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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第1章 クロエとミオ1

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第6話

 

 月の海亭での猫田さん歓迎会が終了した後、私は自分の工房に帰ろうとしていたのだが、ミオにガッチリと腕を掴まれたままホームに連行され、居間のテーブルに座らせられる。


「よし、じゃあ2次会と行くか。」

 奥の倉庫から、両手に酒瓶を持って現れたグスタフが笑顔で言った。


「え? まだ飲む気なの?」

「当たり前だろう、猫田だってまだ飲み足りないだろ?」

「いや、自分はもう十分飲ませてもらった・・・」

「そうだろう! そうだろう! まだまだ飲みたいよな猫田!!」

 グスタフは、猫田さんの意向を聞く気は無いらしい。


「ミオも今日はなんだか飲みたい気分だナ。」

「え? ミオさん、普段はそんなにお酒飲まないのに?」

「クロエ、大人にはそういう日もあるんだナ・・・」

「そうだろう。 ミオもそう言っているし、もうちょっと飲もうぜ! なあ、猫田!」

「あ・・・はい。 リーダーたちがそう言うなら、自分は付き合うよ。」

 グスタフは、よほど猫田さん加入が嬉しいんだろうか。 ミオも猫田さんとの対戦結果を引きずっているのだろう。


「シンシア! 軽くでいいから、何かツマめるものを作ってくれよ!」

「・・・・・・・」

「おい! シンシア?」

 グスタフの呼びかけにシンシアの応答がない・・・・そう言えば、居間の中にはシンシアの姿がないことに気が付く。


「ミオ、シンシアを知らないか?」

「あー、あいつは玄関でぶっ倒れているのナ。」

「「「えっ!?」」」

 私たち3人は同時に声を上げた。


「ミオさん!? どうして言ってくれなかったの? 大変だ!!」

 私が、玄関に急行しようと立ち上がろうとすると、ミオに押しとどめられる。

「クロエじゃシンシアを運べないだろ? グスタフにやらせろ。」

「仕方ねぇな・・・シンシアを部屋に運んでくるから、皆は先にやっていてくれ。」

 グスタフは、玄関で寝ていたシンシアを抱きかかえると、2階に上がって行った。


「おい、ネコタ。」

「なんだい?」

「今日のことで、オマエがミオより強いなんて思うなよ?」

「ああ、もちろん分かっているよ。」

「いーや、分かってない。 分かってないぞネコタ!!」

「おいおい・・・どうしたんだいミオ?」

「オマエがなあ・・・」

 ミオが猫田さんに絡んでいる・・・ここは関わらないでおこう。


「じゃあ、私がなにか作りますね。」

 そう言って、私は席を立ち台所に向かう。

 その後もミオの猫田さんへの説教?はしばらく続いていた。


 私がありもので用意した、料理と呼ぶにはおこがましいツマミを持ってテーブルに戻ると、猫田さんが困った顔をしている。

 猫田さんの視線の先には、何かブツブツと呟きながら頭を垂れて前後に揺れているミオがいる。 そして、その手元には半分ぐらい空いたお酒の瓶。


「あー、ミオさんもそんなにお酒強くないのに・・・」

「どうしようか。 自分が部屋に運ぼうか?」

「いえ、私が連れて行きますよ。 主役の猫田さんは、どっかりと座っていてください。」

「そうかい? そう言えばグスタフリーダー遅いね?」

「そうですね。 シンシア大丈夫かな?」

 私と猫田さんは、切ったチーズをクラッカーに乗せただけのツマミを食べながら、なんてことのない会話をしてグスタフを待っていた。

 10分もした頃に、ようやくグスタフが戻って来た。


「随分遅かったね。 シンシア大丈夫なの?」

「ああ、今日のアイツは普段以上の酔っ払いだったぞ。 部屋に着いたら暴れ出してな・・・ここに帰って来るまでは普通に見えていたんだけどな。」

「そっか。 じゃ、今度は私がミオさんを部屋に連れて行くから。」

「何? ミオもか?」

「うん。 グスタフがいない間に結構飲んじゃって・・・」

「俺が運ぶか?」

「ううん、大丈夫。 ほらミオさん、部屋で寝ましょうね。」

「う・・・うん。 もう眠い・・・」

 ミオを部屋に送った後、お酒がなくなるまでグスタフに付き合った。

 だって、猫田さん1人にしたらかわいそうだったし。


 翌日、グスタフ、シンシア、ミオは2日酔いでダウンしていた。

 私は、好きじゃないわりにお酒は強いので2日酔いにはなっていなかったし、猫田さんもグスタフが驚くほどにお酒に強いようで、ケロっとしている。


 私は、居間で猫田さんと話をしていた。

「それで、猫田さんは獲物をどうしますか? やはり槍にしますか?」

「そうだね。 昨日使ってみたものはどれもそれなりに扱えたと思うが、槍であれば自分が持っていたものがあるのだろう? それを使えば良いかと思うが。」

「あぁ、アレを使うのはとりあえず止めておきましょう。 素材も良くわからないし、形状もおかしな感じで、今風では無いんで変に目立ちそうです。」

「武器にも流行りがあるのかい?」

「もちろんありますよ。 剣にしても、槍にしてもその形状には意味があります。 もし今、まったく新しい形状のとても切れ味の良い剣が開発されたら、同じ形状の剣は確実に増えるでしょうね。」

「なるほどね・・・。」

「もちろん、今ある形は先人たちの試行錯誤によって培われてきたものですし、基本的な形は変わってないものが殆どですけど。」

「それはそうかも知れんね。」

「あの槍は、今のところ猫田さんの過去に纏わる唯一とも言える手がかりかも知れませんので、もちろんお返ししますけど。」

「けど?」

「もう少し、私に預からせてくださいませんか?」

「クロエさんがそう言うならそうしてもらって構わないよ。」

「ありがとうございます。 その代わりといってはなんですが、猫田さんの武器は私が打ちたいんです。 丁度良質な素材も手に入った所だし、次のクエストに行くのはまだ少し間がありますから。」

「クロエさんは、鍛冶をするのかい?」

「ええ。 本業はそっちのつもりです。 猫田さんを発見したのも私の鍛冶工房の近くだったんですよ。」

「そうか、あの一帯は工房が集まっていた様だったが、あの家は鍛冶工房だったのか。」

「とりあえずは武器だけですが・・・メインの槍と、補助用にショートソードとかでどうですか? 防具やほかの装備は既製品で揃えるしかないですけど。」

「是非お願いしたい。 しかし、自分は金を持っていないんだが。」

「それは、グスタフ達と相談して、報酬の前借りとかでなんとかしましょう。」

 武器の話は決まった。


「後ですね。みんなはもう猫田さんのことを信用しているっぽいんですが、実際猫田さんは怪しすぎます。 嘘をついているかもしれないし、今が嘘でなくても本当の自分を取り戻した時にどうなるか分からないですし。」

「それは、その通りだね。 あまり疑り深いのもなんだが、簡単に信用しすぎるのも良くない。 クロエさんは間違っていない。 それにグスタフ達もその辺はわきまえているよ。」

「そうですか?そうでしたら良いのですが。 では、私は早速工房に行ってきます。 ほかの装備のことは、グスタフに相談してください。」

「わかった。」

「久しぶりに専用装備を打ちますので、頑張って良い物を造りますよぉ~。 なにか希望はありますか?」

 私も猫田さんの怪しさより、彼ほどの腕の人に自分の造った武器を使ってもらえることに少し興奮を覚えながら、急いで工房に向かった。




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