第8話
私が風邪から復活し、居間に下りていくとゲオルグがいた。
なんか紙の束を読んでいるようだ。
ゲオルグが私に気づいて声を掛けて来る。
「おお、カメリア。 もういいのか?」
「ええ、お陰様でなんとかね。 何を読んでいるの?」
「ああ、盗賊ギルドの情報紙さ、結構いいお値段がするんだぜ。 見てみろよコレ、例の密売組織壊滅の記事だ。 俺たちにとっては今更だがね。 やっぱりカシアス子爵はトカゲのしっぽ切りにされた様だな。」
ゲオルグはさっきまで読んでいた数枚の紙束を私に渡してよこす。
それほど興味が無かった私は、一応パラパラと捲ってなんとなく「読んだ感」をゲオルグに見せる。
「私たちのことはバレてないわよね?」
「ああ、そういう話は無いみたいだな。 ところで気づいたか?」
「なにがよ。」
「記事の中に魔法記録画から起こした絵がいくつかあるだろ?」
「あるわね。 カシアスの顔とか、あの施設の外観、内観もあるわね。 後はホーリーオーダーの戦闘シーンの絵とかだね。」
その絵は写実的に描かれており、非常に上手な絵であるとは思った。盗賊ギルドには手先が器用な者が多いのだろうが、絵の上手なお抱え絵師なんかもいるのだろう。
私の感想はそんなところだ。
「気がつかないか?」
「もったいぶらないでよ。」
「そのホーリーオーダーの絵の中にさ、お前が探しているって言っていた剣と似ているのを持っているヤツがいるだろう? 黒い・・少し反りのある剣・・・同じヤツかは分からんが、この国では見ないカタチだ。」
「えっ!? どれよ?・・・あ・・・これ!?」
この紙に載っているのはあくまで絵だけど、その元となっているのは、魔法記録画といって実際の光景を記録できる魔法具から、その中に記録されている一場面を絵に起こしたものらしい。つまり実際の場面を見ながら書いた絵と言ってもいい。
その記録画は、騒ぎを聞き付けた盗賊ギルドの関係者が記録したのだろう。
ホーリーオーダーを描いた絵は何点かあるが、彼らが手にしている武器は剣だったり、槍だったりだが、皆同じ鎧とマントを着用している。もう一つ、手にしている武器の他に腰に差している剣も同じだ。だけど、その中で1人明らかに違う剣を腰に差しているホーリーオーダーが描かれていた。
(刀だ! しかも似ている!! 兄が持ち去った『黒刀夜露』に!!)
私は、この3年間に全くと言っていいほど兄の情報は得られなかった。この絵に描かれているのが夜露なのかは分からないが、ほぼ初と言える兄に関係するかもしれない情報らしい情報に背筋がゾクっとした。
クーは庭でいつもの日課としての素振りをしていた。
近くではカメリアが寝込んでいた3日間臨時の師匠を務めていたエルザがクーの素振りを眺めている。
「あ~、子供の成長って早いなぁ・・・クーは素直だし、物覚えもいいし・・・なんか、コッチも嬉しくなっちまうぜ。 カメリアのデレっぷりも分からんでもないな。」
「エルザししょう! 素振り終わりました!」
「おおっ! そうかそうか。 んじゃ、次は・・・・」
・・・・? 屋敷の方がなんだか騒がしい。
「? なんだろ? ゲオルグさんとカメリアお姉ちゃんがなんか話してる?」
さすがにクーは耳も良いようだ。
「クー、次は型の稽古だな。 いつもの順番にやるやつ、50回だ!」
「はい、エルザししょう。」
「アタシはちょっと様子見て来るからな。 クーはここでしっかりやるんだぞ。」
「わかりました。 ししょう。」
エルザはクーを残して音のする方向、屋敷の玄関に向かう。
ゲオルグとの会話の後、カメリアは自室に戻ったようだが、20分もしないうちに居間に戻って来た。服装はクエストの時に来ている服に変わっており、後ろにはいつもの白木の杖や肩掛けカバンも見える。
「どうした? 出かけるのか? そんな恰好までして。」
「ねぇゲオルグ。 ホーリーオーダーってどこに行けば会えるかしら?」
「確実に居るところなら、やはり第6国のホーリーオーダー本部じゃねぇか? 連中は各国に常時潜伏しているらしいけど、そいつらを見つけることはすぐには出来ねぇだろ。」
「ん・・・そうね。 ありがとゲオルグ。」
私は、ゲオルグにお礼を言って、荷物を持ち居間から出る。
「ちょ・・・おいおい。 カメリアお前・・まさか今から第6国に行くつもりか?」
あまりの突然なことに驚いたのか、ゲオルグは私の前に立ちふさがるように移動してきた。
「そうよ。 ゲオルグ、道を開けて頂戴。」
「おい、待てって。 なにもこんな急に。」
「急じゃない。 私の本来の目的に繋がるかもしれない情報が見つかったのよ。」
「あの絵か? それでお前、第6国に行こうとしているのか?」
「そうよ。 邪魔しないで頂戴。」
「落ち着けカメリア。 あの国は入国許可がないと入れないの知ってるだろ? それに、1人じゃ千剣山脈だって越えられねえよ。」
「退きなさい。」
「エルザにも黙って行くつもりか? クーはよ? クーもほったらかして1人で勝手に出ていくのかよ? こんな突然に!!」
痛いところを突かれてしまった私は、ムっとしてしまう。
「退いて。」
「ちょ、少し冷静になれって!!」
「ゲオルグ・・・」
私は、白木の杖を持つ手を上げる。
「おい、カメリア!」
玄関の方からエルザが現れた。
「エルザ・・・」
「エルザ、良いところに来てくれた。 カメリアを止めてくれよ。」
「エルザ、退いて頂戴。 私は行かないといけないの。」
「ああ? どこに行くって?」
「とりあえずは第6国に行くわ。 入国出来ないって言うんでしょう? 知っているわ。 でも私ならなんとするから邪魔しないで頂戴。」
「まぁ、少しアタシの話を聞けって。 なぁカメリア。」
「退けっ!!」
私は思わず殺気を込めてエルザを睨んでしまった。
「カメリアっ!!」
エルザはカメリアの殺意を認めた瞬間、反射的にカメリアの頬を思い切り張り飛ばした。
カメリアは吹っ飛び、倒れ込んでしまう。
「お前っ・・・お前にも目的があるのは知っているし、もしかしたらお前なら第6国にも侵入できるのかも知れねぇっ! だけど、こんなイキナリ『はいさようなら』ってか? ふざけるんじゃねぇぞ!!」
倒れているカメリアに向けてエルザが怒鳴りつける。
ゲオルグは、倒れたカメリアを抱き起そうとして手を伸ばす。
エルザはさらに言葉を続けた。
「カメリアっ!! クーはどうするつもりだっ! お前がいなくなったらクーはまた狙われるかもしれないんだぞ! そうじゃなくたって、クーは・・・クーの気持ちを考えられないのかっ!! お前からクーを裏切るん・・・」
「エルザっ!!」
ゲオルグがエルザの言葉を遮る。
「なんだゲオルグっ!? 口を挟むんじゃねぇ! 殺すぞっ!!」
「いや・・・カメリア気絶してんぞ・・・」
「はぁっ!? なんだよもう。せっかくアツく語っていたってのに・・・締らねぇな・・・全く・・・」
エルザはいつの間にか後ろに立っていたクーに気づいた。
「クー・・・」
クーは大粒の涙を目に溜めていた。
「カメリア・・お姉ちゃん・・・クーのこと置いてどっか行っちゃうの?」
ボロボロとクーの目から涙が溢れだす。
「大丈夫だ。 カメリアはちょっと気が動転していただけだ。 あ~動転って分かるか? えっと、何ていったら良いんだ? まあ、とにかくだ。 こいつがクーを自分から手放す訳ないだろう。 大丈夫だ。」
「うん・・・」
エルザは柄じゃないなと思ったが、クーを引き寄せるとやさしく頭を撫でた。




