第3話
「おい、パトリック。 お前も外してくれ。」
グスタフが応接室から離れていくのを見送った後、エルザは鬼瓦・・・もとい、戦姫の盾に向かってそう言い放った。
(彼はパトリックというのね。 あの巨体なのに、いつの間にか存在を忘れていたわ。)
「わかりましたエリザベート様。 となりの部屋で待機しております。」
戦姫の盾も応接室から出ていく。
私は、パトリックの後ろ姿を追いながら、彼の気配遮断能力に驚嘆していた。
応接室にエリザベートと私の2人だけになったところで、エリザベートが話を始める。
「シンシアさん、あなたはグスタフさんに好意を持っているってことで良いのですか?」
「は?・・・・え!?ええ!? エリザベート様、いったい何を言い出すんですか!?」
「いえ、私は若い時分からグスタフさんには色々と世話になりましたので、彼には良い目にあって欲しいのですよ。」
「そ、そうですか? でも、なんで私が?」
「違いますか? もし違っていたのでしたらすみません。 今の話は忘れてください。」
「い・・・いえ、その・・・違っては・・ないと・・いいますか・・・」
「あ、やっぱり? そうですよね? やっぱ、アタシの乙女心はまだまだ現役だぜ。」
エリザベートの口調は、侯爵令嬢から冒険者のソレに変わっていた。
「でも、グスタフはパーティメンバーとはそうならならないって公言していますし。」
「パーティ内恋愛でいざこざが起きるってのは良く聞く話だもの。 グスタフさんが当事者なのか、他のメンバーの揉め事に辟易したのかは、私も知りませんがね。」
「そ、そうですね。 私もその辺のことは聞いていませんけど・・・私とパーティを組む時には、すでにそういう決めごとがありましたから。」
「まあ、そんなのグスタフさんが1人で言っているだけじゃないの? シンシアさんは、それで諦められるんですか?」
「それは・・・すぐには無理かも・・・です。」
「でしょう? それに聞く限りでは、現在のメンバーは若い娘が2人と、最近加入したばかりのヤツなんでしょ? しかも、ソイツ等は今いない訳じゃない?」
「ま、まあ・・・そう・・ですけど・・・」
「シンシアさん・・・今がチャンスじゃないですか。」
「え・・・でも、ミオたちが戻って来るまでは1月くらいありますし・・そんなすぐには私も決断できません。」
「か~・・・これだからエルフは・・・いいですか? 1月も・・・じゃなくて、1月しか無いんです。 それにグスタフさんだって人生の峠はとっくに超えているんだ。 妖精族・・・しかも、その中でも特に長命なエルフ種と違って、人族はそんなに長く生きられないんだよ?」
「それは・・・分かっていますけど・・・」
「いいや、分かってないね。 とにかく、2人きりの今しかないよ。 押して押して押しまくるんだよ! とりあえずは、今晩はグスタフさんの好きなものでも作って、2人きりで酒でも飲みながらゆっくり話をしなよ。 さすがに今日一日で決めろとは言わないけど・・・とにかく、毎日アピールしてグスタフさんの胃袋を掴むんだよ。」
「そう・・・ですかね・・・?」
「シンシアさん・・・さっきも言ったけど、アタシはグスタフさんには幸せになって欲しいんだよ。 そのお相手が、あんたみたいな美人のエルフなら言うことなしだ。」
「そうですね・・・わ、分かりました。 私なりに頑張ってみますわ。」
「そうこなくっちゃ。 うまく行ったら教えてくれよな。」
「え・・・ええ。」
エリザベートの勢いについ押し切られてしまった感はあるが、いい切欠にはなったと思う。
猶予は1月・・そう1月しか無いんだ。
やる気になった私が、鼻息も荒く応接室から出て行こうとすると、再度エリザベートに呼び止められる。
「シンシアさん、肝心なことを伝えるの忘れてた。 詳しくは何だが・・・とにかく『ラッパとガイコツ』には気を付けてくれよ。 グスタフさんにもそう伝えてくれ。」
「え? はあ・・・分かりました。 例の案件に関係あるのでしょうか?」
振り返って私がそう言うと、エルザは無言で頷いた後手を振って別れを告げた。
屋敷内を軽く見てみたが、グスタフの姿は見えなかったので、屋敷の玄関に向かうと、彼は玄関前にある石に腰を下ろしていた。
「あんた、なにこんな所で座ってんの?」
「お前が中々出てこないからだろ? 女の話ってのは長いんだよな。」
「分かっているんなら、お屋敷の中で待ってなさいよ。」
「そうだな。 そうすれば良かったな。」
「はぁ・・・私が悪かったわよ。 待たせてごめんなさい。」
「いや・・・それより、何話してたんだ?」
「あんた、それを聞いて答えが返ってくると思っているの?」
「そりゃそうか。 女同士の秘密の会話ってやつだもんな。」
「そうよ。」
「ま、いいや。 今日はこの後、月の海亭で飯食って行こうぜ。 女将に顔を見せとかんとな・・・忘れられちまう。」
「ダメよ。 夕食は私が作るから、ホームで食べるの。 グスタフは、肉料理ならなんでもいいんでしょ?」
「あ? まあそうだな。 まだ寒いから、熱いのがいいかもな。 月の海亭の牛舌シチューは絶品だぞ?」
「今日はダメ。 帰りに買い物して行くから付き合いなさい。」
「そ、そうか・・・分かったよ。」
何かやる気になっているシンシアに逆らうのは得策ではないと判断したグスタフは、大人しく従うことにしたが(女将のタンシチュー食いたかったな)などと考えていた。
「牛舌シチューだっけ? 私が作ってあげるわよ。 今からだと、ちょっと煮込む時間が足りないかもだから、明日ね?」
「ん? ああ、そうか明日ね・・・」
「なによ? 不満なの?」
「いや、そんなことはないぞ。」
「そう? それならいいわ。 じゃあ、買い物いくわよっ!」
私は、自然な感じを装いながら、グスタフの腕を掴んで早足に歩き出す。
「じゃあ、今日は酒のつまみになるもの沢山作ってくれよ。 2人きりってのも最近じゃ中々ないし、ゆっくり大人飲みしようぜ。」
「そうだね。 そうしよう。」
小さく拳をグッと握りしめた私は、笑顔で答える。
「お・・おう。 じゃあ、今日はちょっと高い酒も買って良いか?」
「そうだね。 買っちゃおうか?」
どんどんテンションが上がっていくシンシアに、グスタフは疑念を抱きつつも、言い知れぬ不安のようなものを感じていた。




