第1話
私が身を置いている冒険者パーティ『深紅』は、およそ2年ぶりに活動拠点とも言えるアローヘッド市に帰って来た。
活動拠点と言っても、拠点となるホームがある訳ではないんだけど・・・
もしかすると、またエルザの『伝手』で、無料で住める家が出て来るのではないかと期待はしている。
「わぁ・・・これがリア姉たちの本拠地アローヘッド市ですか? 大きさはアッパー・リブやアローストリング市と同じくらい? でも、なんかこっちの方がキレイな街って感じがするね。」
クーの尻尾がブンブン揺れている。 獣人のこういうところはカワイイ・・・それがクーならなおさらだ。
表情は取り取り繕うことはできても、尻尾の感情を制御できている獣人は中々いないように思える。
まぁ、クーは感情を隠している訳じゃないけどネ。
「そうだね、クー。 四つの城塞都市は大体同じくらいの大きさなんだと思うけど、アローヘッド市の領主さまオルブライト候がとっても偉い方で、街並みの整備にも力を入れているからね。 アッパー・リブどころか、サジタリアよりもちゃんとしているんじゃないかしら? 緑もちゃんと配置してくれているしね。」
「うん。 他の街・・・特に王都は、緑が少なかったもんね。」
「今は北東の方に生産系の仕事をしている工房を纏めるために、城壁を増築して新しい地区を造っているのよ? まあ、もう何年も前からやっているようだけどね。 完成まではもう少しかかるんだって。」
「ふぅん・・・そうなんだ・・・」
「そうなのよ。」
「エルザ、アローヘッド市にはどれくらい滞在する予定なの? あと、宿泊するところとかって決めているの? ・・・って、何ニヤついているのよ?」
「いや、べっつに~。 アローヘッドにどの位滞在する予定かって? そうだな・・・そんなに長居するつもりはないんだけどな・・・アッパー・リブでは働き詰めだったし、少しのんびりして・・・そうだな2~3週間ってとこか?」
「そうなの? じゃあ、宿屋を探さないといけないわね。」
「そうだな~。」
(あれ? 伝手は出て来ないんだ・・・それにしても、何をそんなに浮かれているんだか・・・)
「せっかくだし、のんびりするのなら・・・お風呂のある所がいいわね。」
「風呂か・・・風呂のある宿屋は高いしな・・・しゃーねぇ、ちょっと伝手を当たってみるわ。」
(お、来た来た・・・いつもの伝手が・・・)
「あら、アローヘッド市にも伝手があるの?」
「このエルザさんの美貌があれば、大抵のことはなんとかなるだろうよ。」
「そうね。 お願いするわね、美しいエルザさん。」
「お前な・・・ま、いいや。 ゲオルグ、手綱頼めるか? アタシはちょっと行ってくるわ。 お前らは、ギルドに寄って素材換金と討伐報酬を貰ってきてくれよ。 あと晩飯の買い物とかして・・・1時間くらいしたら、例の屋敷に来てくれないか?」
「おう。 了解だ。」
「エルザさん、今日は私が夕食作っても良いですか?」
「クー、無理しなくてもいいぞ。」
「いえ、ご迷惑でなければ、私が作りたいんです。」
「じゃ、頼むわ。 肉料理にしてくれよ。」
「はい。」
「じゃ。」と、エルザは1人で馬車を下りると、どこぞに消えて行った。
ギルドでの用を済ませて、夕食の買い出しも済んだ後、ゲオルグが操る幌馬車は、少し高級な住宅地に入っていく。
(おっ、これは少し期待できる伝手かも?)
なんて思っていたら、馬車が止まったのは、アローストリング市の時ほどの豪邸ではなかったが、十分に立派なお屋敷だった。
屋敷の前には、先に着いていたエルザがいた。
私と、クーとパトリックが馬車を下りると、ゲオルグは1人で馬車に乗ってどこかへ行ってしまった。
「ゲオルグさんはお出かけですか?」
「さあ、私は知らないわ。」
「ゲオルグは、馬を世話してくれる所に預けに行ったんだよ。 この家には馬2頭を置いておく場所もないしな。」
「パ、パトリックさん!? あ、ありがとうございます。 教えていただいて・・・そっか、そうですよね。 そういう所に気が回らないのは・・・私がまだまだ世間知らずだってことですよね。」
「まあ気にするな。 おいおい覚えて行けば良いだろう。」
「はい。 これからも色々教えてくださいね。」
「ああ。」
パトリックがやさしく微笑んでいたように見えた。 あのパトリックすら落としてしまうなんて・・・クーの底知れぬ力を見せつけられたような気がした。
1階には、大きな広間と食堂兼居間と台所・・・2人なら入れるくらいのお風呂・・・そして、応接間まである。
2階には、部屋が4つ・・・いや、1つは倉庫みたいな感じかな。 服が結構沢山置いてあるように見えた。
アッパー・リブの家と同様に、この屋敷も誰かが手入れをしているように感じる。
いつの間にか帰って来ていたゲオルグも含めて、クーが作ってくれた夕食を全員で食べ終えた後
「クー、お風呂入ろう。」
「ごめん、リア姉。 今からトレーニングするから、1人で入ってー。」
「え? ヤダ。 じゃあ終わるの待ってるわ。」
「じゃあ、アタシと入るか? ルーナママ。」
「え? ヤダ。」
「なんでだよ?」
「私は、クーと一緒に入りたいのであって、2人で入りたい訳じゃないわ。 大体、アンタと2人で入れるほど広くないじゃないの、お風呂。」
「ちぇっ。 胸ばかりか心も小さいヤツだな。」
「口は災いの元って言葉しっているかしら?」
「おっと、悪い悪い・・・じゃ、アタシは先に風呂入って寝るわ。 明日は早いからな。」
「そうなの? 何か用事?」
「そうだよー。」
そう言いつつ、エルザはお風呂に向かって行く。 またいつもの隠し事だろう。
「・・・よんじゅうご・・・よんじゅうろく・・・よんじゅうなな・・・」
真剣にトレーニングをしているクーを眺めながら思う。
(クーは背も伸びているし・・・筋肉もスゴい付いてきている。 む・・・胸だって、この短期間で・・・年の割に・・・大きいわよね? あれれ? なんだかエルザっぽくなって来てない!? 肌は白いままだけど・・・あれで日焼けなんかしたら、私の妹って言うよりエルザの子供みたいじゃない? 髪質もエルザっぽいし・・・)
「リア姉、リア姉ってば~。」
「はっ! え!? 何? どうかした?」
「トレーニング終わったよ。 お風呂行くんでしょ?」
「え? でもエルザが入っているんじゃないの?」
「エルザさん、とっくに上がってお部屋に行ったよ?」
「あれ? そうなの? もしかして結構時間経ってる?」
「うーん。 1時間は経っていない・・・かな?」
「い・・・いちじかん!?」
「どうしたの?」
「いや~、我ながらクーのこと好きすぎて、時間を忘れて眺めていたわ。」
「またリア姉は、そう言う事を言う・・・」
「だってホントだもの。 クー大好きよ。」
「ちょ、ちょっと、今くっつかないで・・・汗くさいから~」
「くさくなんかないよ。」
「もー、早くお風呂行こう。」
「そうだね。」
クーと仲良く入浴した後、2階の部屋に上がってベッドに入る。
先に眠ってしまったクーの寝顔を見ながら、改めて考える。
私は、自分で思っている以上に重症なようだ。
実妹・・・未沙柄のことも大好きだったけど、未沙柄は近くに寄って来てくれなかったし、当時の私も自ら近づこうとはしなかった。 だって、無理に近づいたら、余計に嫌われると思ったし。
それに、里を滅ぼした犯人を追うのが、里の長の娘としてやるべき事だと思ったから・・・ましてや、その犯人は・・・兄真鞘である可能性が高い・・・犯人でなかったとしても、少なくとも兄は何かを知っているハズである。 だから、未沙柄を巻き込みたくは無いと思ったから、未沙柄は故郷に残してきた・・・のだと思う。
だけど、もし今同じような状況になったとしたら?
クーを手放すなんてことは考えられない。 ちょっと前には、クーを置いて出て行こうとしたこともあったけど・・・あの時以降、いや、クーが冒険者になりたいって言った辺りかな? 私は変わった?
妹としてのクーが好きなんじゃなく、クーの事が好き・・・とか?
いや、クーの事は大好きだけど・・・その、家族愛みたいなのじゃなくて、性的に?
いやいやいや・・・それはやっぱり違うように思う。
クーのやさしくて暖かい人柄が・・・私には欠けている人間性が眩しく見えるから?
うん。 やっぱりそっちの方がしっくりくる気がする。
私が人であり続けるためには、クーは絶対に必要なんだ。
改めて、クーを守って行こうと心に誓って、私も眠りについた。




