第5話
私が、夜の王都で悪党に襲われていた女性2人を助けた後、5人の悪党と戦っていた剣士は、剣を鞘に納めた後に、私のいる方向に向かって近寄って来る。
彼は、私の少し横を通り過ぎ、未だうずくまったままの女性に向かって歩いて行くが、その際に、私の肩を「良くやった」とでも言うようにポンっと1度叩いて行った。
そして、彼は女性たちに向かってやさしい声色で声をかけた。
「おケガはなかったですか?」
「は、はい・・・平気です。 ケガは・・・していません。 助けていただき、ありがとうございました。」
「そうですか、それなら良かったです。 立てますか?」
「はい、なんとか・・・」
剣士が差し出した手を取ると、女性は震えながらもなんとか立ち上がる。
「お2人とも、歩けそうですね。 それでは早くここから立ち去ったほうがいいでしょう。 帰り道は分かりますか?」
「はい・・・ありがとうございます。 そちらの方もありがとうございました。」
私に向かって頭を下げる女性に、私は手を上げて答える。
2人の女性は街の明かりを目指して、まだ覚束ない足取りで歩き出した。
途中何度かこちらを振り返りお礼を言って頭を下げていた。
女性2人を見送った後、剣士は私が踏みつぶした悪党を引き起こす。
「こいつは、まだ生きているようですね。 生きた証拠がいて助かりました。 私は5人とも斬ってしまった・・・」
そう言いながら、倒れていた男の腰から剣帯とベルトを抜き取ると、素早く男の手首と足首を縛る。
倒れていた男の右腕には彫り物があるのが見えた。
最近同じような彫り物をどこかで見た気がする・・・しかし、今はそんなことはどうでもいい。
悪党を縛り上げた後、剣士はようやく私の方に向き直った。
「ご助力に感謝いたします。 貴女が助けに駆け付けてくれたお陰で、先ほどの女性たちを助けることができました。」
「はい・・・」
「すぐに騒ぎを嗅ぎ付けた警備の兵士が来るでしょう。 兵士に見つかると事情聴取とか面倒なことになりますので、貴女も早くここから立ち去った方がいいですよ。」
「・・・そうですね。」
「そうだ。 さっき貴女が使っていたのは鎖鎌でしょうか? この国では珍しいですね。 初めて目にしたかも知れません。」
「そうです。 あの・・・私からも一つ伺っても良いですか?」
「何でしょうか?」
「あなたの使っていた刀・・・どこで手に入れたんですか?」
「刀をご存じとは・・・」
「教えてください。 その刀は・・・『夜露』では無いですか!?」
「なっ・・・なぜ夜露を知っている!?」
その時、雲間から顔を出した月の明かりが、私と剣士を照らしだした。
黒髪の精悍な剣士の顔が見える。
「ま・・・真鞘兄さん・・・ですか?」
「な・・・まさか・・・未沙柄・・・なのか?」
「真鞘兄さんっ!!」
私は考える間もなく、自然に兄真鞘の胸に飛び込んでいた。
「み・・・未沙柄・・・」
真鞘は少しの間固まっていたが、やがて私を抱きとめて、頭を撫でてくれた。
「兄さん・・・お話ししたいことが沢山あるんです。 でも・・・でも・・・」
私が中央大陸に渡ってきた目的は、姉鍔姫を探すためである。しかし、亡くなったはずの兄真鞘と、焼失してしまったはずの宝刀『黒刀夜露』に、思いもかけず出会ってしまった・・・
話したいことは色々ある・・・あるハズだが、何から話して良いのか考えが全然纏まらない。
「分かったよ未沙柄。 だが、今はここから離れるのが先だ。」
「嫌ですっ!! 今別れたら、もう会えないかもしれないじゃないですか!!」
「大丈夫だ未沙柄。 明日、俺からお前に会いに行くよ。」
「本当ですか?」
「ああ、未沙柄はサジタリアに住んでいるのか? それともどこか宿を取っているのか?」
「今は旅の途中で『子うさぎ亭』というウサギの獣人が営んでいる宿に泊まっています。」
「ああ、そこなら分かる。 明日の朝に子うさぎ亭に行くよ。 宿の人にそう伝えておいてくれ、話は明日しよう。」
「本当に会いに来てくれますか?」
「ああ、必ず行く。 約束するよ。」
「分かりました。 明日・・・絶対ですよ?」
「ああ、早く行くんだ。」
私は、兄の言葉を信じ、その指示に従ってその場を離れることにする。
「そうだ! 兄さん、私の今の名前は『黒柄』です!」
最後にそう兄に伝えてから急いでその場を後にした。
「黒柄・・・そうか、お前が継いだのだな・・・」
真鞘は、何度も振り返りながら遠ざかっていく、妹黒柄を見送りながら呟いた。




