第4話
侯爵令嬢と面会した次の日の朝、グスタフが目を覚ますと、猛烈な頭痛を感じた。
「う・・・頭イテぇ・・・昨日は・・・少し飲み過ぎた・・・か?」
指でこめかみの当たりを刺激していると、チラチラを目に入って来る部屋の雰囲気が、見慣れたいつも部屋とは違うことに気付く。
さあっ・・・と血の気が引いていくのを感じる。
続いて悪寒が走り、体がブルブルと震えて来る。
隣を見てはいけない。
長年冒険者として、また一時は騎士団員として、数多の戦いを経験してきたグスタフの勘が、最大級の警告音を発する。
自分以外の何かの重みを感じる右側に、一度は顔を向けようとするが踏みとどまる。
そうだ、見てはいけない。
警告は続く。しかし、確認しないままではいつまでも警告音は鳴りやまないだろう。
グスタフが覚悟を決めて恐る恐る顔を右に傾けると、果たしてそこには眠っているシンシアの姿があった。
「な・・・なんて事だ・・・」
グスタフは、思わず両の手で顔を覆った。
彼は、その体制のまま昨夜のことを必死に思い返す・・・
昨晩飲んだいつもよりも高級な酒が、思いのほかうまくて、ついつい酒が進んでしまったのは覚えている。シンシアの作ってくれた料理もうまかったのは思い出せる。
おねだりをして買ってもらった高級な酒2本が空になる頃には、意外と酔いが回っていたのでお開きにしようとした。
しかし、シンシアが自分に内緒で密かに購入していた、さらに高級な酒を出してきたため、どうしてもソレが飲みたい衝動に抗えなくて・・・栓を開けた・・・ところまでしか思い出せない。
シンシア1人では、自分を居間から2階の部屋に運ぶことなど到底無理だろう。そうなると、自分の足で部屋まで歩いて来たとしか思えない。
そうだとすると・・・俺が・・・!?
「おはようグスタフ・・・」
目覚めたシンシアは、普段通りの態度でグスタフに声を掛ける。
「シ・・・」
「し?」
「シンシア・・・すまない。 俺は・・・俺自身の誓いを破ってしまったようだ・・・」
「うん。」
「しかし・・・しかし、それは・・・」
「それは? なによ?」
「・・・お前のせいでもあるよな?」
「う~ん・・・まあ、ゼロってことは・・・ないかもしれないわね。」
「そうか・・・シンシア・・・」
「なに?」
「責任取ってくれるか?」
「・・・ぶっ!」
シンシアは、思わず吹き出してしまった。
「なによそれ? そういうのは私のセリフじゃないの?」
「いや、よくよく思い返してみると・・・お前、昨日ほとんど酒飲んでなかっただろう?」
「そうだったかしら?」
「いや、間違いない。 お前、普段だったら2日酔いで機嫌悪いのに、今はピンピンしているじゃねえか。」
「そういう日もあるんじゃないかしら?」
「俺は・・・お前の策に嵌ってしまったせいで、俺自身で立てた誓いを自ら破ってしまったんだ。」
「グスタフ・・・そんなに深刻に考えないで? 私だって・・・」
「エルフのお前はさ・・・これから百年、二百年と生きていくんだろうけどさ・・・それに比べたら俺の寿命なんて長く見積もっても後20年もないだろう・・・」
「うん。」
「それでも・・・」
「・・・それでも・・・?」
「それでも、俺を嵌めた責任取って、俺の嫁になってくれるか?」
「グスタフっ!!」
シンシアはグスタフに飛びついた。
シンシアに押し倒される格好になったグスタフは、いつもと違う天井を見ながら呟く。
「ミオたちに、どう説明したらいいもんかな?」
「大丈夫だって。 あの娘たちならきっと喜んでくれるわ。」
「そうかな? いや、そうだな。」
「シンシア・・・」
「ん? 何?」
「エルザに何か吹き込まれたのか?」
「ん~・・・ちょっと背中を押してくれただけだよ。」
「そうか。」
「ねえグスタフ。 私、ミオやクローエみたいな、元気でかわいい子供が欲しいな。」
「ハーフはいじめられるぞ。」
「そんな奴らは、私が捻りつぶしてやるわよ。」
「ああ・・・そうだな。」
エルフ種であるシンシアなら、自分が死んだ後でも子供を見守って行くことができるだろう。いや、むしろ子供よりも遥かに長生きするのだから、子供の最後までも見届けてくれる事だろう。
それなら・・・と、グスタフは腹を括ったようだった。




