第7話
私が眼を覚ますと、自室のベッドの上だった。
ゲオルグ辺りが運んでくれたんだろうか?
横では、真新しい木剣を手に持ったままのクーがベッドに突っ伏して眠っている。
窓を見ると、外はもう暗くなっていた。
クーを起こさないようにベッドに寝かせた後、居間に向かう。
居間には、既に帰ってきていたエルザ達がいた。
「お帰り、エルザ、パトリック。 ゴメン寝ちゃってた。」
「おう。 お前、またなんかやらかしたんだって?」
「やらかしてない。 それより、どうだったの? その・・・依頼主の方は。」
「クーはどうした?」
「私のベッドで寝ているわよ。」
「そうか、じゃ丁度いいか。」
ん?丁度いいだって?なにが?
「ん~、結論から言うとな、クーを家に帰してやることはしばらく出来そうもなくなったんだよ。」
「えっ? なによそれ。 クーちゃんが可哀そうじゃない!」
クーをすぐに親に会わせてあげられない悲しみ?と、クーとまだ一緒に居られることへの喜びとが同時にあふれて来る。
「お前、何ニヤけてんだ? クーと一緒の時間が増えそうで嬉しいってか?」
エルザの反応を見るに、悲しみよりも喜びの方が勝っていたみたいだ。
「だけど、どうしてよ。 誘拐された子供が戻ってきたのよ? 親だったら・・・」
「いや、事情が変わったんだとよ。 家の方で問題が起きたようだ。」
「どの位時間がかかるの?」
「政治的な話だからな、数か月から・・下手すりゃ一年以上かかるかも知れねぇ。 お金にきびしいカメリアさんが心配する前に言っておくが、報酬はそれなりの額を前払いでもらっているぞ。」
「私を守銭奴みたいに言うな。 でもどうすんのよ。 クーちゃんと一緒に居られる時間が増えるのはいいけど、今みたいに只ずっと一緒に過ごすだけってのも無理じゃない。」
「お前の言うとおりだな。 とすると、クーはどこかに預けるしかねぇな。」
「でも、髪の色を変える魔法なんか数日も持たないわよ? 魔法が切れたらまた狙われるかも知れないじゃないのよっ!」
「だったらどうする? クーもパーティに入れて一緒に冒険するか?」
「そんなこと・・・クーちゃんはまだ11才なのよ。 危険すぎるわ。」
「お~、さすがママだな。 だけどな、カメリア。 冒険者になろうって奴らには、10才にもならない内から死を覚悟して始める奴だってたくさんいるんだぜ。 お前はクーがいくつになったら冒険に連れて行ってもいいと思うんだ?」
「そ、それは・・・15才とか?」
「お前だって12~3才で冒険者になったんだろ? 今のクーとそんなに違わないだろ?」
「そうだけど・・クーちゃんを冒険者にするって前提になっているじゃない?」
「危険は伴うが、一緒にいたいってんならそれしかねぇんじゃないか?」
「そんな! なんでよ?」
「お前がさっき言ったじゃないかよ。 2~3日ごとに魔法が必要だって。 そしたら、クエストに連れて行くか、お前が冒険者辞めてママになるか、どっちかしかねぇだろ?」
「そんな・・・」
「まぁ、クーが嫌がるんなら無理にクエストに連れて行く訳にもいかんけどな。 しばらくはこの屋敷にいるのもいいけど、ずっと・・って言うわけにゃあイカンのよ。」
「なぁ、カメリア。」
エルザの横にいたゲオルグが口を挟んできた。
「俺もここんとこ暫くお前らの訓練を見てたけど、クーは結構様になってきていると思うぞ。 さすがはトラ獣人だよ。」
「ゲオルグ・・・あんたクーちゃんのこと可愛がってくれていると思ったのに。」
「いや、俺も自分でも驚くくらいにクーのことは大事に思ってるぞ。」
「じゃあ、なんでそんなわざわざ危ない目に合わせるようなことを言うのよ。」
「エルザ。 クーをどうするかって指示はあったのか?」
「いや、特に指定はなかったな。 生きていれば問題ないだろう。」
「だから、クエストなんか行ったら危ないでしょう?」
「そりゃそうだ。 あくまで、クーが行きたくないってんなら仕方ないだろう。 しかし、さっきエルザが言ったことも確かだぜ。 野獣・魔獣はもちろん危険だが、欲にまみれた人間ってのは、場合によっては魔獣よりも怖いぜ?」
「それは・・・そうかもだけど。」
「ま、今日明日って話じゃない。 とりあえず、明日クーに話して本人の意向を確認しよう。 クーのやつが、ここに残りたいんなら、どこか・・・なるべく安全なところに匿ってくれそうなヤツを探してみるよ。」
今日はここまで、と、エルザたちは解散して自室に戻っていく。私はどうにも納得できずに、1人明りの消えた居間に残っていた。
「今度は、可愛い妹を置き去りになんかしない。 でも、一体どうすればいいの?」
結果として、実の妹を置き去りにして勝手に里を出た私だが、もっと他にも選択肢はあったかもしれないと後悔はある。しかし、それは今更どうしようもない。今は妹が少しでも幸せになってくれていることを祈るのみだ。
「もしも、クーちゃんが一緒に行きたいと言うなら・・・私が守るしかない。」
翌朝、居間で寝てしまったらしい私は、久しぶりに風邪を引いてしまった。
「おい、カメリア。 お前わざとじゃないだろうな?」
カゼが困るのは、熱が上がるとぼぅっとして頭がうまく回らなくなってしまう。そのため魔法全般がうまく制御できなくなることだ。もちろん回復魔法も例外ではない。風邪は私にとって下手な病気やケガよりも質が悪い。
「なにがよ・・・ごほっごほっ!」
「風邪でダウンすることで、クーに例の件を伝えるのを引き延ばそうとしてないか?」
「そんな器用なまねしないわよ。 それに私にとってのカゼは大変なんだからね。 ごほっ!」
「まぁ、全員揃っているところで話したいからな、2日までは待ってやるよ 。それ以上は待たないからな。 早く治せよ。」
「今すぐ治りたいわよ・・・ごほっごほっ・・・」
「今日は、ゲオルグもパトリックも出かけたんでな。 クーはアタシに任せておきなよ。」
「う・・・それが一番の心配だわ・・・ぐほっ!ゴホっゴホっ!」
「風邪が治るまでは、クーも近づかせないからな。」
エルザにそう言われて私を絶望感が襲う。
エルザが私の部屋を出た直後、話声が聞こえる。
「ほら、クーここはダメだぞ。お前に風邪がうつっちまったら大変だからな。 今日はアタシが修行つけてやるからよ、ほら行こうぜ。」
「・・・うん。」
2人の足音が遠くなっていく・・・
クーに風邪をうつすわけには行かない。早くクーを抱っこできるように一刻も早く風邪を治さねばならない。
そう固く誓い全力で眠ることにしたが、結局熱が引くまでには丸2日を要した。




