第2話
私とグスタフは、アローヘッド市の高級住宅地区にあるお屋敷の応接室で、今回の依頼主である赤髪の女性と面会している。
その赤髪の彼女は、第9国王家より、アローヘッド市を預かっている『ウィリアム=オルブライト』侯爵の三女『エリザベート』だと言う・・・
緊張気味だった私に気を遣っていただけたのか、少し雑談をしてくれていたが、いよいよ本題に入っていくようだ。
「では、改めまして・・・本日わざわざお呼びしたのは、グスタフさんの所に依頼・・・というよりは、お願いかな? そのお願いなんですが・・・」
「続けてくれ。」
「はい。順を追ってお話します・・・」
エリザベートの話によると・・・
始まりは今から3年ほど前、第10国にあった人身売買組織に誘拐された少女の奪還依頼を請けたことだった。
途中は色々問題だらけであったが、奇跡的に無事少女の救出には成功する。
しかし、救出後も問題が起こりまくり、救出した少女を家に帰してやるどころか、しばらく預かることになってしまい、最終的にはパーティメンバーに迎え入れることになった。その少女こそが例の『伸腕』だと言う。
その後、第7国との国境付近で猛威を奮っていた強盗団の討伐に赴くが、その強盗団は第10国でも関わった人身売買組織に関係していたこと。
その後も、数回人身売買組織に関係する案件に関わって来た・・・とのことだった。
「エルザよ・・・そんな話を俺たちに聞かせたってことは、俺たちにもそのヤマに関われってことか?」
「まぁ、そういうことになりますね。 すみません。」
「グスタフっ! ダメよそんなのっ! 危険すぎるわ!! エリザベート様には申し訳ありませんが、これ以上は聞くわけには参りません!!」
私は、グスタフの腕を掴んで慌てて立ち上がる。
「シンシアさん、まあ落ち着いてください。」
「そ、そんなこと言って・・・依頼内容を聞いたらもう断れないって流れになるんでしょう? グスタフ帰るわよ。 ほらっ! 早くっ!! 帰りましょう!!」
「待てシンシア。 エルザはそこまで外道じゃない・・・よな?」
「はははっ・・・聞いてから判断してもらってもいいですよ。 でも、信用できる冒険者にそれ程心当たりがある訳ではないので、出来ればグスタフさんに手を貸してもらえると助かるのですが。」
「よし、話を続けてくれ。 シンシア、お前も座れ。」
「・・・・」
グスタフに言われた通りに、私は渋々ソファーに腰掛ける。
「私が知る限りでは、その組織の拠点・・・少なくとも拠点の1つは、まだ第10国にあると思われます。 次いで怪しいのは第7国ですね。 現在では、その2国に挟まれているこの第9国にも手が伸びてきています。 もしかすると、他の国にも広がっているかもしれません。」
「そんなに大がかりな組織なのか?」
「恐らくは・・・ここアローヘッドではまだ聞きませんが、第7国や第10国に近い村なんかでは、行方不明者が出ているようなんです。」
「ほう・・・・」
「で、ウチの魔女達には第10国に近い・・・西のアローストリングと南のロアー・リブの付近の村を回ってもらっているんです。 特に、ロアー・リブは海に近いですからね。 ヤツ等が攫った人間を海外に輸出するための、拠点があってもおかしくはないと思っています。」
「ロアー・リブ・・・おい、ちょっと待て。 まさか、俺たちに依頼が来たロアー・リブからの荷物運搬クエストって・・・その組織関連のブツとかじゃないだろうな?」
「えっ? そんな依頼があったのですか?」
「ああ、侯爵家がらみの案件ってことでな。 てっきりエルザからの依頼だと思っていたんだが・・・今日の呼び出しと日程が重なっていたから、そっちは残りのメンバーに行ってもらっている・・・・本当に知らないのか?」
「・・・・・・・」
エリザベートは何か心当たりを探しているように長考している。
「すみませんグスタフさん。 恐らくは・・・アルベルト兄か、フリードリヒ兄あたりの差し金だと思います。 私は、個人的な因縁もあって独自で動いておりますが、兄たちもようやく重い腰を上げることにしたようですね。 以前から兄たちにも情報は入れていたのですが、ここに来てようやく動き出してくれたようです。 アローヘッドにも連中の手が伸びて来ているかもしれませんから。」
アルベルトはオルブライト侯爵家の長男で、フリードリヒは次男である。侯爵家は子沢山で、他に男子が1人、女子もエリザベート以外に2人いるが、女子は2人とも既に他家に嫁いでいたはずだ。
オルブライト侯爵は優れた人格者と噂に聞く。アローヘッド市の行政政策などからもそれは伺えるが、その子らは兄弟姉妹同士でいがみ合っていると聞く。
オルブライト侯爵は、すでに高齢な上に最近は体調も優れないようであるし、大方後継者争いなのであろう。
「そうか・・・俺は、アルベルト様やフリードリヒ様にも一応面識あるからな。」
「ちょ・・・グスタフ・・・あんた一体何者なのよ?」
「エルザに剣を教えているときにな・・・何度か顔を見たことがあるってだけだ。 向こうは俺の事なんて覚えていないと思っていたが・・・俺に依頼が来たってことは、記憶の片隅くらいには残っていたのかねぇ? そういえば、エルザはあの兄貴たちには嫌われているんじゃなかったか?」
(ちょお~! 侯爵令嬢さまに面と向かって、何てこと言い出すんだこのオッサンは!!)
「そうなんですよ。 年も離れていますし、特段嫌われるようなことをした覚えは無いんですがね。 何故だか昔から・・・他の兄姉からも距離を置かれているような気がしますよ。」
「それは、エルザが冒険者なんてやっているからではないのか?」
「いやぁ・・・物心ついた頃から兄たちは私を嫌っている感じはありましたよ。 親父殿は否定していますが、どうやら私は妾の子供らしいので・・・でも今では、その兄姉達も皆仲悪いってんだから、中々笑える話です。」
「ハッハッハッ・・・・」
(ちょ・・グスタフ!? 何笑ってんの? 笑う所じゃないわよ!?)
「それに、オルブライト侯爵家で赤髪はお前しかいないしな。」
(いやぁ~!! そんなもっともっぽい話を、私に聞かせないでぇ~!!)
「大丈夫ですよ、シンシアさん。 本当の事ですから。」
真っ青な顔をしてあたふたしている私を見兼ねてか、エルザが声を掛けてくれる。
「子供の頃は、かなり困惑しましたけどね。 理由もよく分からずに、兄にも姉にも煙たがられているってのはね・・・子供ながらに傷付いたものですよ。」
「エリザベート様・・・・」
「まぁ、そのお陰かどうかは分かりませんが、教養や作法の勉強を強制された以外は、好きにさせてもらっていますから。」
(お姫様にも色々悩みはあるんだなぁ・・・)
「話を戻しましょうか。」
「お、そうだな。 すまない、俺が脱線させてしまったな。」
「私たちもこの後は、魔女や伸腕たちと合流して、この国の西側を中心に探ってみるつもりです。 場合によっては第7国か第10国に行くことになるかもしれません。」
「そうか・・・まあ、エルザ達なら大丈夫だと思うが、気を付けろよ。」
「それで、グスタフさんにお願いしたいのは、行方不明事件や誘拐事件などを見聞きしたら報告していただきたいのです。 今は、無理に事件に介入する必要はありませんが、目撃情報などはできるだけ詳細にお願いします。」
「それだけでいいのか?」
「ええ、今はそれで構いません。 報酬も、少ないですが用意しますよ。」
「そうか、それぐらいなら問題ないなシンシア?」
「そうね、ほっとしたわ。 だけど、ロアー・リブ市に向かったミオたちが心配ね。」
「そうだな。 まぁ、猫田もいるし、滅多なことにはならんだろう。」
「ネコタ? 他にもお仲間がいるんですか?」
「あ、ああ・・・つい最近、もう1人仲間にしたヤツがいるんだ。 かなりやるヤツだよ。 ところで、お前らはアローヘッドから出ていくんだろう? 報告はどうしたらいいんだ?」
「アローヘッドであればこの屋敷にお願いします。 王都と他の3つの城塞都市にも、私が管理している下屋敷がありますので、そちらに届けていただけますか? そうすればいずれ私に届くはずです。」
そう言って、エリザベートはグスタフに一枚のメモを渡す。
「これは?」
「下屋敷のある場所の地図です。 ここと同じく、表面上は、私の所有とは分からないようになっていますから。 他の人には内緒でお願いしますよ。」
「分かったよ。 しかし、侯爵家とは別に、お前個人で所有しているのか?」
「いえ、さすがに全額私が負担している訳ではありませんよ。 これらの下屋敷は、親父殿に泣きついて、親父殿の個人資産から援助してもらっています。 なので、他の兄姉達も知らないはずです。」
「侯爵様だけはエルザに味方してくれているのだな。 ところで、組織とやらの事はどの程度把握しているんだ?」
「そうですね。 私たちなりに思っていることはありますが、はっきりした証拠は無いので・・・それに、かなりキナ臭い話になりますので現段階では、これ以上聞かない方がいいですよ。 シンシアさんをこれ以上心配させる訳にも行きませんから。」
「分かった。 ではそう言う事件があれば報告しよう。 以上で終わりか?」
「ええ、お願いします。 もっと確実な情報が得られたら、またお願いすることになると思います、その際は是非お力を貸してください。」
「どうかな? シンシアが意外とビビっちまっている様だからな、これ以上は深入りできんかもしれんな。」
「はぁ・・・グスタフさん・・・そう言うところは相変わらずですね。 シンシアさんのご苦労が窺えますよ。」
「エ、エリザベート様・・・その辺で・・・」
「そうですか? それではこれで・・・」
「ああ。 エルザ・・・あまり無茶するなよ。」
「それでは、エリザベート様失礼いたします。」
「ええ、では・・・・っと、シンシアさん!」
エリザベートは私を呼び止め、グスタフには手を振って見送っている。
グスタフには聞かせたくない話でもあるのか?
当のグスタフは、応接室を出たところで少し待っていたが、話がすぐに終わらないと見るや1人で玄関に向かっていった。




