第11話
クーの装備を揃えた日から、かれこれ2週間ほど。
夕食中の最中、エルザが唐突に口を開いた。
「それじゃぁ、そろそろアローヘッドに向かいますかね?」
「え? もう?」
思わず声を上げる私。
「なんだよ、カメリアさんはお屋敷生活からおさらばするのがイヤだってか?」
「そうじゃないわよ。 アローヘッド市に行くってことは、冒険者業再開ってことでしょう? まだ不安だわ。」
「相変わらずママは過保護だな~。 クーどうだ? まだ無理そうか?」
「いえ、私は早く行きたいです!」
「クー・・・」
「ゲオルグ、パトリックもいいだろ?」
「そうだな。 短期間だったが、クーはかなり上達したと思うぜ。 それに、やっぱり実際にクエストをこなさなきゃ得られんものも多いだろ。」
「俺もゲオルグと同意見だ。」
「でも、いくら上達したって言ってもクーはまだ11だし、訓練だって2月位しかしていないじゃない?」
「お前なぁ・・・ギルドの初心者教練なんか1週間くらいだぞ。 でもまあ、アタシだってクーにケガさせたい訳じゃないからな、明日から卒業試験だ。」
「そつぎょう・・・試験ですか?」
「おう、実戦形式でアタシ等とガチ勝負だ。 まぁ、木剣で・・だけどな。」
(実戦形式なら、さすがにクーでは、まだエルザ達には勝てないだろう。 それなら・・・)
「クーも行きたいって言っているし、それならいいわ。」
「お、ママのお許しも頂けたな。」
「エルザさん、私頑張りますけど・・・さすがにまだ勝てないんじゃ・・・」
「勝ち負けだけで決める訳じゃねえから安心しろ。 クーがどれだけやれるかを見たいんだよ。 それに・・・今のクーに負けるようなら、そいつはクビだわ。」
(え? ちょっと話が違うんじゃ?)
「お、おい、エルザ・・・」
「なんだ? ゲオルグ、自信ねえのかよ?」
「いやっ、さすがにまだ負ける訳は無え・・・よ。」
(おい、ゲオルグ~! アンタがちょっと心配するほどなの?)
「じゃあ、私は? 魔法戦でもなければ、私はほぼ確実に負けると思うんだけど。」
(本当のところ・・・私は、剣でもここにいる誰にも負けないと思うけど・・・一撃勝負ならだけどね。)
「ママに直接戦闘は期待していないから安心しな。 ママはちゃんと見て、ちゃんと判断してくれ。 それでいいだろ?クー。」
「はいっ!」
翌日。
クーの卒業試験が始まる。
最初の相手はパトリックだ。クーもパトリックも、手にしている武器は木製だが、防具は本物だ。
クーは、全身鎧に大盾を持つパトリック相手に、剣ではなく鎚を選択した(木製だけど)。パトリックの獲物も鎚なので、両者武器は同じだが防具は全く対照的だ。
試験開始早々にクーは素早い動きでパトリックに接近し、手にした鎚でボコボコに殴る。
金属をぶっ叩く音が連続で鳴り響いている。
パトリックは、攻撃の切れ目を見つけては単発攻撃を繰り出すが、いずれもクーは回避する。
手数は圧倒的にクーだが、一見ボコボコにされているように見えるパトリックは、有効打が入らないように、盾と鎧を上手に駆使しながら、クーの攻撃を防いでいるのが私には見えてしまう。
さほど動いていない上に体力のあるパトリックはまだまだ余裕が見えるが、体力はある方とはいえ、切れ目なく殴り続けているクーは段々と動きが鈍くなってくる。
疲れたクーに向けてパトリックが一撃を入れようとした瞬間
「そこまでだ!!」
エルザが試合を止める。
「あぁぁ~~~っ!!」
クーは悔しそうに叫んで大の字に倒れこみ、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
「どうだった? パトリック?」
「そうだな。 やみくもに攻撃している訳ではなく、牽制を混ぜて俺の動きを誘導し、有効打を得ようとしていたのは伝わったな。 あれだけの連続攻撃をしながらも、きちんと俺の攻撃を避けていたのも評価できるな。」
「そうか。 パトリックよ・・・お前もちゃんと話ができるじゃねぇか。 普段からもう少し会話できるようにしようぜ? ママはどうだった?」
「・・・正直に言って、もう少しいい勝負になるかと思っていたわ。 クーは確かにすごく強くなったけど、改めてパトリックの強さを思い知った・・・と言うのが私の感想よ。」
「よし、少し休憩したら次はゲオルグだ。 行けるよなクー?」
「・・・はいっ!」
クーは仰向けに寝たままだったが、泣いているのか目を腕で覆っていた。
その後の対ゲオルグ戦では、クーの攻撃はことごとく躱され、ゲオルグの攻撃はクリーンヒットこそ少なかったが相当数喰らっていた。
最後の対エルザ戦では、疲れに加えて自信を無くしてしまったのか、動きも精彩を欠き開始1分もしないうちに倒されてしまった。
「どうだった? クー?」
膝をついてガックリと項垂れているクーにエルザが問う。
「う・・・う・・・」
「どうした? 答える気力もないか?」
「ちょっとエルザ・・・」
「ママはちょっと待っていてくれよ。 クーに聞いているんだ。」
「く・・・悔しいですっ!・・・勝てないまでも・・・もうちょっと出来ると思っていました。」
「そうか。 明日もやるけど・・・止めておくか?」
「いいえっ! やります! お願いしますっ!!」
クーは、涙でくしゃくしゃにした顔を上げてエルザに言った。
「よし、じゃあしばらく休んだら、最後にいつものアレ練習しておくようにな?」
「はいっ!」
クーはよろよろと立ち上がり庭の隅っこに歩いて行くと、膝を抱えて座り込んでしまった。
「ちょっとエルザ。 やりすぎじゃない? クーが可哀そうだわ。」
「は・・・? ママの理想の展開だったんじゃないの? ママはクーに冒険に行ってほしくないんだろ?」
「そ・・・それは・・・そうなんだけど・・・でも、なんか違うっていうか・・・」
「まあ、アタシ等を相手にして、悔しいってあんだけ泣けるんだからな。 大したもんだよ。 じゃ、また明日に期待ってことでな。」
手を振りつつエルザは立ち去って行った。ゲオルグとパトリックもエルザに続く。
私は、クーに声を掛けたかったけれど、掛ける言葉が見つからなかったので、クーが自分で立ち上がるのを待つしかなかった。
しばらく待っていると、ようやくクーは目を擦りながら立ち上がった。
「クー、そろそろご飯の時間だよ。 ご飯食べたらお風呂入って、今日は早めに寝よう。 あ、その前に傷の治療しなきゃだね。」
「ううん。 エルザさんに言われた練習しなきゃだから・・・リア姉は先にもどってて。」
「そう? じゃあ傷の治療だけ・・・」
「大丈夫。 皆手加減してくれていたから。 そんなにヒドいケガはないよ。」
「そうなの? それじゃあ私先に戻っているわね。」
「うん。 ありがとうリア姉。」
夕食の時間になっても、クーは戻ってこなかった。
食事の後、私は1人でお風呂を済ませて、部屋に戻る途中に居間を覗いてみた。
クーが食事をしているのが見えた。エルザも同席しており、何か話をしている。
今日はエルザに任せた方がいいような気がしたので、音を立てないように静かに部屋に戻り、1人でベッドに入る。
私1人の熱では中々布団が温まらない。
「クーが横にいないとこんなに寒かったんだな。」
いつの間にか他人の温もりをあてにしていた自分を発見してちょっと驚いた。でも、そんな自分も思っていたほどは悪くないかな?なんて思っている内に眠ってしまった。




