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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第6章 カメリアとクー3

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第9話

 エルザに連れ出されたクーは、高級そうな菓子店の前にいた。


「えっ? えっ? どうしたんですかエルザさん?」

「ここのケーキは結構うまいらしいぜ。 さらに、ここには他の客に邪魔されずに食べられる個室があるんだよ。 ちょっと菓子でも食いながら、クーと話がしたくってさ。 高いんだけどな。」

「リア姉がいないところでしたい話があるってことですか?」

「ああ、そうだ。 お前は本当に聡いヤツだな。」

「良くない・・・お話しですよね?」

「まあ、座って話そうぜ。」

 エルザはクーの肩に手を回し、店の中に(いざな)った。



 個室に入り、エルザとクーは向かい合って座る。クーはメニューを選べる状態ではなかったため、エルザが2人分のケーキと紅茶を注文した。 運ばれてきたケーキは、それほど大きくはなかったが、見るからに豪華なものであった。


 エルザは、ケーキを一欠口に運んでからクーに話しかける。


「クー、今朝アタシの情報網の1つから連絡がきてな・・・今からアタシがお前に伝えようとしているのは、さっきお前が言った通り『良くない』話なんだよな。 黙っておこうかとも思ったんだが・・・」

「エルザさん。 私、覚悟はできています。 お父さんたちに何かあったんですよね?」

 クーは、これから聞く話の内容を分かっているかのように、目に涙を湛えながらも平常を保とうとしている。


「クー。 お前の両親は、残念ながら先日亡くなったそうだ。 直系の子供であるお前も姉も、共に消息不明ということになっているため、第7国においての『ティグリス』家は断絶となった。」

「・・・・はい・・・・」

「ティグリス家は、最近勢力を急速に拡大していた熊獣人の『ウルスス』家に敗れてしまったんだ。」

「・・・はい。」

「お前が生きている事を知っているのは、ティグリス家に使えていたリカルド他数名だけだ。 だから、お前がウルススの手の者に狙われることは・・・まあ、無いと思う。」

「・・・はい。」


 それからエルザは、ウルスス家がティグリス家の後釜についたこと、クーの両親の葬られた墓の場所等を伝える。そして、確定情報ではないものの、ウルスス家にはオーディア教団の支援があったと思われることや、クーの誘拐も含めてブルグマンシアとの関係も疑われることなどを話す。


「クー、お前には酷な話ばかりですまなかったな・・・そう言えば、確か第5国には、ティグリスの総本家があったよな? そこを頼ってみるか?」

「・・・・」

「スマン。 今は考えられないよな。 まあ、落ち着いたら今後の事考えてみてくれ。 このままアタシたちと行くか・・・それとも・・・」

「エルザさん・・・わたっ・・・私は、復讐は考えていません。 よろしければ、このまま『深紅』に置いてください。」

「いいのか? ・・・例えば、カメリアを巻き込めば、アイツは必ずお前の敵を滅ぼそうと手を貸すはずだぞ。」

「いえ・・・私は・・・ウルスス家が憎くないとは言えません・・・ですが、既に滅んでしまった家のために、これから何人も死に追いやるなんてできません。 そんなのはしたくないし、リア姉にそんなことで人殺しをして欲しくない。」

「そうか。 お前は・・・本当に良く出来たヤツだよ。 ちょっと聞き分けが良すぎるくらいだ。 カメリアにも少しは見習ってほしいぜ。」

「今日の夕食の時に、私の素性をパーティの皆さんに話します。」

「いいのか?」

「はい。 もう隠し事はしません。」

 クーは、涙を拭くと精一杯に笑って見せた。


「そうか・・・」

 その後、クーは手を付けていなかったケーキを一気に食べた。

 食べ終わった後に「美味しかったです。」と、無理をして笑って言っていたが、本当は味なんて分からなかったのではないだろうか?

 クーは、敵討ちはしないと言っていたが、深紅はこれからもブルグマンシアに関わっていく予定だ。 ブルグマンシアとその背後にいる者を倒すことが出来れば、きっと・・・

 エルザはそんな風に考える自分が、クーよりもずっと「良く出来ていない」人間だと思った。



 クーが作った夕食を、パーティ皆で黙々と食べていた。

 私は、エルザに対して露骨に不機嫌な態度を見せつけていたが、エルザはなんてことないと言うかのように平然としている。

 ゲオルグとパトリックは、私がいつ爆発するものかとおろおろしている。


「エルザ・・・」

「皆さんにお話ししたいことがあります。」

 私がエルザの名前を呼ぼうとしたところ、クーが遮るように話始めた。


「どうしたのクー?」

「ごめんなさいリア姉。 私に話をさせてもらっても良いですか?」

「え、ええ・・・もちろんよ。」

「ありがとうリア姉。 エルザさん、ゲオルグさん、パトリックさんも聞いてください。」

「おう、いいぞクー。 話してくれ。」

「はい。 私の本当の名前は『クリスターニャ=ティグリス』と言います。 第7国で軍事大臣をしていた『ギデオン=ティグリス』の娘です。 今まで黙っていてごめんなさい。」

「クリスターニャ・・・ティグリス?」


 ティグリスは、トラ種獣人の総本家とされている。 そのティグリス本家は、第5国レオで代々宰相の任に就いている。 第7国リブラのティグリスは、その分家なのだろう。


「私の父は、第7国での政争に巻き込まれていたのですが、先日母と共に亡くなったそうです。」

「クー、今朝はそんな事言っていなかったじゃない!? あ・・・エルザ・・・アンタがクーを連れて行った要件ってそれなの!?」

「ああ、そうだよカメリア。 話すかどうかは決めかねていたんだが、クーが聞きたいって言うから話した。」

「エルザ・・・あんた・・・ブチのめすわ。 殺しはしないから安心して頂戴。」

「おいおい、カメリア。 穏やかじゃないな。 魔法を使われたらアタシがお前に勝てる訳ないだろう?」

「ふざけないでよ・・・私が魔法を使わなければ勝てると思っているの? 剣でなら私に勝てると思っているのなら大間違いよ!」

「アタシは斧を使ってもいいのか?」

「私を愚弄する気?」

「リア姉! エルザさんの言っていることは本当です! 私が無理に聞いたんです。 エルザさんたちにケガでもさせたら、いくらリア姉でも許さないから。」

「クー? 私は・・・」

「リア姉、()()()だなんて言うつもりですか? 私はそんな事思っていないっ! 冷静になってください!」

「はいっ。 ごめんなさい・・・」


「それで、クー。 お前は今それをアタシ等に話してどうするんだ?」

「はい。 もう皆さんに隠し事をしたくないって思ったから・・・と言うのはありますが、私の覚悟の表明でもあります。」

「覚悟?」

「はい。 私は、これからも冒険者として・・・『深紅』の一員として生きていきます。 両親の敵を取ろうとは考えていません。 それよりも、今も誘拐されて奴隷にされている人たちを助けたいんです。 私が皆さんに助けてもらったみたいに。」

「クー・・・」

「クー、アタシ等は冒険者だからな。 慈善事業をやっている訳じゃねえ。 アタシは前にブルグマンシアを放っておかないって話をしたと思うが、それはあくまでブルグマンシアに関連するクエストがあれば積極的に請けたいってことだ。 クエストでもないのにわざわざ危険に足を突っ込むことはしねえぞ。」

「はい。 分かっています。」

「そうか、それが分かってくれているんならいいさ。 それじゃ、飯食っちまおうぜ。 せっかくクーが作ってくれたのに、冷めちまった。」

「じゃあ、私温めなおしてきます。」

「いいよクー。 私がやるわ。」

 私は、火の魔法を調整して料理に熱を与えた。 初めてだったけど、良い感じにできた。


「本当にカメリアはすげぇな。 あんだけ凄い水系の魔法を使うのに、火の魔法も自由自在かよ・・・」

 この夕食の間なにも喋らなかったゲオルグが初めて口を開いた。 同じく一言も発していないパトリックは・・・まあ、いつも通りだ。


「しかし、クリスターニャか・・・クリス・・・とか、ターニャ、クーニャとか・・・呼び方変えた方がいいかな?」

「いや、あまり本名に近づけたらダメだろ。 ゲオルグ、お前はアホか?」

「はい。 今まで通りに『クー』って呼んでください。 今はそれが私の名前です。」

「そうだな。 その方がいいな。 でもよクー、打ち明けてくれて俺は嬉しかったぞ。」

「ゲオルグさん・・・」

「ゲオルグ、お前までクーに骨抜きにされてんじゃねぇぞ。 カメリアじゃねぇんだからな。」

「そ、そんな事はない・・・ないぞ?」

 ゲオルグのお陰で、険悪な空気は少しもとに戻ったような気がした。

 もしかしたらゲオルグは、わざと言ってくれたのかも知れないな。 そうだとしたら、少しだけゲオルグに感謝だ。


 夕食が終わり、後片付けを済ませると、私はクーを連れてそそくさと2階に上がる。

 今日はもうクーから手を放す気はなかった。



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