第1話
神暦3,170年5月
『深紅』にクーを迎え入れてから3月、私たちは王都サジタリアの北に位置する『城塞都市アッパー・リブ』に滞在している。
クーに実戦経験を積ませるために、アローストリング市のギルドで、採取クエストや討伐クエストなどをいくつかこなした後に、王都へ向かう商隊護衛のクエストを請け、王都に入ったのが1月半ほど前だ。
そこからすぐに深紅のホームと言えるアローヘッド市ではなく、アッパー・リブ市に移動して1月以上滞在しているのには理由がある。
王都に向かう途中で『第7国リブラ』との国境付近において、大規模な強盗団の活動があるとの情報を得たからだ。
第9国の北に隣接する第7国では、半年ほど前から国の大臣間での政争が勃発し、それ以降情勢が不安定になっているらしい。もちろん公式には発表されていないことだけれど。
エルザやクーにはっきり確認したわけではないが、争っている大臣の一方には、恐らくクーの実家が関係しているのだと思う。
そんな状況であるから、現在第9国には第7国から逃げ出して来る人が少なからずいるようで、強盗団はその難民を狙っているのだろう。
しかし、強盗団の目撃情報や戦闘の痕跡は数多くあるものの、その数に比べて発見されている死者数は少なく、かわりに行方不明者数が多いという。
金品強奪目的だけではなく、人身それ自体が目的なのだろうか。
アッパー・リブ市の冒険者ギルドでは、強盗団の討伐クエストが常時貼り出されており、討伐・捕縛人数に応じて報酬が支払われる。
第9国としては、第7国からの難民はともかくとしても、街道を往来する商隊等の安全確保は急務であるのだろう。
すでに冒険者にも少なくない被害が出ており長期化しているため、騎士団の派遣が待たれるところであるが、今のところ騎士団が派遣される様子はない。
私たちが今いるのは、アッパー・リブ市において、私たち深紅が逗留している宿の女部屋だ。 朝早くからギルドに行っていた、エルザが戻ってくるなり集まるように指示されたためだ。
「おい、お前ら。 良く聞いてくれ。」
「なによエルザ。」
「ギルドからの要請でな、明日からは別のパーティと組んで動くことになった。」
「なんでよ。」
「あのなぁ、カメリア・・・お前、もうちょっと他の人間にも興味持てよ。」
「別に必要ないわ。 私はクーだけいればいい。」
「リア姉・・・」
「カメリア、俺たち仲間だろ?」
「ゲオルグ・・・あんたらに何かあったらクーが悲しむからね。 だから、あんたらの事はクーのためにも助けてあげるから安心しなさい。」
「もう3年近く一緒にいるのにそれかよ。」
「ゲオルグは、私と仲良くしたい訳?」
「あ、いや・・・そう言うのとは違うかな。 うん。」
「でしょう?」
「お前ら・・・アタシの話を聞けや・・・」
「ごめんエルザ。 続けて。」
「じゃ、続けるぞ。 冒険者パーティの人数って4~5人ってのが多いだろ? もちろんもっと多いところもあるが、ヘタすりゃ2~3人ってパーティも少なくはない。 対して強盗団は、最小編成で10名くらいで動いている。」
「それで?」
「だから、倍近い敵と戦っているんだよ。 だもんで、冒険者の被害もそこそこ出ている。」
「10人くらいなら、私の魔法で一発だけど? これまでだって、別に問題なかったじゃないの。」
「そりゃあ、ルーナママはお強いんだろうけどさ、どのパーティにもママがいる訳じゃないんだよ。」
「エルザ・・・あなた最近私を名前で呼んでいないんだけど?」
「いいだろ? 2つ名だよ。」
「ま、もう慣れたからどうでもいいけどね。」
「エルザさん、他のパーティと組むってことは、こっちも頭数を増やすってことですか?」
「そうだな。 クー、お前だけだよアタシの話をちゃんと聞いてくれるのは・・・エルザお姉ちゃんは嬉しいぞ。」
「あんたねぇ・・・」
「クーの言うとおり、こっちも頭数を増やせば、相手もそう簡単には冒険者に手を出してこないんじゃないかってな。」
「でも、そうしたら巡回するパーティ数が減るじゃないの。 それだと、強盗団と遭遇する可能性は減るんじゃないの?」
「ママの意見もごもっともだがね。 ギルドとしても難民の保護よりは、商隊の安全や冒険者の犬死を防ぐ方が優先されるんだろ。」
「まあ、いくら規模が大きい強盗団といっても、頭数に限界はあるだろうしね・・・」
「そうだな。 強盗団が対抗して頭数を増やしてくるなら、それ自体で出現回数を減らすことにはなるよな。」
「鉢合わせた冒険者は大変だけどね。」
「まあな。 どっちにしたって、メリット、デメリットはあるんじゃね?」
「エルザさん、どのパーティと組むかは、どうやって決まるんですか?」
「お友達がいれば、好きなお友達と組んでいいとさ。 でも、アタシ等はこっちに知り合いいねぇからな。」
「どうせ足手まといになるんだから、いらないでしょ?」
「確かに、10人や20人程度ならルーナママがいるアタシ等の敵ではないだろうけどな。 だが、ギルドの要請だから従わない訳にもいかんだろ。 従わないとクエストも請けられんしな。」
「私は、他の冒険者の戦い方も近くで見てみたいです。」
「お、クー。 それは良いんじゃないか。 確かに色々なヤツの戦い方は見ておいた方がいいぞ。 良し悪しどっちも勉強になるしな。」
「ゲオルグおじちゃんの言うとおりだ。 ルーナママにも従ってもらうからな。」
「分かっているわよ。」
「エルザさん、それで・・・パーティの件はどうなるんですか?」
「そうだった。 ルーナママがいちいち話の腰を折るから進まねえわ。 お友達がいないパーティは、余りもの同士で組むことになるな。」
「ますます邪魔者じゃない?」
「アタシ等も、お友達のいない仲間外れパーティだぜ?」
「それはそうだね。 まあ、邪魔さえしなければ誰でも同じだわ。」
「だな。」
「はい。」
「よし、じゃあそう言う事でな。」
「ところで、パトリックはいないのか?」
「エルザ、俺ならずっとここに居るんだが。」
部屋の奥にあった塊から声がした。
「パトリックよぉ・・・お前、よくそのでかい図体で、そこまで存在感を消せるな・・・特殊能力と言っていいレベルだぞ。」
「いや、消しているつもりは無いが・・・」
「んじゃ、少し酒でも飲み行こうぜ。 ゲオルグとパトリックは行くとして・・・ママは行くか?」
「いえ、私は遠慮するわ。 クー部屋に戻りましょう? 髪の毛結んであげる。」
「ええ? リア姉、私エルザさんたちと行きたい。」
「ダメよ。 クーはまだ成人していないんだから。 それに酒場なんてコイツ等以外にもダメな大人だらけなのよ、クーには見せられません。」
「はい・・・」
「へへ、じゃあなクー。 成人したらしこたま飲ませてやるからよ。」
「アハハハ・・・それじゃあ、皆さんおやすみなさい。」
「あ、そうだエルザ?」
「何だよ。」
「ちゃんと、お金持っていきなさいよ。」
「は~いママ。」
エルザはゲオルグとパトリックを引き連れ、手を振りながら去っていった。
皆が集まっていた女部屋には、私とクーの2人だけになった。
この部屋は2人部屋だが、今は私とクー、エルザの3人で泊っている。 宿代の節約もあるが(料金は、1割増しで宿側を納得させた)、今アッパー・リブ市には、かなりの数の冒険者が集まってきているので、宿が不足気味なのだ。
それに、どうせ私はクーと一緒に寝るので、全く問題ない。
クーをイスに座らせて、まずはクーの髪の毛を櫛で梳かす。
クーの髪の毛は、固くて少しクセがある。 クーは貴族のご令嬢だったはずだけど、クー自身があまりおしゃれに気を遣わないので、普段は洗ったまま自然乾燥だ。
短いうちはそれでも良かったが、最近中途半端に伸びて来たので結構まずい状態になって来ていた。
「クー、髪どうするの? このまま伸ばす?」
「うーん。 結構邪魔になって来たから切ろうかなって・・・」
「そう?」
言いながら、私はクーの髪を三つ編みにしてみる。
(うーむ・・・おさげならこれ位でもいいけど、三つ編みと考えると、まるで長さが足りないな。 よし。)
「クー? せっかくだから、もっと伸ばしてみたらどうかな?」
「え~・・・なんで?」
「私の予想だと、クーは三つ編みが似合うと思うんだよね。 ただ、もっと長くしないとカッコよくならないかな。」
「でも、今も結構邪魔だし。 私、自分で編むのめんどくさいかも・・・」
「編むのは私がやるから。」
「でもなあ・・・」
と言って、クーは大きなあくびをした。
「眠いの?」
「うん。 もう眠い。」
「そっか、じゃ寝ようか。」
「うん。」
私とクーは並んで横になった。
以前は、時々出るクーの抱き癖により、私はクーに何度か殺されかけたことがあったが、最近は私が死なないポイントを押さえて、力を調整してくれるようになったので、安心だ・・・?
クーの温もりには、睡眠を誘発する力があるに違いない・・・私も眠たくなって来た。
エルザたちがなんかやらかしても関わらないように、今日はさっさと寝てしまうことにした。




