第12話
アッパー・リブでの3回目の合同クエストは、これまでの街道の巡回ではなく、街道を外れてブルグマンシアの拠点を探す側に回された。
なんでも、最近は街道沿いでの強盗団の活動がピタリと止んでしまっているらしい。
それに、第7国の政情が落ち着いたのか、出国が難しくなったのか・・・難民の数も激減しているとのこと。
広大な街道西側の荒野で、ギルドから指定された付近の探索を行ったが、幾度か野獣と遭遇したくらいで特に収穫はなかった。
ちなみに、今回一緒になったパーティは、男女混合の特筆すべき点のないパーティだった。従って、特に可もなく不可もなくであった。
「第9国での活動が、割に合わないと思ったのかも知れねぇな。」
3度目のクエストを終え『伝手』のホームに戻ると、ゲオルグがそんなことを口にした。
騎士団の派遣などは無かったものの、今回の件、第9国は多数の冒険者を動員して、強盗団の活動を少なからず妨害したはずだ。
強盗団が自身の損害に見合わないとして、撤収した可能性はないとは言えないのかも知れない。
一方、多数の冒険者を動員したからこそ、それに伴い多額の報酬が必要になったはずだ。
その報酬の出所は・・・アッパー・リブ市か第9国王家のどちらか・・・或いは両者で折半などだろうか。
今回のクエストからギルドに戻ると、一連のクエストは目に見えて少なくなっていた。
アッパー・リブ市が頭を悩ませていた、強盗団による被害と難民流入が止まったのだから、これ以上余計な費用はかけたくないってのは分かる。
なんともスッキリはしないが、ブルグマンシアが活動場所を移したのだとすると、ここに留まる理由はないように思えた。
「ここいらでのブルグマンシアの活動は、しばらくは無くなるかもな。」
夕食の途中にエルザが話し出す。
エルザの言葉に、皆沈黙で肯定の意を示した。
「そうだとしたら、これからどうするつもりなの?」
少し間を置いて、私はエルザに今後の方針を聞いてみた。
「随分長い寄り道をしちまったが、一旦はアローヘッドに戻ろうと思っている。 お前らはなんか意見があるか?」
「俺はそれでいいぞ。」
「・・・・・・」
ゲオルグがエルザの意見に同意する。パトリックも声にはしないものの、頷いていたから同意しているようだ。
「もともとはそういう話だったし、私も異論はないわ。 クーは?」
「私は・・・ブルグマンシアが気にはなりますけど・・・確かにしばらくはこの辺の活動は無いように思えます。 ですから、アローヘッド市には是非行ってみたいです。」
「そうか、じゃあ明日と明後日は休みにして、3日後に出発しようぜ。 アタシは、アローヘッドか王都に向かう護衛クエストでも探してみるわ。」
「分かったわ。」
「そうだ、クー。 明日と明後日はメシの準備はいいからよ。」
「えっ!?」
エルザの言葉に、クーが少しだけ不安げな顔をした。
「なんでよ? クーのご飯に文句でもあるの?」
「いちいち突っ掛るなよルーナママ。 最近はずっとクーに頑張ってもらっていたからな。 そんなに根詰める必要はないってことだよ。」
「そうなの?」
「まあ、アッパー・リブ市ともお別れだからな。 少し外で飲みたくはあるがね。」
「そっちが本音ね。 まあいいわ。 それなら私は、クーと好きにさせてもらうわ。」
「おう、そうしてくれ。 クー、ママのガス抜きをしておいてくれな?」
「あははは。 リア姉のことは、私に任せてください。」
「アタシ等、帰りの時間が遅くなったりもすると思うから、クーにカギを渡しておく。 出かける時は、戸締り忘れないでくれよ?」
「分かりました。」
「ちょっとエルザ、なんでクーなの? そう言う事なら私に渡しなさいよ。」
「お前ら、いっつも一緒なんだからどっちでも同じじゃねぇかよ。」
「だったら年長の私に渡すのが普通じゃない?」
「はぁ。 お前ってヤツは・・・まったく。 お前は天才で、なんでも出来るんだろうけどな。 クーの方が人として信頼できる・・・なんて言ったら怒るだろ?」
「・・・そうね。 そんな風に言われたら怒っていたかもね。」
「あれ? 怒らないのか?」
「だって、私のクーがあなたに信頼されているって事よね? それは・・・私には嬉しいことだと思うわ。」
私には、人の心が無い・・・いや、全く無い訳ではなく、大分欠けているって言った方が良いだろうか。
その欠けている部分を、クーが持っているように思うからだろうか? 真面目なところ? やさしいところ? 広い心? どれも正解だけど、そうじゃない気もする。
1つはっきりと分かるのは、クーはいつも私の欲しい言葉をくれるってことだ。 大層な言葉ではない。 他愛のない会話の中での話だ。 だけど、それがとても心地良い。
皆は私の表面的な・・・外見や強さしか見ていないのに、クーは私の内面を感じとってくれているように思う。
だから、私が貶されるよりも、クーが褒められるのが嬉しかった・・・のだと思う。
「そ、そうか? なんだかちょっと肩透かしを食らった気もするが・・・まあいいや。」
「そうね。 クーに感謝しなさいよエルザ。」
「えっ? ああ、なんかありがとうなクー。」
「え? え? なんですかリア姉、エルザさんも。 私なにかしましたか?」
それから2日、宣言以上にエルザたちは家に戻ってこなかった。
また私を除け者にして何かやっているのかとも思うが、今は全然気にならない。
2日間エルザたちとは、ほとんど顔を合わせることもなかったが、そのお陰でクーと思い切りイチャイチャできた。
エルザたちには、むしろ感謝しているくらいだ。
そして、その翌日。
なんだかんだで、3月ほど滞在していたアッパー・リブ市を後にする。
アローヘッド市を目指すにあたり、商隊護衛クエストは請けなかったようだ。
代わりに「今後も使うかもしれないしな。」と、エルザはどこから手に入れたものか、2頭立ての幌馬車を持ってきた。
また例の『伝手』かとも思うが、これはむしろありがたい。
自前の馬車による移動は想定外であったため、街でさらに物資の補充を済ませてから出発する。
エルザたち3人は、馬の扱いも心得ているので御者は連中に任せて、私はクーとイチャつこうと思っていたが、クーは積極的に馬の乗り方や馬車の扱いを教わっていた。
私の思い通りに動いてくれないクーもカワイイなあ・・・なんて思ってしまう。
先日色々考えていたけど、要はクーの事が好きで好きで堪らないだけじゃないかって、セルフ突っ込みを入れてしまう。
もちろん性的な意味ではない。 本当に。
まあ、それでも良いじゃないか。 私にも他人に執着することができる事がわかったんだから。 それって、とても人間っぽいよね。
馬車は、王都を経由せずに直接アローヘッド市を目指す。
千剣山脈を常に左手に望みつつ進むかたちだ。
道はあるが、先日まで見ていた街道のように整備された道ではない。
千剣山脈が近いこともあり、魔獣・野獣とは何度も遭遇したが、気分の良かった私にとってはなんの障害にもならなかった。
途中には小さな町や村がいくつかあるが、その町や村にいちいち立ち寄っては、物資の補充のほかにブルグマンシアによる痕跡が見られないか確認しながら進む。
およそ2月近くかかって、私たちはアローヘッド市に到着する。
アローヘッド市を離れてもうすぐ2年になろうかという、新暦3,170年8月も終わりの頃だった。
クーと出会ってからもそろそろ1年。 昨年と同様にまだまだ暑い日が続いていた。
~第6章 カメリアとクー3 終わり~




