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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第6章 カメリアとクー3

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第10話

 私とクーは、ここでの私たちの部屋となった、2階の1号室に入る。

 まだ眠るには早い時間であったので、私はベッドに腰掛けて私の前にクーを座らせると、後ろから腕を前に回して引き寄せる。


「クー、ごめんね。 私、エルザたちが私に対して秘密が多いのに頭に来ちゃっていたみたいで・・・その・・・ちょっと過激なことを言っちゃった・・・かも。」

「そうだよ。 リア姉は何でもできて、誰よりも強いのに辛抱が足りないよ。 強者はもっと広い心を持つべきだと思うけどな。」

「はい。 反省します。」

「うん。」


「それにしても『クリスターニャ』か・・・クーにぴったりの可愛い名前だね。」

「そう? そう思ってくれるんだったら嬉しいな。」

「クーが本当の名前を教えてくれたから、お返しに私の本当の名前を教えてあげる。」

「え!? あ、そうか。 リア姉はこの国の人では無いんだもんね。 『カメリア』は、この国用の名前なんだね。」

「そう。 私の本当の名前は『金岡鍔姫』って言うの。 この国風に言うと『ツバキ=カネオカ』になるかな。」

「ツバキ・・・カネオカ・・・」

「クーは『カメリア』って植物知ってる?」

「いいえ、お花の名前だってことくらいしか・・・見たことはないかな。」

「そっか。 中央大陸ではあんまり見ないからね。 カメリアは、もともと私の生まれた国の原産なんだって。 私の国では『椿』って言う名前なの。」

「なるほど・・・同じ花の名前なんですね。」

「それがね、実はそうじゃないんだ。 私の名前のツバキと樹のツバキは、声にすると一緒なんだけど、文字で書いたら全然違うの。」

「へぇー。 リア姉の国では複数の種類の文字が使われているんですか?」

「うーん。 ざっくり言うと3種類だね。 内2つは種類が少ないし、書くのも簡単なんだけど、もう1つは種類がものすごく多くてね。 読み方が同じなのに意味が違うなんてのが沢山あるし、覚えるのも書くのも結構大変。」

「そうなんだ・・・良かったら、時間がある時にリア姉の国の言葉や文字を教えてくれませんか?」

「ホントに? クーが知りたいんなら何日でも着きっきりで教えちゃう。」

「約束だよ?」

「うん。」

「それにしても・・・ツバキですか・・・」

「私の名前がそんなに変?」

「ううん、違うの。 ツバキ・・・『バ』を抜いたら『ツキ』になるでしょ? 私がリア姉と初めて会った時、月の女神ルーナさまに似ているって言ったの覚えてる?」

「そ、そうだったわね。」

「リア姉の名前には『ツキ』って言葉が入っているんだなぁって思ったんだ。」

「ホントねぇ・・・」


 クーに言われるまで、考えもしなかった。 以前にルーナの話が出た時には、私の母の名前が、ちょっと無理やりに考えると『るな』になるかも・・・なんて思っていたが、あろうことか自分の名前にも『つき』の字が入っていたことに気がつかなかったなんて・・・

 偶然と言うか、無理やりな結び付けだとは思うけど・・・ちょっと、得体の知れない恐ろしさの様なものを感じてしまった。


 私は、そんな事を考えながら黙ったまま、かなりの時間クーを抱きしめていた。



「それはそうと、そろそろ離してもらえますか?」

「だーめ。 今日はもうクーから離れないって決めちゃっていますので。」

「そうなの?」

「そうなの。」

「じゃあ、仕方ないね。 今日のリア姉は甘えん坊さんだなあ。」

「そうだね。 ごめんね。」

「いいよ。」

 私は、クーを腕に抱いたまま目を閉じる。

 今日は少し不安定で、波立っていた私の感情が急速に凪いで行くのが感じられる。

 私は、眠る時間までずっとそのままでいた。



 次の日の朝、すっかり調子を取り戻した私は、クーを起こして一緒に1階に行く。

 居間には、パトリックが1人でいた。


「お早う、パトリック。 昨日はごめんなさいね。 ちょっと不安定になっていたみたい。」

「そうか? もう大丈夫そうなのか?」

「ええ、クーのお陰で、もやもやは無くなったわ。」

「そうか。 クー、お前は凄いな。 カメリアを鎮められるのはお前だけだ。」

「あははは・・・パトリックさんでも冗談を仰るんですね?」

「いや、冗談を言ったつもりは全く無いんだが・・・」


「それで、エルザは?」

「ああ、明日にまたクエストを請けるからって、ギルドに行ったぞ。」

「そうなのね。 じゃあ、今日もお休みってこと?」

「そうだな。」

「じゃあ、私はクーと出かけて来るわ。 いいでしょクー?」

「はぁい。 リア姉、私、マジックバッグが欲しいんだけど。」

「そうだね。 じゃあ、まずはマジックバッグを見に行こうか。」

「パトリックさん行ってきます!」

「ああ、気を付けて行きなさい。」



 私とクーは、2人で魔法具店を目指して歩く。

 手をつなぎたい欲に駆られている私の気持ちを察したものか、何も言わずにクーは私の手を取ってくれる。


 ああ・・・本当にクーは、私の理想の妹だわ。

 変に意識せずに素直に接していれば、未沙柄ともこんな風に仲良く歩くこともできたのだろうか?



 メインストリートを目指す途中で、ひっそりと営業している魔法具店が目に入った。


「あのお店見てみる?」

「え?・・・ああ、あそこですか? リア姉、よく見つけたね。 あの店構え・・・なんか掘り出し物の予感がするね。」

「そうかもね。 じゃ、入ってみよう。」


 魔法具店に入ると、店内は落ち着いた雰囲気で、悪くないと思った。

 黒いローブを纏い、同じく黒い三角帽子を被った、如何にも「魔法使いです」といった服装の店主がいた。

 店主に声をかけられたので、とりあえず「安くて、頑丈で、容量の大きいマジックバッグが欲しい」と、そこそこ無茶だが、マジックバッグが欲しい人なら皆が思っているであろうことを伝える。

 他に客もいなかったためか、店主は席をたちクーの横について色々説明してくれている。

 店主の顔は帽子で良く見えなかったが、その声や動きから察するに、かなり若い女性だと感じられた。


(とりあえず、ここは店主に任せるか・・・クーの欲しいものが決まれば、私が購入の前に検分すれば良いだろう。 そして・・・値切って見せる。)


 そう考えた私は、他の商品を見て回る。

 特に欲しいものがあった訳ではないが、商品を眺めているうちに目に止まったものがあった。


 それは組紐だった。 組紐は、私の故郷で作られていた、染色した絹糸などを何本も交差させて紐状にしたものだ。伸縮性があり使いでもいいが、何と言っても美しくおしゃれだ。

 この店に置いてあるものが、故郷『八州国』で作られて輸入されたものかまでは分からないけど、懐かしさもあって非常に惹かれる。


(クーの髪を縛るのに良さそうだ。 もっと伸ばして三つ編みにした時でも良いアクセントになるだろう。)

 私はクーのカバン選びの間、どの色の組紐を買うか思い悩むことにする。



「リア姉、リア姉ってば・・・聴こえてる?」

「えっ!?」

 私は、驚いて振り返る。 

 振り返ると、クーが心配そうに私の事を見つめていた。


「どうしたの? 大丈夫?」

「え? うん。 なんでもないよ。 ちょっとボーってしてたみたい。」

「そう? それなら良いけど・・・バッグなんだけどコレどうかな?」

「ん。 どれどれ・・・」

 クーが選んだのは、背に背負うタイプのバッグだった。 バックパックというヤツだ。

 クーには少し大きいみたいだけど、すぐにピッタリになるだろう。


「容量はどれくらいなの?」

「うん・・・8倍だって・・・」

「は・・・はちばい!? 凄い良い物じゃない!? え? おいくらなの?」

「えっと・・・」

 お値段を聞いて、また驚く・・・ちょっとした家が買えるレベルだ。


 見た目の大きさよりも大量の荷物を入れられるマジックバッグは、冒険者にとっては必需品と言える。

 そのため、マジックバッグは割とポリュラーなもので、ただのバッグに比べると高価であるが、2倍、3倍程度のものなら入手は容易といえる。しかし、4倍、5倍と容量が増えるにつれて値段は跳ね上がる。8倍ともなると、かなりの額になるのは仕方ない。

 しかし、8倍バッグなど、そうそうお目にかかるものではないので、今を逃すと次に出会えるのはいつになるか分からない。


「う・・・うーん・・・」

 私が持っている現金では、当然全く足りないけど・・・いままでの旅で、ギルド預金以外に集めて来た宝石を処分すれば・・・うん。 足りないな。


「ごめん。 私の全財産を処分してもムリだわ。」

「そうだよね。 ゴメンなさいリア姉。」

「ううん。 私の方こそ、頼りないお姉ちゃんでゴメンなさい。」

「じゃあ、こっちはどうかな? 5倍なんだけど・・・」

「5倍かぁ・・・そっちはおいくら?」

 うむ・・・十分に高いんだけど、さっきの8倍バッグの値段を聞いた後だと、お買い得に思えるから不思議だ。 私・・・もしかしたら、クーの術中に嵌っている?

 でも、長く使うものだし、良いものを買った方がいいだろうとは思う。

 これなら手持ちの宝石をいくつか処分すれば・・・行ける。


「よし、これなら何とか行けそうだわ。」

「リア姉、私のお金じゃ全然足りないから、足りない分を貸してもらえないですか?」

「うん、もちろんよ。 ただ、ちょっとクーはお外で待っていてくれる?」

 私は、値段交渉を行うために、クーには店を出てもらう。

 あまりセコい所を見られたくないってのもあるが、クーに内緒の買い物をするためでもあった。



「クー、お待たせー。 はいコレ。」

 購入したばかりのマジックバッグをクーに渡す。


「もう買ってきたの? じゃ、お金渡さなきゃ。」

 クーは、急いでお財布を取り出そうとしている。


「クー、まずは背負ってみて?」

「え? うん。」

 クーは、いそいそとバックパックを背負って、クルりと回って見せる。

 可愛い・・・よし、お代はこれで十分にいただけた。


「どう? あはは・・・まだちょっと大きいよね?」

「うん。 でもきっとすぐにちょうど良くなるね?」

「そうだね。 あ、お金、お金・・・」

「クー、今はお金はいいよ。 クーだってお金なかったらこまるでしょ?」

「え、でも・・・」

「これから長く一緒に冒険者するんだから、ゆっくり返してくれればいいよ。」

「ホント? ありがとうリア姉。」

「うん。」

 クーから代金を貰うつもりはなかったけど、全部出して買ってあげると言ったら、きっとクーは遠慮したことだろう。クーからもらうお金は、クーのために貯金しておこうと思う。

 明日からは、またクエストに出かけるようだし、今日は夕食前までクーと一緒にたっぷり街ブラしよう。


 今度は私からクーの手を取って、賑わうメインストリートに向かって歩き出した。



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