第9話
兄真鞘を見送った後、すぐにミオに着替えを促し、私も冒険用装備に着替えた。
ミオが戻って来る前に、猫田さんに声を掛けておく。
猫田さんの部屋をノックすると「どうぞ」といつもの反応が戻って来た。
「猫田さん、お待たせしました。 時間がかかってしまいまして申し訳ありません。」
私は、扉を開けながら猫田さんに謝罪する。
猫田さんは、出発準備はバッチリ済んでいるようだった。
「沢山話せたかい?」
「ええ、お陰様で。 今度はアローヘッド市まで会いに来てくれるそうです。」
「そうか、良かったねクロエ。 もう出発準備は完了したのかい?」
「はい。 私は大丈夫です。 ミオさんの準備が終わったら出ましょう。」
「分かった。 じゃあ、自分は先に行って馬車の準備をしておこう。」
「はい。 ありがとうございます。」
昨晩、猫田さんを怒らせてしまったので、どうなるかと思っていたけど、いつもの猫田さんだった。 本当にご心配をおかけしてしまい申し訳ない。
今日は猫田さんが御者を務める。
珍しいことに、ミオは御者席で猫田さんの隣に座っていた。
ミオと猫田さんの会話が聞こえる。
「おい、ネコタ。 クロエのお客は誰だったかネコタは知っているのかナ?」
「んーどうだろう。 学校かなにかの同期とかではないのかな?」
「ふっ・・・まあ、ネコタではその程度の答えしか出ないだろうナ。」
・・・相変わらずミオは、猫田さんに対する当たりが強い・・・。
(そう言えば、猫田さんには兄に会うって伝えていなかった・・・でも、今教えたらミオに怒られそうだし・・・どうしようか?)
「ネコタよ、聞いて驚けよ? なんと!クロエの兄ちゃんだったんだナ!」
(ああっ! 迷っている内にもう言われてしまった!)
「は? 兄上かい? え? 姉上ではなく?」
猫田さんは、昨夜のミオと全く同じ反応をしている・・・
「そうだぞネコタ。 驚いただろう? ミオは昨日の夜に教えて貰っていたけどナ。」
「クロエ・・・そう言う大事なことは事前に教えておいてくれないかな・・・そうと知っていたら、もう少し時間もなんとかできたかもしれない。」
「すみません猫田さん。 昨晩お話しする余裕が無くって・・・ごめんなさい。」
「まあ、クロエの兄ちゃんも時間が無かったみたいだからナ。」
「そうか・・・じゃあ、兄上がアローヘッド市に来てくれる日が待ち遠しいね。」
「はいっ!」
「そう言えばミオさん、兄から最後に貰ったものは何だったんですか?」
「あ! まだ見てなかったナ! クロエ、ミオの袋の中にあるから取ってくれ。」
「分かりました・・・えっと・・・あ、ありました。 どうぞ、ミオさん。」
「おー、ありがとなクロエ。」
ミオに包みを渡すと、ミオは早速包みを開ける。
「おー。 きれいな棒だナ? この金色は、金かナ?」
「あ・・・・」
包みの中には、漆塗りに細かな金細工が施された鞘の小刀が入っていた。
それを目にした途端、私の目からは涙が溢れだした。
「おい、クロエどうした? お腹いたいのか?」
ミオが心配そうに私を見ている。 猫田さんも戸惑っているように見える。
「ミオさん、それは棒じゃないですよ。 ここをこう・・・」
私は涙を拭いてから、ミオの小刀を受け取り、鞘から引き抜いて見せる。
「おおー。 小さいナイフだったんだナ。」
「ええ、この小刀は私と兄の母のものです。 父が母に贈ったものでもあります。」
小刀をミオの手に戻す。
「え・・・? そんな大事なものをミオにくれたのか? なんで?」
「きっと兄は、それだけミオさんに感謝していたんだと思いますよ。」
「そんなに感謝されるようなことしてないし、そんな大事なもの貰えないナ。」
「いえ、兄がミオさんに差し上げたものですから、ミオさんが持っていてください。」
「でも・・・」
「いいんです。 私もミオさんに持っていて欲しいです。」
「いいじゃないかミオ。 クロエの兄上がミオに贈ったんだ。 だからミオのものだ。」
「そ、そうか? そうだナ。 ミオはこれ、大事にするんだナ。」
「はい。 そうしていただけると私も嬉しいです。」
「クロエの兄ちゃんとまた会ったら、ちゃんとお礼を言わないとナ。」
「はい。」
兄は・・・兄自身も言っていたことだけど、ミオが私に世話を焼いてくれたことに本当に感謝していたのだと思う。だって、兄に取って私はカワイイ妹だしね。
そんな事を思っていると、兄との会話を思い出す。
カズチ様とニグラ=フラマ神の関係。 それに黒い炎・・・
やはり『業火』をパーティのみんな以外がいる場所で使うのは止した方がよさそうだ。
王都からアローヘッド市に向かう道中も、今の所さしたる問題もなく順調だ。
あと2日もすれば、アローヘッド市に到着するだろう。
3月。段々と春めいてくる季節・・・1月程の旅だったけど、色々な出来事があった。
最近ミオと猫田さんが、楽し気に話をしている場面が増えた。 早くミオが自分の気持ちに気付いてくれれば良いけど・・・猫田さんはかなり手強いと思うよ?
エッタは、良いパーティに巡り合えただろうか? ぜひ、テリアの分まで生き抜いてほしいと思う。
中央大陸で初めて食べた生魚料理。確かカルパッチョだっけ? 故郷のものとは違うけど美味しかった。 また港町に行く機会があればぜひ他の生魚料理も探して食べてみたい。
千年武器店に卸した私の刀たちは、どんな人に渡ったのだろう? それともまだ売れていなかったりして・・・気になるなぁ・・・確かめる手段がないのが残念だ。
兄は大丈夫だろうか? アローヘッド市で会える日が待ち遠しい。
そして、グスタフとシンシアは・・・ミオたちが言っていたことが本当だったとしたら、彼らにも春は訪れているのだろうか? とりあえずホームに戻る楽しみが1つ増えた。私的にはケンカとかしていないかが心配だけど。
「あ!!」
「「どうしたクロエ!?」」
私が突然上げた声に対して、ミオと猫田さんが同時に振り返り声を掛ける。
思い出した。 エッタたちが護衛していた商隊を襲った野盗の腕にあった『ラッパを持ったガイコツ』の彫り物・・・王都で、兄とともに戦った悪党の腕にあったのも、多分同じものだった。
偶然? それとも結構大がかりな犯罪組織だったりするのか?
私は、なんとなく嫌な予感を感じてしまった。




