第2話
翌朝。
私が目覚めると、となりのベッドにはちゃんとエルザが寝ていた。 昨晩は、特に事件は起きなかったのだろう。
クーもまだ寝ている。 寝る子は育つなんて言うけど、クーの育ちっぷりは著しい。
剣の腕はもちろんだが、背も伸びた。
それ以外に、私が危惧していた部分も、明らかに成長している。
ふふ・・・こんなにも早く、師である私を超えるとは・・・
「リア姉?」
いつの間にか目覚めていたクーが私を見ている・・・
「リア姉泣いているの? なにかあった??」
「えっ!? 私泣いてる?」
「うん。 今も涙が流れている・・・どうしたの?」
「ううん。 何でもない。 クーが凄く強くなったなあって思っていたら、つい・・・エルザじゃないけど、親心ってヤツかしらね?」
私は、服の袖で涙を拭う。
「そう? それなら良いけど・・・何かあるんだったら言ってね? もっとも、私じゃリア姉の力になれないかもだけど・・・」
「うん。 ありがとうねクー。 でも本当に大丈夫だから。」
「うん。」
微笑むクーを見て、私も微笑みを返すが・・・内心は複雑だ。
私、泣くほどクーの成長がショックだったのか!?
クー、あなたは本当に良い子だけど・・・でもね、あなたには解決できないんだよ、この悩み・・・あなたの成長が嬉しいのに、あなたの成長がうらめしい・・・なんて、絶対に教えられないし、知られるわけには行かない。
もう、考えないようにしよう。 私に挽回する機会は来ないと思うし・・・うん。
気を取り直して・・・
「クー、エルザを起こしてくれるかしら。 後、顔を洗ったらご飯食べに行こう。」
「はい。 リア姉。」
クーはにっこり笑って見せると、エルザを起こしに向かう。
「昨夜は遅かったんだ、まだ寝かせてくれ。」などと宣うエルザを叩き起こした後に、皆で朝ごはんを食べた。
食事を終えた私たちは、早速アッパー・リブ市の冒険者ギルドに向かった。
ギルドには、すでに40人くらいの冒険者が集まっていた。
「すでに周知させていただいておりますとおり、本日からは最低10名でチームを組んで行動していただきます!」
「パーティ名と人数を報告してください。 10人未満のパーティは、ギルドで調整させていただきま~す!」
ギルド職員が一生懸命に叫んでいる。
「ギルド職員も結構大変ね。」
「そ~だな。」
タダでさえ協調性に欠ける冒険者なのに、お互いに知らない者同士を無理やりにくっつけて、頭数だけを増やしたところで意味があるのか? 疑問ではあるが・・・数で強盗団がビビッてくれれば儲けものだ・・・くらいに思っておこう。
「あのっ・・・『深紅』の皆さんでしょうか?」
声が聞こえて来た方向に目を向けると・・・・そこには、クーとそう変わらない年と思われる若い冒険者風の男女5人組がいた。
(え? まさか・・・コレが私たちと組むパーティ? まるきりど素人じゃない!?)
「よう、お前らがご一緒するパーティかい?」
「はいっ! よろしくお願いいたしますっ!」
「よろしくな。 アタシは深紅のリーダーをやっているエルザだ。 こっちのデカいのがパトリックで、そっちのムスっとした女がカメリア。 そのとなりの獣人がクーで、最後に残った細いのがグレンだ。」
グレンと言うのは、ゲオルグの偽名だ。 ゲオルグは、外で顔出しの行動をする時には偽名を使い、変装をする事がままある。 彼の役割的に、なるべく顔や名前が売れないようにしているらしい。
もっともゲオルグと言うのも本名か疑わしい。 まあ、私のカメリアも偽名だけどね。
「クーです。 よろしくお願いします。 皆さんもとってもお若いですね。」
「はい。 よろしくですクーさん。 僕の名前はミシェルです。 一応パーティ『暁の戦士団』のリーダーをしています。」
それから一通りの自己紹介があった。
リーダーのミシェルは人族の男性で、皮鎧に剣と盾を持ったオーソドックスな戦士
ランドンは爬虫人族の男性で、鎖帷子に槍を持った戦士
ネイサンは人族の男性で、風系統の魔法士
レティは獣人族の女性で、ショートボウにダガーの軽戦士
デイジーは人族の女性で、水系統の治癒士
とのこと。 バランスは悪くないけど。
彼らは、皆同じ村の出身だそうだ。
ミシェルとランドンが14才で、残り3人は13才だって・・・案の定全員未成年だ。 クーよりは年上だけど・・・まぁ、戦力としては期待できないが、クーが嬉しそうにしているからいっか。
私たちの任務は、アッパー・リブ市から第7国の国境までを街道に沿って行って帰って来るだけのものだ。 歩きだと往復で2週間前後になるだろうか。
街道の東側には、険しいと噂される千剣山脈が聳え立っており、西側には荒れた荒野が広がる。 この荒野には、大きな岩やちょっとした断崖も多く、強盗団が隠れる場所には不自由しないだろう。
しかし、いくら強盗団が良く出ると言っても、そうそう街道で出くわすことは無いと思う。
仮に、空振りだったとしても日当分の報酬は出るし、お荷物を背負っているから戦いは無い方がいい。
私たちのように街道沿いを警らするグループ以外にも、少し街道から外れて荒野を探索するグループもある。そっちは、私たちのような急造のパーティではなく、元々知り合い同士で組んだ連中が派遣されているようだ。
アッパー・リブ市を立ってから7日目の昼頃に第7国との国境付近に到着した。
途中では野獣との戦闘はあったが、肝心の強盗団には出くわさなかった。
ミシェルたちに実戦経験を積んでもらうために、野獣との戦いではクー以外はあまり出しゃばらないようにしていた。
クーの近接戦闘力は、野獣相手なら全く問題ないレベルだ。 そして、遠当てはどんどん進化している。 最長射程はまだ私に及ばないが、中距離での使用には申し分無くなってきている。 私と違って、1発撃ったら終わりという訳ではないのも大きい。
後は、もう少し威力が欲しいけど、これからもっと成長して、師である私をすぐに超えていくだろう。 体の成長みたいにね・・・って、考えないようにしようと思っているのに、すぐに考えちゃう。 ダメだぞ!私!!
初めてクーの遠当てを見たミシェルたちは、当然だがとても驚いていた。
『気』のことを理解できない彼らは、クーの腕が伸びているんじゃないかと思ったようだ。 その腕を伸ばす技の伝授を頼んでいたが、理論ではなく、感覚で使用しているクーも「頑張るを飛ばす」くらいにしか説明出来ないため伝授は無理だろう。
どうよ? 私の娘・・・じゃなくって妹は。 カワイイだけじゃなく、天才だぞ。
ただ、クーが暁の戦士団の連中に大人気になってしまい、私との触れ合いが少なくなっているのは問題だな。
で、暁の戦士団の実力のほどはというと・・・やはりと言うか、ほぼ素人だった。
戦闘はもとより、キャンプの仕方も全然うまくなかった。
唯一、料理ができる点はよかった。
考えてみれば、私たち深紅のメンバーは私を含めて誰も料理をしない。 干し肉や乾パンなどの携帯食がメインで、野生動物を狩って食べることもあるが、基本焼くだけだ。
クーが料理にも興味があるようだったが、パーティの誰も教えられなかったので、彼らが教えてくれるのは有難い。
私にもちょっとだけ「知らない人との交流」に意味を見いだせた。




