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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第5章 クロエとミオ3

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第8話

「次は、兄さんの話を聞かせてください。 どうして黙って里からいなくなったのですか?」

「そうだな。 すべては俺の所為だろうから、お前には聞く権利があるだろう。」

「兄さんの所為・・・ですか?」

「ああ、順を追って話そう。」

「はい。」


「俺は里を・・いや八州国を出て、剣で身を立てたいと常々思っていた。」

 

 私は黙って1度頷く。 何故か隣のミオも頷いている。


「そんな時、近くの街にオーディア教の宣教師がいることを知ったのだ。 オーディア教自体には興味があった訳ではなかったが、外国・・・中央大陸のことや、その言語には興味があったので、俺は宣教師のところに通っては、話を聞き、言葉や文字も教えてもらっていた。」

 

 そう言えば、真鞘は里からいなくなることが度々あったと思い出す。


「宣教師の話を聞いているうちに、中央大陸に対する憧れは大きくなって行った。 そんな頃に鍔姫が都の学校から戻って来た。 俺は父上に言われて、鍔姫と一度立ち会ったんだ。 結果はどうだったと思う?」

「・・・・・」

「俺の完敗だったよ。 鍔姫は魔法の天才でありながら、剣もかなり使うことは知っていた・・・しかし、まさか俺は負けるなんて思っていなかった。 鍔姫は本物の天才・・・いや、誤解を恐れずに言えば()()()()だよ。 確かに病弱で体力は無いヤツだったが、1対1であいつに敵う者はそうはいないだろう。 鍔姫は一度だけ剣を振るえれば、倒れないヤツはいないのだからな。 ・・・すまない、つい脇道に逸れてしまったが、別に俺は鍔姫が憎いとか、嫌いとか・・・ではないんだ。 ただ、アイツのことは恐ろしいと感じている。」

「兄さん・・・」


「話を戻そう。 鍔姫に敗れた後、俺は宣教師の元に行ったんだ。 そこで、宣教師からあることを聞かされた。」

「あること・・・ですか?」

「ああ、『黒い炎に関する言い伝え』を探している・・・とな。」

「・・・・・」

「俺は信じていなかったが、お前も聞いた事はあるだろう? 金岡の一族には、冥府の炎と鍛冶を司る神『カヅチ』の加護があるとか言う話だ。 カヅチは黒い炎を操るという・・・俺は、その話を宣教師にしてしまったんだ。」

「そんな・・・ことが・・・・」

 私は、喉の渇きを感じてゴクリと唾をのみ込む。

 兄は当主が受継ぐ『神様』の力のことを知らないのだ。 ミオは私の方をチラっと見たが、私が『業火』のことを話さないからか黙っている。


「里が襲われたのは、それから少し後だった。」

「兄さん・・・」

「俺は襲撃者を何人か斬った。連中は明らかに八州国人では無かった。 俺は賊と戦いながら父上を探した。 父上を見つけた時には、既に虫の息だったが、夜露と()()を俺に託して『行け』とだけ言い残して息を引き取ったのだ。 母上は近くで既に亡くなっていた。」

 真鞘は、所々鍍金(メッキ)のはがれた金色のペンダントを見せる。 それは、オーディア教のシンボル『秩序の槍』を象ったものであった。 だけど、一般的に見かけるものと少し違うような気がする。


「それは、オーディア教の秩序の槍・・・ですか?」

「気が付いたか? これは秩序の槍であるが、現在の教団のものではない。」

「日輪のシンボルがありませんね。」

「そうだ。 現在のシンボルは、秩序の槍の外輪に太陽をモチーフにした、燃えるような形の輪がついている。 これは魔導帝国との争いの際に、太陽神は秩序神に従って力を貸したという伝説があるためで、オーディア教は『太陽神ソル』も取り込んだ訳だな。」

「なるほど。」

「しかし、このシンボルには輪は付いているが、単なる輪っかで日輪ではない。例えば、ネックレスとする際には鎖を通すための穴が必要になるだろう? しかし、秩序神のシンボルたる槍に穴を開けるのは問題があると考えたのだろうな、だから槍に輪っかを付けて、そこに鎖を通したり、リングを付けたりとかできるようにしたもので、元々は宗教的な意味がない部分と思われる。」

「後にその輪の部分を、太陽に見立てた人がいた訳ですね。」

「恐らくそういう事なのだろう。 太陽も引き込んだ方が民衆受けは良いだろうしな。」

 珍しいことに、普段は長話にはすぐに飽きてしまうミオも、興味深げに兄の話をふんふん言いながら聞いていた。


「それで・・・その昔のシンボルがどうかなるんですか?」

「俺も噂レベルでしか知らないのだが・・・オーディア教は、教皇を頂点として組織が創られている・・・拒否権や独自行動が認められていると言っても、俺のいるホーリーオーダーだって教皇の傘下の組織には違いない。」

「はい。」

「だが、その教皇を頂点とする組織の他に、全く別の『聖女派』という派閥があるらしい。 その聖女派のトップとされる『聖女(セイント)』は、教皇と同格かそれ以上の権力があるという・・・」

「その聖女派がシンボルとしているのが、古い方の秩序の槍ということですか?」

「すごいな黒柄、その通りだ。 なんでも聖女と言うのは伝説の12勇者の1人のことらしいぞ。 つまり3,000才を遥かに超えている訳だな。」

「光の12勇者で聖女となれば・・・・」

「ヴァルゴだろうナ?」

「ミオ殿の言うとおりだと思う。 12勇者で女性とされているのは何人かいるが、聖女と言われて真っ先に思い描くのは、12勇者を率いたとされるヴァルゴだろうな。 それに、ヴァルゴは最終決戦を生き延びたとされているしな。 第6国に教団の本拠地があるのも合わせると、間違いないだろうと思う。」

「でも、その聖女が12勇者のヴァルゴ本人とはさすがに思えませんね。」

「そうだ。 聖女の名前を代々継いでいる者がいるのか、もしかすると子孫だったりするのかもな。」

「・・・・・」

 私は、なんとなく猫田さんの顔を思い浮かべていた。


「また話を逸らしてしまった。 すまない。」

「いえ・・・」

「聖女派は、いうなればオーディア原理主義者の集まりだ。 魔導帝国戦の時から何も変わっていないのだそうだ。」

「・・・・」

「聖女派は、基本的に秩序神以外を崇めない。 伝説で秩序神に協力したとされる太陽神などの神々は認めているものの、それ以外は認めないそうだ。 ましてや混沌神以下、オーディアと対立した神々はむしろ排除の対象だ。 それに関しては、教皇派も同じなのだが、教皇派は時代とともに態度を軟化させており、今は積極的に他の神々や信者を弾圧することはしていない。」

「兄さんは、オーディア教に関することに随分お詳しいのですね。」

「ああ、ホーリーオーダーに入団するためにはオーディア関連の知識は必要だったからな。 かなり勉強したのさ。」

「そうなんですね。」

「八州国でカヅチと呼ばれている神は、中央大陸で言えば、獄炎神『ニグラ=フラマ』だろう。 そしてニグラ=フラマは、混沌神の系譜である冥界神『アンフェール』の息子だ。」

「それって・・・」

「宣教師は、聖女派と関係があったのだろう。 聖女派にとって、獄炎神は排除すべき悪神だ。 俺の話したカヅチと獄炎神を同一視したのだろうな。 そして、手っ取り早く金岡の里ごと消し去ることにしたんだ。 里で俺が斬った賊の1人はその宣教師だったよ。」

「・・・・」

「つまり・・・俺が宣教師にした話が原因で里が滅んだ・・・ということになる。」

「兄さん・・・」

「謝って済む話ではないが、本当に済まない。」

「いや、クロエの兄ちゃんが悪いわけではないと思うナ。」

 殆ど口を開いていなかったミオが、兄を気遣ったのか口を挟んだ。


「ミオ殿、気を遣っていただいてありがとう。」

「そうです・・・八州国では、冥府の神も冥府の炎の神だって神です。 そこには善悪はありません。」

「それに、クロエの兄ちゃんが話さなくても、いずれ・・・」

 ()()()()()()()()()・・・と言いかけてマズいと思ったのだろう。ミオは途中で言葉を飲み込んだ。


【俺は、父上に託された夜露で、聖女とやらに復讐するために教団に潜入している。 これで俺の罪が帳消しになるとは思わないが、命は命で贖ってもらう。】

 ミオには聞かせられないと考えたのか、兄は()()()()で話し始めた。 私も八州国語で返す。


【そんな! 兄さん!! 復讐なんてしても死んだ人は戻りませんし、それで兄さんに何かあったら悲しむはずです。 私だって亡くなったと思っていた兄さんに思いがけず出会ったばかりなんですよ? 復讐なんて止めて、私と一緒に居てください!!】

【お前の言う事はもっともだ。 恐らくそういう話を聞いたら俺も同じ反応をするだろう。 しかし、当事者と言うのはそうでは無いんだ。 分かってくれとは言わないが・・・すまない黒柄、今やめる訳には行かない。】

【兄さん・・・・】

 私が兄から目を背けた拍子に、私を見ているミオが目に入る。

 突然訳の分からない言語での会話を聞かされたミオはきょとんとしている。


「ごめんなさいミオさん。 びっくりしましたよね。」

「・・・うん。 何を話していたんだナ?」

「いや、ミオ殿のようにやさしくて素敵な女性に良くしてもらえる黒柄は幸せ者だって話ですよ。」

「え? いやぁ・・・そんな褒めてもなにも出ないんだナ。」

「黒柄のことを気にかけてくれて本当にありがとうございます。 ミオ殿には感謝してもしきれない。」

「クロエの兄ちゃん、褒めすぎだナ。 ・・・でも、そんな事を話している感じじゃなかったようナ・・・?」

「いいえ、ミオさん。 兄さんの言ったとおりです。」

「そうか?」

「ミオ殿、俺には任務があるので、今すぐには黒柄と一緒にいることは出来ない。 ミオ殿に甘えるようで申し訳ないが、今しばらく妹の面倒をみてはもらえないでしょうか?」

「お、おう。 ミオに任せてくれ。」

 ミオは、胸を張ってドンと一回叩いた。


「ありがとうミオ殿。」

 ミオにお礼を言った兄は、とてもいい笑顔をしていた。


「すまない黒柄、そろそろ戻らないといけない。」

「はい・・・」

「アローヘッド市に住んでいるのだったな? その内に必ず会いに行くよ。」

「本当ですか兄さん?」

「ああ、お前は俺の()()()()()だからな。 それにミオ殿にはキチンとお礼をしないとならないしな。」

「はい。 私、楽しみに待っていますから。 絶対に会いに来てください。」

「ああ、絶対だ。 それではな。 ミオ殿も健やかに。」

「クロエの兄ちゃん、クロエのことはミオに任せてくれ。」

「ありがとうミオ殿。 そうだ。 これを受け取ってくださいますか? 今はこれぐらいしかお返しできませんが、次にお会いするときにはきちんとしたものを持っていきますから。」

 最後にそう言って、兄はミオに包みを1つ渡して去って行った。


 今、兄の復讐を止めさせることはとても出来そうにない。

 でも、何度か会うことが出来れば、もしかしたら・・・

 そう思いながら、兄の後ろ姿を見送った。



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