第1話
クロエ達がロアー・リブ市に向けて出発した翌々日、グスタフと私はアローヘッド市の中でも、少し高級な邸宅が多い地区に位置する、とある屋敷の応接室にいた。
暫く待っていると、顔も体も厳つい男性と、燃えるような赤髪の女性が現れた。
「お待たせしました、グスタフさん。 お久しぶりですね。」
声を掛けて来たのは、赤髪の女性の方だった。
背が高く筋肉質、日に焼けた肌に胸元の空いた白いドレスを着用している。
ドレスの似合いそうもないワードが揃っているが、不思議と違和感なく着こなしている。
一緒にいる厳つい男の方は、軽く会釈をしただけだ。パツパツの黒スーツ姿から、こちらも筋骨隆々なのが窺い知れる。
「これはエリザベート様、本日は一体どのようなご用件で、我々のような者をお召になったのでしょうか?」
グスタフは、普段とは違う丁寧な言葉遣いで話す。
「ハハハ・・・止めてくださいよグスタフさん。 以前と同様に『エルザ』で結構ですよ。 そちらのエルフさんも、気を楽にしてください。」
「そうは言っても、オルブライト侯爵家のお姫様に対してタメ口はダメだろう?」
「うちは兄弟が多いので、侯爵家に私の居場所はありませんよ。 私が放っておかれているのはご存じでしょう?」
「ああ、そうだったな・・・これは失言だったかな。」
「お・・・オ・・・オルブライト侯爵家のご令嬢ですって!? ちょっとグスタフ、どういうことなのよ!?」
「ああ、俺が昔騎士団にいた時にな、まだ子供だったエルザにせがまれて剣を教えたことがあったんだよ。 そうだ、紹介がまだだったな。 こいつは『シンシア』だ、今は一緒にパーティを組んでいる。」
「シンシアさんですか、私はエリザベートです。 よろしくお願いします。」
「え、ええ。 よ、よろしくお願いいたします。 エリザベート様。」
さすがの私も、驚きと緊張で声がうわずってしまっていた。
「今日は『氷嵐の魔女』さんは一緒じゃないのか?」
「ええ、彼女はいま別件でアローヘッドにはいませんよ。」
「そうか、残念だな。 あの噂に名高い魔女の顔が拝めるかと思ったんだがな。」
「グスタフ!! 『氷嵐の魔女』ですって!?・・・それじゃあ、もしかして『血塗れ斧』のエルザってエリザベート様のことなの!?」
「はははっ。 私も多少は有名になったものですね。 シンシアさん、その通りです・・・ですが、どうか内密にお願いしますね。」
「ま・・・まさか・・・侯爵家の姫様が・・・」
「血塗れ斧の方が、大分前から有名だったじゃないか。 氷嵐の魔女は3~4年前に突然現れて、それから急速に名が聞こえて来るようになったからな。 とんでもなく別嬪だって聞いたぞ。」
「そうですね。 アイツの魔法は凄いけど、容姿も人並み外れていますよ。 ちょっと・・・いや、大分マヌケなところもあるんですけどね。」
「そうなのか? 噂で聞く分では、冷酷な美女だって感じだが。」
「はは・・・初めて会った頃はそんな感じでしたけど、付き合いが長くなるにつれてボロが出まくりですよ。 今は冷酷な美女というよりは、子煩悩なママですよ。」
「ほう。 氷嵐の魔女さんには子供がいるのか?」
「ああ、すみません。 氷嵐の魔女の子供って訳ではないんですが・・・」
「どうした?」
「・・・・事情があって、3年くらい前から一緒に行動することになった、獣人族の子供がいるんですが・・・」
「エリザベート様。」
厳つい男が、初めて口を開いてエルザの話を遮った。
「ああ、いいんだ。 グスタフさんは私が信用している数少ない人だからな。」
厳つい男は、エルザの言葉に従い再び置物と化す。
「そうか、そちらの彼が『戦姫の盾』なんだな。」
あの厳つい彼が戦姫の盾か・・・物理攻撃の血塗れ斧、魔法攻撃の氷嵐の魔女・・・攻撃力に特化した、赤と青2人の戦姫を守る防御の要だと言われている。ふぅむ・・・私なら彼の2つ名は『鬼瓦』にするわね。そっちの方がピッタリだと思うわ。
私は、戦姫の盾を見ながらそんなことを考えていた。
「後は、『不明』と・・・ここ1年位で名前を聞くようになって来た『伸腕』だったか?」
「さすがグスタフさん。伸腕のこともご存じでしたか。」
不明は、その名の通り、どうにも人物像がはっきりしない深紅のメンバー1人だったはず。元々、彼女のパーティ深紅はこの4人組だったと記憶している。伸腕というのは初耳だな。
「ということは・・・まさか、さっき言っていた獣人の子供が伸腕なのか?」
「ええ、彼女がパーティ加入を希望したので仲間にしたんですが、これがまたとんでもない拾い物でしてね。」
「長い腕の比喩だとすると・・・・サル獣人とかか?」
「いえ、彼女はト・・・ネコ系の獣人です。 届くはずのない所を斬るってんで、腕が伸びているんじゃないかって・・・そういった感じで呼ばれ始めたんですよ。 本人は、もっとカッコイイのがいいって言っていますけどね。」
「届かない場所を斬るか・・・興味深いな。 それで、魔女さんはそのネコ娘がお気に入りって訳か・・・」
「ええ、氷嵐の魔女とその娘は初対面で仲良くなって、魔女さんは姉のつもりだったみたいなんですけど・・・その内に段々とママ化していきましてね。 ヤツの冷静を装っていた仮面がボロボロと剥がれていく様は、中々面白かったですよ。」
「へぇ・・・ねぇグスタフ、なんかウチの娘たちと少し似ていない?」
「ああ、そうだな。 そう言われるとちょっと似ているところはあるかもな。」
「え、なんです? グスタフさんのパーティメンバーの事ですか? 是非聞かせてほしいですね。」
「そうか? シンシア、話してやってくれないか。」
「では、僭越ながら・・・私たちのパーティ『星夜の灯火』には、トラ獣人の娘がいるんですが・・・」
「トラ獣人・・・」
「その娘『ミオ』が、ギルドで時々見かける黒髪の娘『クローエ』に声を掛けたんです。クローエは、いつも1人でクエストをやっていた様でしたので・・・それで、クローエはミオのしつこい勧誘に屈して、私たちのパーティ加入を承諾したんです。 そこからミオはお姉ちゃん気取りで、なにかとクローエの事をかまっていたのですが、特に最近はどんどんひどくなっておりまして・・・」
「なるほど、少しウチの魔女さんに似ていますね。」
「ええ、もう2人は本当の仲良し姉妹みたいで・・・見ているこっちも思わず顔が緩んでしまいそうになります。 ミオは年が上なので姉ぶっていますけど、クローエの方が背も高いし、しっかりしているので・・・でも、2人のやり取りは本当にカワイイんです。 とっても癒されます。 正直、大好物ですわ。」
「それじゃ、グスタフさんとシンシアさんがお父さんとお母さんですね?」
「えっ? い、いや・・・そんなことは・・・突然何を言い出すんですかエリザベート様? ね、ねぇグスタフ?」
「はぁ・・・・エルザよ・・・俺の信条は、お前も知っているハズだろう?」
「パーティメンバーには手を出さない・・・でしたか?」
「そうだ。 以前にそれで、ひどい目に遭ったからな。」
「でも、グスタフさんももういい年じゃないですか? そろそろ身を固めないと。」
「ああ、ミオやクロエを見ていると、子供がいたらあんな感じかもな・・・とかは思うけどな。」
「そうなのグスタフ!? 子供ほしいのね?」
「ほら、シンシアさんもまんざらではないみたいですが?」
「ゴホンっ・・・雑談はココまでだ。 エルザ、そろそろ本題に入ってくれないか。」
「「えぇ~? 良いところなのに~!!」」
「では、改めまして・・・」
エリザベートは、先ほどまで見せていた、気さくな態度と変わって、真剣な表情で話し始めた。




