第10話
私たちが、アローヘッド市のホーム前に到着したのは昼を大分過ぎた時間だった。
「昼食時を外してしまったけど、荷物を降ろしたらどこかに食べに行こうか。」
と、猫田さん。
「そうですね。 まずはグスタフたちに顔を見せて、荷物を降ろしたら一緒に行きましょう。」
と、私。
「おー、馬たちよ。 1か月もの間ありがとうナ。」
ミオは、この1月の間一緒だった2頭の馬を労いながら撫でている。
・・・・・・!!
どうも、ホームの方が騒がしい。
「「「??」」」
私たち3人は、お互いの顔を見合わせた。
猫田さんが、ホームのドアに向かって行く、ミオはそれに続いた。
猫田さんが、ホームの玄関ドアを開けると・・・
ヒュンっ!
「ぎょえっ!!」
木製のお皿が飛んできた。
猫田さんは素早くお皿を躱したが、お皿はそのまますぐ後ろにいたミオの顔に当たり、ミオが叫び声を上げて倒れた。
ミオに当たって跳ね上がったお皿を猫田さんが冷静に掴む。
「この浮気者っ!!」
「何を言ってやがるんだ! この勘違い女が!!」
ほらね。やっぱりケンカしている。 ん?でも、シンシアが『浮気者』って言っていなかったか?
「ただいまグスタフ、シンシア。 3人とも無事に戻ったよ。」
猫田さんは、通常運転だ。
「おいネコタ!! ミオの心配が先だろう!?」
「そうだな。 大丈夫かいミオ?」
「ネコタぁ~~! お前~~!!」
猫田さんは、ミオに手を差し伸べて、ミオはその手を取りつつもお怒りのご様子だ。
「猫田、ミオ・・・戻ったのか? 早かったな。」
「お帰りなさい。 みんな。」
ひっかき傷だらけのグスタフと、涙目のシンシアが手を止めて私たち向かって言った。
「どうしたんだい2人とも、早速夫婦喧嘩かな?」
「「なっ・・・!!」」
グスタフとシンシアの顔が赤くなった・・・いや、ケンカ中だったから、もとから赤かったのかも知れない。
しかし、空気を読まない(いや、むしろ読んでいるからこそなのかも?)猫田さんの対応により、2人のケンカはとりあえず収束した。
「じゃあ、俺は荷を引き渡して、馬車を返却してくるからよ。 猫田、一緒に来てくれ。」
「了解だ、グスタフ。」
旅の荷物を馬車から降ろした後、グスタフは猫田さんを連れて依頼主の所に向かった。
出発前に、シンシアが猫田さんに眼の周囲を偽装する魔法を施していた。
こんな時でもシンシアは、猫田さんの眼の事を忘れていなかったようだ。猫田さんのメガネ姿に慣れてしまっていた私は、全然その事に気が回っていなかったので反省だ。
グスタフたちがいなくなったホームの居間には、私を含めた女子3人が残る。
「ネコタめ! アイツは全く女子に対する気遣いが出来ないヤツだナ!! も~! 何というか・・・も~だ!!」
「ホントよね。 全く男ってヤツは、どいつもコイツも本当に分かってない!!」
(え~と、どうすれば良いんだ?この状況・・・)
「あの、シンシア?」
「なに? クローエ、あなたも男には気を付けなさいよ?」
「いや、聞き間違いだったらごめんなさいだけど・・・さっきグスタフに『浮気者』って言ってなかった? あれって・・・」
「おー、ミオも聞いたんだナ。 シンシア告ったのか? それとも告られたのかナ?」
「え? ええ、まあ・・・その・・・告らせました。」
「おおっ! どうやったんだナ?」
「やめてよミオ、そんな話できる訳ないでしょ?」
「どうせ酒だろ? 高い酒で酔わせてキセイジジツを作ったんだろうけどナ。」
「ぐ・・・」
「ミオさんたちが言っていた事、ホントだったんだ・・・」
「あなたたち気付いていたの?」
「ミオにはバレバレだったんだナ。 ちなみに、クロエは知らなかったみたいだけど、ネコタも知っていたんだナ。」
「本当に!?」
「それで、ケンカの原因は何なんですか?」
「それが、聞いてよ2人とも・・・・」
シンシアの話によれば、2人が結ばれたのは、私たちがロアー・リブに向けて出立した日の翌々日のことだったらしい。 それ以降、シンシアは毎食グスタフのために料理を頑張っていたそうだが、今日の昼食に戻ってこなかったため問いただしたところ、グスタフは月の海亭で食事してきたとのことで・・・
グスタフは、以前から何かにつけては、月の海亭の女将(未亡人で美人)にちょっかいを出していたから、早速浮気認定したとのことだった。
「あー、つまらん。 それシンシアの考えすぎなんだナ。 クロエ昼ご飯食べに行くぞ。 ちょうどネコタも居なくなったし、久しぶりに2人で行こう。」
「はい。 ミオさん。」
「え? ちょ・・・ちょっと待ってよ2人とも!! 私の味方じゃないの?」
「シンシア・・・お前、ちょっと拗らせすぎだナ。」
「そうですよシンシア。 ミオさんの言うとおりです。 グスタフが女将さんのことを気にかけているのは、ご主人を亡くした女将さんを元気づけようとしているだけじゃないですか。」
「それは・・・亡くなったご主人とも仲が良かったみたいだけど・・・」
「そういう事だナ。 ミオたちは昼ご飯まだだから、ちょっと食べてくるからナ。」
「じゃあ行ってくるねシンシア。 買い物もしてくるから、夕飯は戻ったら私たちで作るね。」
「ちょ・・・ま・・・えー?」
これならすぐに誤解は解けそうだ。 やはり、色恋沙汰って本人は視野が狭くなるんだな・・・なんて、いっぱしに思ったけど、私にはまだ分かっていないんだろう。
私たちが軽めの食事を終えて、夕食の買い物をしてから帰って来たところ、ホームにはシンシア1人しかいなかった。
「シンシア1人ですか? グスタフたちは戻っていないの?」
「・・・・・・」
「シンシア?」
シンシアは眠っているのか、テーブルに着いて項垂れている。
「シンシア?」
私は、再度声を掛けてみるが反応はない。
「おい、クロエ・・・」
「どうしましたミオさん?」
「コイツ・・・酒飲んでやがるナ。」
「え?」
シンシアが1人でお酒を飲んでいる所なんて、今まで見たことない気がする。
「グ・・・・」
ようやく声を発したシンシアだったが、また黙ってしまった。
「う・・・・」
「う?」
「う・・・・」
「シンシア・・・大丈夫?」
「うわ~~~ん!! グスタフに捨てられた~~~~!!」
「うわっ! ビックリした!」
「ミオとクローエにも見捨てられた~~!!」
「えっ? えっ? どうすれば?」
「うわ~~~ん!!」
「シンシア、見捨ててなんかいないから? ね? 泣かないで? ちょっとミオさん?」
私は、シンシアを扱いかねて、ミオに助けを求める。
「あ~、もうめんどくさい女だナ。」
「ミオが、めんどくさい女って言った~~!!」
(ミオさ~~ん!!)
「シンシア・・・オマエ、泣き喚いてどうにかなる歳じゃないんだナ。」
「ぎゃあああああああ!! ミオ~!! 言ってはならんことを~~!!」
「まって! シンシア!!」
シンシアがミオに飛びつこうとしたので、私は2人の間に入った。
入ったけど、勢いづいたシンシアの爪が私の頬を掠めてしまった。
「痛っ!」
「あっ・・・クローエごめんなさい! そんなつもりじゃ・・・」
シンシアは我に還ったようだ。 良かった。
「おい、エルフ・・・・」
私とシンシアは禍々しい気配を感じ、2人同時に気配のする方向にゆっくりと顔を向ける。 そこには、修羅と化したミオの姿があった。
ミオは、クチから白い煙(?)を吐きながらゆっくりと構えを取ると、じわりと前進してくる。
私はすぐにシンシアを遠ざけて反転すると、今度はミオに飛びついた。
「ミオさん! 待って! 止まって!! お願いっ!!」
私の制止も聞かず、ミオはさらに前進を続ける。
「私は平気だから、お願いっ止まって!!」
「グルルルル・・・」
ダメだ。 私の力ではミオを押さえられない。 仕方ない・・・シンシアも居るから恥ずかしいけど、ミオを止めるにはコレしかない。
「ミオお姉ちゃん止まって!!」
「ウ・・・グガガ・・・・・」
変な唸り声を上げてミオは止まった。
やれやれ・・・寸劇に付き合わされる私の身にもなってほしいよ、ホントに・・・




