第4話
「で、こいつがその不審者か・・・。」
星夜の灯火のホームの居間で、グスタフがウンザリした様子で話し出した。
「確かに、記憶がないと言い張る男に対して不審者扱いは仕方がないと思う。 だが、あなたたちが驚いているのは別のことのようだ。 なにか、自分の顔に不都合なところがあったのか?」
この状況においても男は、妙に落ちついた様子で話す。
「う~ん。 顔、顔なんだけど・・・その眼がねぇ・・・。」
シンシアもどうも扱いかねているようだ。
「メンバー集合~。」
グスタフが私達パーティメンバーを居間の隅に集める。
「おい、黄金の瞳なんて見たことねぇし、それって昔話に出て来る古代高等人類の特徴じゃねぇのか?」
グスタフは、いつもよりは小声で一番年上のシンシアに問い掛けた。
「私も、あそこまで完璧な金色は見たことないわ。 でも、なんで猫目なの? 古代高等人類が猫目だったなんていう話はあったかしら? ・・っていうか、古代高等人類って滅んだ魔導帝国民のことよね? 魔導帝国が実在したのは間違いないわ。だって、今でも製法も用法も分からない『遺物』が発見されているんだもの。 魔導帝国の人間が金色の猫目だったとして、この世界にはとっくに存在していないハズよねぇ?」
シンシアがかなりの早口で一気に話す。
「確か、神に滅ぼされたとか、別世界に旅立ったとか、そんな感じだったよな。」
「ええ、そうね。 諸説あるけど、一般的に語られているのは確かそんな感じね。」
「生き残りがいて、その血を受継いだ者がいたってことはあるのかもしれない・・・か?」
「でも、魔導帝国は3,000年以上前に滅んでいるのよ?」
「だから、血を持つ子孫にたまたま特徴が現れたとかか?」
グスタフとシンシアは、2人で話を続けている。
学のある2人の会話をなんとなく聞いてはいたが、私は別のことを考えていた。
(猫目、猫目・・獣人族でもないのに、猫目かぁ・・・ ふふっ、淡々と話す感じとギャップがあって面白いなぁ。 私が名前をつけるとしたら・・・そうだな・・ネコ・・・猫・・・猫田くん・・・いや、年は上だろうから猫田さんかなぁ・・?)
八州国は、比較的近年までオーディア教の介入がなかったため、私はこの国での歴史やその手の昔話にはそんなに詳しくないが、この話はおおまかには知っている。
大昔、魔道帝国を創って繁栄を極めた高等人類がいて、その高等人類がいろいろな作業をさせるために、原住人類に手を加えて人族の祖先を造りだした。
その人族を基にさらに用途に応じた、妖精族、獣人族、妖魔族、翼人族、爬虫人族を造りだした。人族を含めて、この6種族が現在は人間という括りになっている。
で、魔導帝国は神をも滅ぼさんとする勢いで発展しすぎたために、怒った神さまと戦争になり、最後は魔導帝国が滅んでしまうとか・・・そういう話だ。
似たような話は八州国にもあるが、人間を造ったのは神様とされている。
とにかく、2人の話を邪魔しないようにしながら、金眼男のアダ名をこっそり考えていた。
一方ミオも、最初は2人の話を聞いていたようだが、すぐに飽きたようで私の肩に腕を回して、金眼の男をジロリと見たり、私の頭を撫でたりしている。
「おい、行き倒れ男。 お前はコートージンルイなのかナ?」
少しして、唐突にミオは金眼の男に声を掛けた。
「いや、違うと思うが・・・。 彼らの話を聞くに、その高等人類とやらは、大昔にいなくなったのだろう? 自分には記憶がないようだから断言はできないが、やはり違うのではないかな?」
(猫田さんは、相変わらず淡々と話すなぁ・・。 でも、ちょっと芝居がかった話し方だよな。)とか心の中で呟く。
「猫田さんは、自分が何者か気にならないんですか?」
自分だったら、このような状況でこんなに落ち着いていられないだろうなと考えていたら、つい口に出てしまった。
「「ネコタサン??」」
ミオと金眼男は同時に私の方に向き直り、同時に言った。
「えっ!?」
私の中で密かに名付けていた、金眼男のニックネーム(仮)を突然2人の口から同時に言われたことに驚いて思わず声を上げる私。
「クロエ! ネコタサンってなんだナ!?行き倒れ男の名前かナ!??」
「クロエさん! それは自分の名前なのだろうか!?」
2人が間髪入れずに、私に詰め寄ってくる。普段淡々と話す金眼男も思わず上ずっていた。
「あ、あ~。 いや、その・・・。何と言いますか・・・。」
あ、私いま顔が真っ赤になっているのが分かる。
「ふ、不審者とか、行き倒れ男だとか呼ばれ続けるのも可哀そうだなぁって思っていまして、それでその~。 私の中で勝手にニックネームを付けていたんです・・・。」
吹き出る汗を拭いながら、なんとか話を続けていると、またしても思わず言ってしまった。
「私、声に出していましたか??」
「「あ、あぁ~。」」
ミオと金眼男は、同時に落胆とも思える表情をしてガックリと肩を落とす。
「ねぇ、クローエ。 猫田さんはあんまりじゃなぁい?」
「ああ、名づけのセンスがなぁ・・・。」
いつの間にかシンシアとグスタフも話に加わってきた。
「ミオは、別になんでもいいと思うけどナ。」
「自分は、不審者とか呼ばれるのよりは良いと思うね。」
「いや、でも、もう少し・・こう、センスのあるのがなんかあるんじゃなぁい?」
「じゃぁ、シンシアの案はどうなんだ?」
「いや、それは特にないんだけどね。」
なんか、私の発言で4人が盛り上がっている・・・。
4人はしばらく言い合った後・・・
「も~ネコタでいいナ。」
「ああ、不審者よりも大分ましだな。」
「対案もないし、それでいいわ。」
「そもそも、コイツの呼び名など何でもいいわな。」
皆の意見が猫田さんで一致したようだ。
なんか、こう、私の案が通ったはずなのに素直に喜べない。
「しかし、どうする? 猫田は不審者には違いないぞ。 兵士に突き出すというのが順当なところだろう。」
確かにグスタフの言う事はもっともである。
「ちょっと、待ってくれ。 キミ達はチームで活動しているのだろう? 自分も仲間に加えてもらえないだろうか? 自分は・・・何が出来るかは分からないが、きっと役に立てることもあるのではないかと思う。 それにクロエさんには命を救ってもらった恩もあるしな。」
兵士に突き出すと言われて、猫田さんが焦っている・・?
「しかし、お前は何ができるんだ? オレ達は魔物と戦ったりもするんだ。 何か武器の心得はあるのか?」
「ぶ・・武器は何が使えるかは分からないが、旅の最中に色々試してみれば良いのではないか? 何なら荷物持ちでも構わない。」
「クエストの最中にそんな悠長なことやってられるか! 荷物持ちは・・・いると便利だが、荷物持ちに金払うほどの余裕は無ぇ! 今からギルドに行って試すぞ!!」
グスタフの声が大きくなってきた所で、私はふっと一緒に拾った槍のことを思い出した。
「そう言えば、猫田さんを拾ったときに折れた槍を一緒に拾ったよ。 でも、その槍の素材がいまいち分からなかったんだよね。」
「槍か! 槍使いは重宝するな!」
グスタフは、私の言葉を最後まで聞かずに大声で話し出した。
「でも、ギルドなんかに行ったら目立つんじゃないかナ? ネコタは。」
「そうだな・・・シンシア、何かいい方法は無いのか?」
「アンタ、私をなんだと思っているのよ。 でも、そうねぇ・・・光の魔法で少しはなんとかできるかもだけど・・・。」
シンシアには、何か考えがあるようだった。




