第6話
「とおあて・・・ですか?」
「そう『遠当て』。 剣の届かないくらいの遠くに剣を当てる技。 だから『遠当て』。」
「届かないのに? 当たるの? どうして?」
「あ~。 うん。 そうだね。 何と言いますか・・・説明は難しいんだけど・・・」
中央大陸では一般的に『気』の概念がない。私の国では、魔力とは別物の『気』というものがあると信じられている。体に流れる生命エネルギーのようなものを操り、集めたり、散らしたり、果ては飛ばしたり・・・とか、人間以外にも草や木、動物など生きているありとあらゆるものが『気』を持っているという考えだ。
本当のところはなんなのかは私にも分からないが、それは確かにある。
「ここでちょっと待っててね。」
クーにそう言って、私はこの屋敷の使用人を探しに行く。遠当ての実践のために斬っても良いものがないか聞くためだ。この屋敷内のものを勝手に壊すのは樹一本でもマズイし。
結果、私の条件に合うようなものは見つけられなかったが、使用人からプールはどうか?と、提案された。
もう時期が終わり、次の夏まで使用されないプールにはまだ水が張ってある。雨や落ち葉で汚れてはいるけど、水がキレイか汚いかはどうでもいい。広さも十分すぎるほどだ。よほどの達人でもない限り、プールの長さを超えて当てることは出来ないだろう。
目を凝らして見ていれば、遠当ては空気の揺らぎのようなものが飛んでいく様を見ることができる。それを私たちは『気』と呼んでいる訳だが。
遠当てをプールの水にぶつければ、もっと視覚的にはっきりと分かるだろう。むしろ、汚れた水ならさらに分かりやすいのではないだろうか?使用人の名案に感謝だ!
問題があるとすれば私の体の方だ。なんとしても最低2回は撃ちたいと思うけど。
「じゃあ、クーちゃんはここで見ててね。 動いたらダメだからね。」
プールサイドにクーを立たせて、私はプールのスタート位置に移動する。
遠当ては以前に一度見様見真似でやってみたことがあるだけだが・・・なんとかなるでしょう。
私は自分用に加工してもらった木剣(短く細く軽い。手先の器用なゲオルグに頼んで作ってもらった。)を持って構える。
プールを見渡せる屋敷の縁側には、横になってこっちを見ているゲオルグと、使用人が2名、何をするものかと見守っている。
「クーちゃん! やるよ! 木剣の先を見ててね。」
「はぁい、ししょう~。」
ブンっ!
「・・・なんだ? ただの素振りか?」
縁側にいたゲオルグには見えていなかったようだ。
「なに? いまの・・・?」
クーは見てくれたようだ。
「あイタたたたた・・・」
カランっと、私の手から滑り落ちた木剣が石の床に落ちる。私は右腕を抱えて膝をついた。
「お姉ちゃん!?大丈夫??」
クーが駆けよって来る。
「ありがとう大丈夫だよ。 私の体は貧弱すぎてね、剣もまともに振れないんだよ。」
そう言いつつ、自身に回復魔法を施す。
遠当ては、やはり普通に剣を振るよりも何倍も負担がかかる。いかにも私には向いていない技だ。まぁ私に向いている技は無いんだけど。
「ふう。 もう大丈夫。 それよりクーちゃん見えた?」
「う・・うん。 なんかモヤ? みたいなのが凄い速さでピューと飛んでた。」
「良かった。 それが遠当ての正体『気』なの。 多分だけど。」
「き?・・・木?」
クーは、周囲にあるよく手入れされた木を指さす。
「その木じゃなくてね。 き・・き・・・気持ちの気・・・なんだけど、『頑張るぞ』って気持ちを込めるじゃない? その頑張るぞ・・・っていう気持ちを飛ばすっていうか・・・うまく説明できないなぁ。」
「『頑張るぞ』を飛ばすんだ。」
「うん。 そんな感じなんだけど。 もう一度だけやるから、さっきの所に戻ってくれる?」
「腕大丈夫なの?」
「あと1回なら大丈夫、大丈夫。 心配してくれてありがとうね。」
先ほどまで立っていた場所にクーが戻る。
本当は1回目で既に大丈夫ではないけどね。
「クーちゃん、もう少し後ろに下がってくれる? 次は水にぶつけるから。」
「え? はい・・・?」
クーが後ろに下がるのを見て、私は左足を引き右足を前に腰を落とす、木剣を持った左手は腰の位置に右手は木剣の柄に置く。さらに上半身を腰の位置辺りまで低く落とし、異様に低い居合斬りのような構えをとる。
「なんだ? あの態勢は、カメリアの奴何をする気だ?」
異様に低い構えを見て、何事かとゲオルグが体を起こす。
「じゃ、やるわよ!?」
「は、はい。」
ヒュン・・・水面に波がたち凄い速さで進んだかと思うと、プールの真ん中辺りに水柱が上がった。
「なんだ!? 魔法か??」
「何? 何っ?」
ゲオルグと使用人が声を上げる。
クーは言葉もなく、大きく口を開けたまま水しぶきの立った場所を見ている。
(あたたたた・・・コレ、また折れてるよゼッタイ・・・痛ぁ~~。)
クーに心配をかける前に回復魔法を再度使用する。ケガは治癒したはずだけど、体力切れで動けなかった。
「お姉ちゃん! だいじょうぶ??」
「おい、カメリア大丈夫か!?」
クーとゲオルグまでが駆けよって来た。
「ええ、大丈夫よ。 ケガは治したから。 今は体力が尽きて動けないだけ・・・」
ゲオルグに縁側まで連れて行ってもらい、横になる。
すでに体力は戻ってきているが、もう少し休ませてもらおう。
クーは、ゲオルグに教えてもらいながら木の枝を削っている。私の木剣が衝撃でバラバラになってしまったので、代わりを作ってくれているんだろうか?
あ、なんか眠くなってきたかも・・・
うかつにも私は縁側で眠ってしまった。




