うな。
万が一にでも、クーの行方不明の姉だったら・・・って思ってしまったからだ。
クーと同年代か、むしろクーよりも若いのではないかとも感じたあの娘が、クーの姉であるはずはないと分かっていたが、わずかでもクーがいなくなる可能性を考えたら怖くなってしまった。
(クーだったら、こんな風には考えないんだろうな・・・)
「どのお店がいいかな?」
「そうだね、でも何件行ってもいいのよ?」
「なんだか、ちょっとワクワクして来ちゃった。」
「そう? それなら良かったわ。」
「どうしたの? リア姉、なんか元気ない?」
「ん? そんなことないわよ。 じゃあ、まずは1件目に入っちゃおうか。」
「はいっ!」
何件かお店をまわって、無事に買い物を終える。
グローブは、ただのグローブではなく、ガントレットを買った。
剣は、クーが片刃の剣を希望したので、前と同じようなもの(カトラスと言うらしい)を探すが、見つけられなかった。 その代わりにサーベルと呼ばれる片刃の剣は、そこそこ数があったのでそれにした。
サーベルは、カトラスよりもさらに刀に近い形状に見えた。 クーは、サーベルの持ち手に付いているナックルガードが気に入らなかったようで、鍔のタイプのサーベルを探して買った。
最初は剣の買い替えを渋っていたクーであったが、やはり気に入ったものを手に入れたことは嬉しかったのだろう。
帰り道は、その剣を大事そうに抱えて、ニコニコしていた。




