第3話
街道哨戒任務の復路2日目の夕刻、とうとう強盗団と思しき一党と遭遇した。
第7国からの避難民だろうか? 20名ほどの一団が、倍近くの集団に襲われていた。
「とうとうお出ましたぜ! ミシェルたちは襲われている連中を守れ! 深追いは厳禁だぞ!」
「分かりましたエルザさん!!」
「アタシ等は、周りの奴等の数を減らす!! カメリア!! とりあえず数を減らしてくれ!! 残りはアタシに続けっ!!」
「「了解!!」」
「はいっ! エルザさん!!」
エルザとグレン(ゲオルグ)、パトリック、クーが駆けていく。 パトリックが段々と他の3人に引き離されていくが、あの重装備でと考えると、パトリックも足が遅いと言う訳ではないだろう。他の3人がむしろ早すぎるのだ。
暁の戦士団の連中も、避難民に向けて固まって走って行った。
(おい、魔法使いである私を1人だけここに置いていくんかい・・・)と、心の中でツッコミを入れてみたが、特に問題とは思っていない。
「白刃氷嵐っ!!」
私は、一番数を巻き込めそうな場所に得意の光水混合魔法をぶっ放す。
エルザたちの接近に気付いていた強盗団が、迎え撃とうと集合しかけていた場所に、私の魔法が吹き荒れる。 10人近くは凍ったか?
それ以降は、いつものように射出即着弾の超高速魔法「白光」で1人ずつ片づける。
白光は、それほど威力が高いものではないが、人程度なら急所を狙えば容易く命を奪える力はある。逆に、急所を外して足などを撃ち抜けば、命を奪わずに行動力を削ぐこともできる結構使い勝手の良い魔法だ。
クーも含めてエルザたちは放っておいて大丈夫だと思ったので、暁の戦士団の支援を中心に行う。
エルザたちが全員殺してしまうのを考慮して、数名は戦闘力を奪う程度に急所を外しておいた。
問題は、襲われていた側だ。
腰を抜かして動けない者はいいが、なまじ動ける者はバラバラに散って行ってしまう。
動けるなら逃げるのは当然だが、今回に限っては逃げなかった方が正解だろう。逃げた連中を探しに行くことまでは出来ない。
難民の保護をする義理はないが、私たちにくっついて来る分には止められない。そうすれば、その難民たちは、結果的に私たちに守られることになる。
逃げたきり再合流できなかった人たちは、結局強盗か野獣・魔獣の餌食となってしまう確率は高いだろう。
この戦闘では、暁の戦士団を含めてパーティ全員が無事に生き残った。
暁の戦士団の皆は、恐らく対人戦は初めてだったのだろう。
彼らは戦闘が終わった途端に、蒼くなって震え出したり、胃の中のものを戻していたりしている。
大きな怪我をした者はいなかったが、治癒士のデイジーが震えで使い物にならなかったので、怪我は私の回復魔法で治してあげた。
襲われていた難民には、逃げ去った者も含めて数名の被害が出ていたが、強盗団は見える範囲では全員倒し、捕縛した人数は11人にも上った。
強盗団の死者は実に32名。 さすがに運べないので、討伐の証拠となる左耳と左手を残して火葬を行う。
私は、普段は使わないけど、そこいらの魔法士よりは遥かに強力な火の魔法も扱える。
この規模の部隊が他にも動いているのだとすると、相当な規模の犯罪組織だ。
他に気になったことと言えば、強盗団の連中の主に右腕に『ラッパと骸骨』の彫り物があったことだ。
「ママ、お疲れ。」
一通りの後始末が済んだ後、エルザが私に声を掛けて来た。
「うん。 エルザもね。 大した奴等ではなかったけど・・・」
「そうだな。 もっとも、お前にかかれば大したヤツの方が少ないだろうけどな。」
「あの腕のマーク見た?」
「見たぜ。 ガイコツとラッパ・・・いやラッパに似た花か?」
「ありゃ『ブルグマンシア』だろうな。」
私とエルザの会話にゲオルグ・・・もとい、グレンが横から口を挟んできた。
「ブルぐ・・・? なに?」
「ブルグマンシアだ。 ラッパの形に似た花だよ。」
「へぇ、あんたが花にくわしいなんてね。 意外だわ。」
「お褒めに預かり、どーも。 ブルグマンシアの別名は『エンジェルズトランペット』って言うんだぜ。」
「天使のラッパか・・・」
「神さまの御使いってヤツか?」
「ああ、神話の話だな。」
天使とは・・・この大陸の神話に出て来る、背に翼を持った人間として描かれている存在で、秩序神の勢力に属していたとされている。
中でも、ラッパを持つ天使は特別な存在で、天使がそのラッパを吹くと天変地異が起こるとかなんとか・・・
翼を持つ人間と言えば翼人族だが、彼らの羽は腕に生えているので、四肢とは別に翼を持つ天使とは別物だ(翼人族の中には、自分たちのことを天使の系譜だと主張している者もいるが)。
天使は、その背に持つ翼で『空を自由に飛ぶ』と言うが、翼人族の翼は基本風を捉えての滑空しかできない。頑張れば若干は上昇可能な者もいるようだが、とてもじゃないが『空を自由に飛ぶ』とは言えない。
その滑空を行うにしても、両腕の翼を目一杯広げて行わないとならないので、武器を構えての突撃すらできない。 せいぜいが、足で持てるくらいの荷物をもって、高いところから滑空すれば歩くよりはいいと言ったくらいのものだ。当然、持てる重量は大したものではない。
全く古代高等人類とやらは、一体何のつもりで翼人族をお創り遊ばされたのだろうか?
造ってみたいとか、そんな好奇心だけで造ったのではないかと勘繰ってしまう。
「そんで、その『天使のラッパ』を『ガイコツ』が吹いているってか?」
「そうだな、何かの暗喩・・・なんだろうかね?」
「皮肉ってるんじゃねえか?」
エルザとゲオ・・・グレンがそんな話をしている。
ま、私には関係ないかな?
ガイコツだろうが、天使だろうが、私の敵になるなら魔法でボンだ。
「ねぇ・・・リア姉?」
「うわ! ビックリした・・・どうかしたの?」
いつの間にか私の後ろにいたクーから声を掛けられた。
最近のクーにしては珍しく、モジモジしているように見える。
「あのね、前に私が捕まっていた時にね・・・」
「うん?」
「あの時ね・・・」
「・・・・」
「あの時の奴等の中にもね・・・」
「うん。」
「あの『ラッパとガイコツ』の入れ墨をしている人がいたんだ・・・」
「えっ!? 本当なの??」
「うん。 私・・・なんだか怖い・・・」
「大丈夫だよクー。 今のクーなら、そこいらの奴になんか負けないって。 現に今回だって、クーは何人も倒しているでしょう?」
「そう・・・なんだけど・・・あの入れ墨を見てから・・・体が・・・」
そう言ったクーの体は、小刻みに震えていた。
「大丈夫。 今は私も居るし、エルザたちだって・・・」
「うん。 ごめんなさい、リア姉。」
「謝ることはないでしょう?」
「街に・・・戻ったら、エルザさん達にも話してみるね。」
「そうしよっか。」
クーの話が本当なら、私にも関係あるって事になる。
連中が、どれ程の巨大な組織だとしても私の『敵』だ。
それはそれとして・・・どうも最近、勘が鈍っているような気がする。
先ほど、クーに後ろを取られていたことといい、以前、エルザの平手打ちを躱せなかったり・・・少し前の私なら考えられない。
もしかしたら、他人との距離を縮めたことで、私は弱くなっているのかもしれない・・・なんて思った。




