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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第5章 クロエとミオ3

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第7話

 コンコンッ

 ドアをノックする音が聞こえた気がする・・・


 コンコンコンッ

「クロエさま。 お客様がいらっしゃいましたよ。」


「うわあっ!! そうだった!!」

 ウサギさんの声を聴いて、私は飛び起きた。


「すみません! すぐに開けます!!」

 身支度をしている暇はない。 真鞘(まさや)兄さんに時間がどのくらいあるかも分からない。

 ミオはまだ寝ているけど、今は真鞘兄さんの方を優先させてもらおう。


 ドアを開けると、ウサギさん、その後ろには真鞘兄さんがいた。


「案内していただいて、ありがとうございます。」

 ウサギさんにお礼を言うと、ウサギさんは笑って去っていく。


「真鞘兄さん、ごめんなさい。 寝過ごしてしまって・・・」

「そうか・・・少し外で待っているから着替えなさい。」

「・・・はい、すみません。 少しだけお待ちください。」

 私はドアを閉じると、まずミオを起こしにかかる。 私は、家族相手だからまだいいけど(もちろん兄には申し訳なく思っているよ)、お年頃のミオの寝姿を公開するのは偲びない。


「ミオさんっ! ミオさん!! 起きてください!! もう兄さんが来ています!!」

「んー。 まだ眠いん・・・だ・・ナ・・・」

「お願いっ!! ()()()()()起きて~!!」

「はっ!!」

 ミオが急に覚醒した。 やはり『お姉ちゃん』は、ミオに対して『()()()()()()()()』だ。


「そうだった! クロエの本当の兄ちゃんに、だらしないカッコは見せられないんだナ。」

 そう言って、ミオは部屋着のボタンを止めると、少し手櫛で髪を梳く。


「よしっ!」

 ミオは準備完了とばかりに言い放った。


(え? それで完成? いいの? 知らない男の人の前に出るのに、お姉ちゃんはそれでいいの? でも、元がカワイイ人はコレだからなー・・・なにもしなくてもカワイイし、何かしたらしたでもっとカワイイ・・・ズルいっ!!)


 確かに、ここは私の部屋だからミオの荷物は無い。したがって着替えも無いのだけど・・・私の服を借りるとか・・・よし、時間もないし本人がいいなら良しとしよう。

 私は一応外出できる程度の服に着替えた。


「兄さん、お待たせしました。」

「開けても平気か?」

「はい、どうぞお入りください。」

「では失礼するよ。」

 真鞘がドアを開けて部屋に入って来る。


「おぉ・・・クロエの兄ちゃんか・・・」

 ミオを認めて、軽く会釈した兄を見上げるミオがボソりと呟いている。


「少し、ネコタに似ているかもナ・・・」


(!?)


 ミオの呟きを聞いた私はハっとする。 確かに背格好は似ているかもしれない。 髪の色は違うし、顔は似ている訳でもない(特に瞳が違うし)けど、全体的な雰囲気は似たのもがあると言われれば、確かに似ているかもしれない。

 私が猫田さんを初めて見つけたときに、その状況の怪しさにも関わらず警戒心があまり働かなかったのは、もしかすると無意識に兄に似ていると感じたからなのかもしれない。



 兄には机のところにある椅子を勧めて座ってもらう。

 椅子は1つしかないので、私とミオはベッドに座る。


「未沙柄・・・ではなく、今は黒柄だったな。 黒柄、そちらのお嬢さんは?」

「はい、こちらはミオさんです。 私が今お世話になっているパーティの先輩です。」

「そうか・・・お初にお目にかかりますミオ殿。 私は黒柄の兄で、真鞘と申します。」

「コンニチハ。 ミオデス。 クロエノアネヲシテイマス。」

 ミオは結構緊張しているようだ。


「え? 姉を・・・している・・・と、言ったのですか?」

「あ!兄さん、ミオさんは私にすごく良くしてくれるので、私が姉の様に慕っているっていうことなんです!!」

「そ・・・そうか。 ミオ殿、妹が大変お世話になっているようで、お礼を申し上げます。」

「ミオノ・・・ワタシノコトハキニシナイデ、オハナシヲシテクダサイ。」

「ミオ殿、お心遣い痛み入ります。」



「兄さん、昨日はあの後平気だったのですか?」

「ああ、問題ない。 これは、他言無用で頼みたいのだが・・・俺は今、ホーリーオーダーの一員になっているんだ。 今は任務の一環としてサジタリアに滞在している。 黒柄、ホーリーオーダーは分かるか?」

「確か、オーディア教団直属の騎士団ですよね?」

「そうだ。 いくつかある騎士団の中でも、ホーリーオーダーには結構な権限が与えられているのでな、昨日の件もその範囲内だから大丈夫だ。 兵士からの聴取にも協力したしな。」

「そうなんですね。 まずは良かったです。」


 それから、まず私から里の大火事の後のことを真鞘に話した。


 火事で亡くなった父母と同様に、兄についても亡くなったと聞かされていたこと。

 一族の宝刀であった『黒刀夜露』も『直刀白鷺』も焼失してしまったと聞かされていたこと。

 私以外に、叔父と姉が生き残ったが、姉はすぐに1人で里を出て行ってしまったこと。

 私は叔父に引き取られ、鍛冶技術と当主を証である『黒』の一文字を受継いだこと。

 その叔父も2年前に亡くなったため、姉を追って中央大陸に渡ってきたこと。

 ミオのいるパーティに拾われて、もうすぐ1年半になること。

 城塞都市アローヘッドに工房を持ち、鍛冶は続けていることなどを話した。


 私の話をしている間、真鞘はずっと黙って聞いていた。 簡単にだが、今までの経緯を一通り話した後、ふいに思っていたことが口に出てしまう


「兄さんの夜露を見てから思ったのですが、ヒヒイロカネで造られたという、夜露や白鷺が火事で焼失なんてしないですよね? 少なくとも刀身は残るのではないでしょうか? もしそうだとしたら、白鷺はどうなったのでしょう? まだ里のどこかに埋もれているのか・・・本当に焼失してしまったのでしょうか?」

「うむ・・・分からないが、ひょっとすると鍔姫(つばき)が持っているのかも知れないな?」

「火事の後、数日は鍔姫姉さんと一緒でしたが、姉さんが白鷺を持っているようには見えませんでした。」

「だとすれば、叔父上が隠していたのではないか?」

「叔父さんは、白鷺の事は一言も話していませんでしたし、亡くなる直前に打った叔父さんの最後の刀を私に下さいました。 もし叔父さんが白鷺を持っていたのなら、多分私に下さったのではないでしょうか?」

「そうだな・・・」

 兄は、机の上に置いた夜露に眼をやり、何かを考えているようだった。


 そして、私は話の締めくくりとして最後に

「鍛冶一族としての金岡は、もう終わってしまいました。 生き残った里の住人は30数名ほどで、その中には鍛冶の技術を持っている人は黒・・・いえ、鉄芯叔父さんしかいませんでした。」

「叔父上は、里に住んでいなかったから無事だったのだな。」

「はい。 私もその日は叔父さんの所にいたので助かりました。」

「そうだったな。」

「生き残った里の人たちも、結局半分くらいは里を離れたようで、残りは自給自足でひっそりと生活しているようです。 幸いと言いますか・・・畑や家畜は無事でしたので、残った人たちはなんとか生活はして行けていると思います。」

「・・・そうか。 色々聞かせてくれてありがとう黒柄。 辛かっただろう。 本当にすまなかった。」

 兄は、私を申し訳なさげに見つめていた。


 左隣に大人しく座っていたミオは、何時からか私の左腕を掴んでいた。もしかしたら、また泣かせてしまったかもしれない。


「いいえ・・・次は、兄さんの話を聞かせてください。」

 私は、兄真鞘の目を真っ直ぐに見てお願いした。


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