第5話
クーと剣の修行を始めて、かれこれ2週間ほど経っただろうか。
クーの剣技は、この短期間で随分と上達していた。
「やぁっ!! えいっ!!」
可愛らしい掛け声を上げつつ、クーは、私が教えた型を何度も繰り返す。
「とうっ!!」
「うーん・・・やっぱり体力あるなぁ。 何もしてない状態でも凄かったのに、ちょっと修行したらこれだもんな・・・」
最近は、クーからのスキンシップがどんどん痛いレベルになって来ている。私にとってはうれしい悲鳴であるけれど、華奢なこの体がいつまで耐えられるか・・・心配になるくらいではある。
「クーちゃん! 次は、一の型から九の型まで続けてやってみて! 30回!!」
「はいっ! ししょうっ!!」
やはりクーは、獣人界最強の一角と言われるトラ種の獣人なんだと改めて思う。体の動かし方を覚えたとたんこの成長ぶりだ。
トラ獣人は、その能力を戦闘力に全振りしている(私の勝手な印象だけど)と思っていたが、クーは意外(失礼)と頭も悪くない・・・というか、かなり頭は良いほうだと思う。
聞き分けもよく、言ったことはすぐに理解してくれるし、理解できなかったことはちゃんと聞いてくる。文字だって最初から書けたし。
まあ、言葉遣いはなんか幼いと思うけどね。
「おい、カメリア。 ちょっと出かけて来るからな。」
エルザが私に声を掛けて来た。
「わかっ・・・」
エルザに分かったと言いかけていた私は、目に飛び込んできた光景に、思わず言葉を詰まらせてしまった。
そこには、しゃんとした服を着こんだエルザとパトリックが立っていたからだ。
エルザは、いつもの両手斧の代わりに高そうなバッグを持ち、アクセサリーも身に付け、化粧までしている。普段のエルザを知らない人がみたら、どこぞのご令嬢だと勘違いしてしまうだろう。
私は、エルザとパトリックの近くに駆け寄った。
「な・・何ごとなの? もしかして夢・・・? それともあの世ってヤツ? 私、知らない内に死んでいたの?」
「何言ってんのお前・・・大分失敬なヤツだな。 夢でもなんでもねぇよ。 やっと連絡が付いたんで、これからクーの依頼主の代理人と会って来る。 アタシ等がいない間、ちゃんとクーの面倒みといてくれよカメリアお母さん。」
クーに聞こえないようにするためか、エルザは後ろを向いて話をする。
「え? え? ちょ、ちょっと待って・・・って誰がお母さんか!! じゃなかったわ、依頼人の代理人? それなら私も一緒に行くわ。 連れて行きなさい。 すぐに着替えて来るわね。」
「ダメだ、ダメだ、ダメダメのダメだ。」
(この女・・・短いセリフの中で5回もダメって言いやがった・・・)
「お前はクーとここに残って待っていろよ。 お前がいると、話の展開によってはどうなるか分からねぇしな。 依頼人の前で大暴れされても困るんだよ。 ゲオルグおじちゃんは置いていくから、良い子にして待っていろや。」
(ちっ・・・こういうときのエルザは、私が駄々をこねても聞いてくれないか。)
「そう・・・分かったわ。 言うとおりにするわよ。」
「そうそう。 ちゃんと良い子にしてたらお土産買ってきてあげるからよ。」
エルザは、振り向いてクーに向かって手を軽く振りながら歩きだす。その後ろには、大きな黒い塊が続く。
「エルザさん、パトリックさん、行ってらっしゃい~!」
「おう。 クー、カメリアの面倒任せるからな。」
「はぁい!」
クーもエルザたちに向けて手を振って見送っている。少し離れたところにいたクーには、先ほどまでの会話の内容は聞こえなかったらしい。
(依頼主と連絡がついたって?? そんな・・・クーちゃんとお別れの日が近いってこと・・・!?)
「どうしたの? ししょう??」
まだ少しは先の事になるであろうクーとの別れを想像して、青くなって俯いている私をクーが心配そうに見上げて来る。
「あ、ええ、だいじょうぶよ・・・何でもないから。」
「ししょう・・・?」
「大丈夫だから・・・ほら、クーちゃん練習続けましょう。」
「はい、ししょう・・・」
その後は、心ここにあらずでクーの練習を眺めていたが・・・
(こんなことじゃダメだわ。 クーちゃんと過ごす日々を無駄にしてられないっ!)
考えを改めて、自分に喝を入れる!!
「よしっ!! クーちゃん。 今日はいつもとは違う剣術を教えて進ぜよう!!」
「はいっ! ししょう!!」
クーが元気いっぱいで返してくる。
そうだ。 残りの時間を無駄になんてしてられない。 未沙柄の代わりって訳じゃない。 クーだって私の妹なんだから。
私は、今までクーに教えて来た基礎的な技とは一線を画す、変わった剣技を見せてみようと考えていた。




