第9話
「ん・・う・・・」
目が醒めた。なんだか左頬が物凄く痛い・・・いや、マジで痛い。
体を起こすと、自分のベッドのようだ。そして、なんだかとても寒い。
ベッドの横にはクーが寝ている。つい先日も見たような光景だ。頬がとても痛いので、回復魔法をかけてみる。痛みが引いて行ったのでまずは安心だ。ケガでもしたのか?
「クーちゃんが風邪引いちゃう。」
よく見ると、クーの上には毛布がかけてあったので、まぁ大丈夫か。
「えっと・・・なんで私寝ていたんだっけ? ・・・そうだ! 第6国に行こうとして!!」
エルザの右手が私に向かって飛んでくる瞬間を思い出した。
「エルザの奴っ!」
エルザに頬をはたかれて気を失ったんだと思われる。不意打ちとはいえ、この私が躱せないほどのキレがあったのだろう。
私はクーを起こさないように気を払いながらベッドを抜け出る。
そして、寒い理由を知った。
「うわぁっ!? なんでハダカなの!?」
私はパンツ1枚しか身に付けていなかった。
「お、ようやく気付いたか?」
声のする方向を見ると、エルザが椅子に腰かけてこっちを見ている。
「なんなのこの状況!? この脱がし魔! 私の服返しなさいよ!」
「いや、こうでもしないと、お前はまた勝手に出ていくかもしれないと思ったんでな。 とりあえず、そのパンツ以外は全部没収しておいた。」
「返しなさいよ。」
「まずは、会話から・・・だろ?」
「・・・・・」
「カメリア・・・」
「・・・分かったわよ。 分かったから服を返して。」
「ああ、話をするんなら服は返すよ。 服だけな。」
エルザは私の部屋着を投げてよこした。
急いで服を着る。
「じゃ、まずは全員で今後の方針を決めるための会議をしましょうかね?」
「分かったわよ。」
エルザは、私に居間に行くように促し、寝ているクーを抱えた。
居間に着くと、ゲオルグとパトリックがテーブルについて待っていた。
私は無言で空いている席に座る。
エルザは、私の隣の席にクーを下ろすと、軽くゆすってクーを起こした後にそのさらに隣の席についた。
「全員揃ったな。 クーもちゃんと起きたか?」
「はい。」
「よし、それじゃ状況確認しつつ、今後の方針を決めようぜ。」
エルザの言葉に、私を含めた全員が同意する。
「まずは、クーだ。 クー、実はな、お前を今すぐに家に帰してやることが出来なくなったんだ。 クーの家の方でなんかトラブルがあったみたいでな。 オオカミ獣人のリカルドだっけ? クーは知っているよな?」
「はい。 リカルドお兄さん・・・知っています。」
クーは静かに・・・そして、いつもより大人びた口調で答える。
「先日な、そのリカルドと会って話をしたんだよ。 今、クーの家は大変らしい。 全部聞いたわけじゃないんだけどな、聞いた範囲で簡単に言うと、クーの父ちゃんは、父ちゃんを悪者にしようとしているヤツとケンカしているんだって、だから今家族を近くに置いておくと危ないからってことなんだよ。 分かるかクー?」
「・・・はい。」
「だから、クーのこともうしばらく預かってくれって頼まれたんだよ。」
「はい・・・」
「それでな、クーも分かっていると思うが、アタシらは冒険者稼業だからな。 いつまでもここにはいられないんだよ。」
「はい。」
「クーがここに残りたいって言うなら、クーを安心して預けられる人を見つけて、その人のところで預かってもらおうと思うんだ。 でも、もしクーがアタシらと一緒に行きたいって言うんなら・・・」
「クー・・・いえ、私は皆さんに付いていきたいです。 エルザさん、ゲオルグさん、パトリックさん、何よりカメリアお姉さんと一緒に行きたいです。 1人で置いて行かれるのは嫌だ・・・です・・・」
「そうか。 でもな、冒険者ってのは危険なんだぞ。 ケガもするし、ヘタすりゃ死んじまうことだってある。」
「はい。 クーは・・・私は弱いし、皆さんにご迷惑をかけてばっかりになると分かっています・・・でも、一緒に行きたいっ!!!・・・です。」
「そうか、よし。 クーの気持ちは分かった。」
「次は、カメリアお前だ。」
「そうね。」
「お前が中央大陸に来た目的を教えてくれ。」
「前に話したでしょう?」
「今度は、クーにもきちんと話してやれ。」
「分かったわ。 私は別の国からこの中央大陸に来たの。 もう3年ほど経つかしら。 こっちに来た理由は、私の家族を殺した犯人が中央大陸に渡ったと思うからよ。 それで、その犯人と思しき人は、黒くて少し反りのある剣・・・私の国では『刀』って言うんだけど、その黒い刀を持っているハズなのよ。 だから黒い刀を探しているの。」
「それでゲオルグが見せた絵に、その黒い刀を持っているホーリーオーダーが描かれていたと。 だからホーリーオーダーに会うために第6国に行く・・・そう言う事か?」
「ええ、そうよ。 それが私の本来の目的だもの。 あの絵は、初めてと言っていい手がかりかもしれないのよ。」
「そうか、話は分かった。 で、どうするんだ? やっぱり出ていくのか?」
「・・・・そうね。」
「さっきのクーの話は聞いていたんだろ? それでもやっぱり行くか?」
「・・・・」
「そもそも、お前ひとりで第6国にたどり着けるのか? 着けたとして第6国に入れる手段はあるのか?・・・いや、それ以前に・・だな。 お前はクーを放っていくのか?」
「それ・・は・・・」
「お前はクーに自分からかかわったんだろう? 妹だの抜かしておいて。 なのに、自分の目的が見つかったら、クーのことは見捨てるのかよ?」
「・・・・・」
「クーはお前と居たいって言ってんだぞ? 自分の家が大変だって知ってもだ。 クー位の子供なら泣き喚いて駄々こねたって当然なのに、クーは我慢してそれでも・・!!」
・・・・・・・・・・・
「ごめんなさいエルザ。 確かに私に非があるわ。 ゲオルグ、パトリックそしてクーちゃんにも謝ります。 本当にごめんなさい。」
私は、テーブルに頭を擦り付けるくらいに頭を下げる。
「ゲオルグ、パトリック、クー、お前らはコイツをどうしたいんだ?」
「いや、俺はカメリアがパーティに居てくれれば心強いと思う。」
「カメリア、俺ならこの先もっと確実な情報を持ってこれるかもしれないぜ? 動くにしたって、もう少しはっきりした情報があったほうがいいだろ?」
「クーは・・・私は、カメリアお姉ちゃんがいなくなるのはイヤだ・・・です。 一緒に居たいです。」
「ありがとうみんな。 本当にごめんなさい。」
「よし。 じゃあ、これからの話をしようぜ。」
「そうだな。」
「・・・・」
「まずは、これから最低1月はかけてクーの特訓だ。 その後は軽めのクエストからこなして行こう。 ゲオルグは、カメリアの探し人の件も含めて情報を探ってくれ。 ってことでいいか? なんか意見あるやつはいるか?」
「いや、大丈夫だ。」
「そうだな。」
「問題ないわ。」
「私もありません。」
「じゃあ、会議は終了だ。」
ゲオルグ、パトリックが席を立つ。続いて立ち上がるエルザに私は・・・
「エルザ、本当にごめんなさい。あと、ありがとう。」
「あ? デカい貸しだぜ。」
「ええ、あなたの借金を少しまけてあげるわ。」
「ちっ、相変わらずの守銭奴っぷりだぜ。 この『冷血』。」
「なによ『尻軽』。」
エルザも居間から出ていく・・・と、横に座っていたクーが飛びついてくる。
「カメリアお姉ちゃんっ!!」
「あ、クーちゃん。 ごめんね。もうクーちゃんを置いていくなんてことしないから。」
クーの締め付けがいつもより数段強い。
「あ、ゴメン・・・クーちゃん? ちょっとイタ・・・。」
「私のこと『ちゃん』付けはもうしないで。 私はもっと大人になる。」
「そ、そう? じゃ、私も『クー』って呼ぶね。 あと、ちょっと力がつよ・・・」
「カメリアお姉ちゃんのことも呼び方変えてもいい?」
「ん・・? いいけど? 呼び方はクーに任せる・・わ。 あと、ゴメン・・・ちょくるし・・・」
「うん。 そうだな・・・『リア姉ちゃん』・・・いや『リア姉』でどう? かっこいいと思うの。」
「・・・・・・」
「どうしたのリア姉?・・・あれ? リア姉?」
「・・・・・・」
「エ、エルザさ~ん!? リア姉が!!」
「なんだ!? どうしたクー?」
慌ててエルザが戻って来る。
「リア姉が! 返事しないの!!」
「あ・・・コレ・・・。」
「なに? リア姉どうしちゃったの?」
「気絶してるわ・・・ったく、とことん締んねえヤツだな・・・」
そうして、冒険者パーティ『深紅』+クーの会議は終わった。
子供はいつから大人になるのだろう。 成人の年を迎えたら大人になるのだろうか? それとも本人の自覚や覚悟によるものか? 周囲の人間の感じ方なのか?
きっと、どれもが正解であるけど、どれもがそれ1つだけでは足りていないのだと思う。
だけど、この日確かに私は、まだ11才の子供だったクーが大人になる・・・いや、大人になるための第1歩を踏み出した瞬間を目撃したのだと思った。




