第2話
私たちは、夕食の準部ができたとのことで、皆で夕食を取るため食堂に集まってテーブルに着いていた。
(ま、マズい・・・)
テーブルの上には、何も入っていないお皿がいくつかと沢山のナイフやフォークが並んでいる。
私は、焦っていた・・・実家では礼儀作法について色々と指導されていたけど、中央大陸とは文化が違い過ぎる。
中央大陸では、貴族などはこういった形式で食事するらしいことだけは知っていたが、私は中央大陸では庶民生活しかしてこなかったので、テーブルマナーなどと接する機会がなかったのだ。
キョロキョロと目を動かせてほかの皆の様子を探る。
エルザは堂々としている。普段はあんなだが、エルザは貴族の扱いなんかも上手く、テーブルマナーも心得ている。
クーは?・・・クーも特に緊張している様子もない。やはり貴族の子供だから心得があるのだろうか。
ゲオルグとパトリックは?この2人も全然動じている様子がない。屋敷に来た時にも思ったが、なんなんだコイツらは?あんな見た目なのにテーブルマナーを知っているのか?
料理が運ばれてくる。
私は、給仕してくれる使用人にぎこちない笑顔を送る・・・
(も、もうダメだ・・・)
そう諦めかけたときエルザが口を開く。
「おい、お前ら。 せっかくこんな場所にしばらく住めることになったんだ。 この際にテーブルマナーを身に付けてもらうぞ。 もしかしたら今後必要になることがあるかも知れんしな。」
「ブ~ブ~! メシくらい好きに食わせろや!!」
「ゲオルグには無理だろうな。」
ゲオルグは、テーブルマナーなど知った事かと皿ごと口に運んで食べ始める。
パトリックは、なんと!作法を知っている様だった・・・けど、食器が小さすぎるのか、あまりうまくはない。
「あ~もう。しょうがないヤツらだ。 まぁ、アイツらはいいや。 だけど、お前にはちゃんと覚えてもらうぞカメリア。」
「え、ええ。 がんばるわ。」
エルザは、私に付きっ切りで色々教えてくれた。時々クーも割って入って、教えてくれる。でも、エルザのとはちょっと違う感じだ。国の差なのかな?
最後のデザートが終わるころには、私はすっかり憔悴しきっていた。
「これから食事のたびにこれが続くの・・!?」
楽しいはずの食事が、今日以降は絶望しか見えない。
「ま、お前ならすぐにマスター出来んだろ?」
「カメリアお姉ちゃん、頑張ろう?」
「え、ええ。 そうねクーちゃん。 私頑張るわ。」
「エルザさんと一緒にクーも教えてあげるからね。」
「うん。 お願いねクーちゃん。」
エルザは、いつの間にかクーに自分のことを『エルザさん』と呼ばせることに成功していた。本当は『エルザお姉ちゃん』と呼ばせたかったようだが、それは諦めたようだ。
「クーちゃんお風呂入ろうか?」
このお屋敷には大きな浴場があるのは確認済みだ。私は食事ですっかり消耗した精神力の回復のためにも、久しぶりのお風呂(しかも大きな湯船あり!!)に希望を託す。
クーは、ちょっと躊躇っていたようだが、最後には了承した。
(獣人って、お風呂嫌いが多いんだっけ? クーちゃんには是非お風呂好きになってほしいな。 妹と一緒にお風呂とか・・・あこがれるわ。)
お風呂場に到着して、いざ服を脱ぐ段階で大変なことを思い出す。
なんでこんな肝心な事を忘れていたのか?
久しぶりの湯船のあるお風呂、加えて妹との入浴に舞い上がってしまっていたのか?
今更逃げたらクーに不信感を与えてしまうだろう。後に引く訳にも行かず、覚悟を決めて服を脱ぐ。
先に服を脱ぎ終わっていたクーが私の方を見て驚いている・・・
「カ・・・カメリアお姉ちゃんは・・・おに」
「待って、それ以上言ってはダメっ!!」
私は、クーが最後まで言い切る前にクーの口を手でふさぐ。
そう。私の最大の秘密・・・それは・・・超貧乳なのだ。
いや、貧乳と呼ぶのですら憚られる絶壁なのである。
私は、顔を真っ赤にしながら身振り手振りを交えて、クーに対して私が女であることを力説する・・・自分でも何を言っているのか良く分からないくらい早口で色々喋りまくったが、なんとかクーには分かってもらえたようだ。
(良かった~。 クーに男だと勘違いなんかされたら自死を選びかねない・・・)
クーと2人並んで湯船に浸かる。
「クーちゃん。 分かってくれてありがとうね。」
「ちょっとビックリしちゃったけど、だいじょうぶ。」
クーは私の頭を撫でてくれる・・・
「クーちゃん・・・このこともエルザ達には秘密にしてね?」
「うん。 クーとカメリアお姉ちゃんとの秘密だね。」
(う~ん。 ホントにいい子だなぁ~クーちゃんは・・・本当の妹にしたい。)
「カメリアお姉ちゃん。 また、あのキレイな白い髪見たいなぁ。」
「いいわよぅ~。 魔法解除っ!」
私はパチンと指を弾く(これは演出だ。)。私と、ついでにクーの髪にかかっていた魔法を解く。
私の髪は青から白に、クーの髪は金から黒に戻った。
「よしっ! クーちゃん髪を洗おっか。 私が洗ってあげるね!!」
そう言って、私は立ち上がり湯船から上がろうと振り向く・・・と、タオルを肩にかけてこちらに歩いてくる全裸のエルザがいた。
「!?!?!?!?!?」
私の動きと思考が凍り付く・・・エルザも驚いて一瞬動きが止まっていたが、私の胸元に目をやると口を開いた。
「お、お前・・・・男だったのか?」
「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」
私は、エルザにゲ〇をかけられた時に出した叫び声よりも、更に一段階上の叫びをあげた・・・同時に両手で胸を覆いつつ、右足を軸にして回転蹴りを放つ。
鞭のようにしなった左足がエルザの右頬にまともに入った。ふっとんだエルザは馬車に轢かれたカエルのような格好で倒れる。
耐久力を度外視した、強力な蹴りを放った私の左足は複数個所骨折していた・・・・
私は無言でクーの頭を洗っている。エルザはクーの隣に座り自分で頭を洗っている。
もちろん、自分の左足とエルザの治療を終えた後のことだ。
「お前なぁ・・・誰にも秘密はあるもんだけどなぁ、つまんないことを隠してんじゃないよ。」
「アンタみたいな巨乳種の人族には分からないでしょうけど、私にとっては重要な事だったのよ・・・悪いとでも?」
「悪いわ! 怪我を直したって、蹴られたときの痛みが無くなる訳じゃねぇんだそ!! それになんだよ巨乳種って。 大きいのだって良いことばかりじゃねぇんだぞ!」
「ふん。 出たわ『富める者』の発言が。 アンタ等富める者には『持たざる者』の苦しみが理解できないのよ。 それに、私だって骨を折ったんだからね。 グスっ・・・」
「そりゃお前の自業自得じゃねぇか。 そりゃまぁ、アタシだってお前に話していないことの1つや2つはあるけどさぁ・・・おい、カメリア泣くなよ。」
「泣いてなんかない! あんたが話さないってのは・・・貴族それも結構なところのお嬢様だってことでしょ?」
「カメリア・・なんで知ってる?」
「いや、勘だけどね。 このお屋敷だってそうだけど、そもそもあんたがテーブルマナーなんか知っているって時点でおかしいでしょう?」
「いや、そうか。 アタシの隠しきれない品性にね。 そりゃあ、気づいちゃうよな。」
「言ってない。 それにこの屋敷を回った時に感じた違和感も今わかったわ。」
「違和感?」
「ええ。 このお屋敷には家紋というか、貴族が付けたがるお家の紋章の類が全然なかったのよ。つまりこの屋敷は、あんたが隠したがっている実家のものなんでしょう?」
「お~。 そこに気づくか。」
「エルザは、私の髪のことには驚かないの? その・・・胸のことってそっちよりも重大な問題なの?」
「いや、本当は白いってのは知ってた。 クーの髪色を変えに行ったときな、アタシも見たんだよね実は。」
「この覗き魔。 じゃあ、あんたの本当の家名教えなさいよ。」
「いや、今はまだダメだ。 いずれ話す時が来んだろ。 しばし待て。」
「うふふふっ」
私たちの会話を聞いていたクーが我慢しきれずに吹き出した。
「クーちゃん?」
「お姉ちゃんたち本当になかよしなんだね。」
「「どこが!?」」
「ほらね。 息ぴったり。 あんなケンカした後なのに、すぐに仲直りしてるし。」
「アタシは許すなんて言ってねぇゾ。」
「私だって、アンタに受けた屈辱があの程度で晴れた訳がないわ。」
「そう言えばさぁ、聞いた事なかったけど、お前って年いくつなんだ?」
「私は、15・・・いやもう16才になったかな・・・エルザは・・?」
「じゅ・・・じゅうろく~? ウソだろ? アタシよりは下だとは思っていたけど・・10代・・16だと? ってことは、初めて会った時は・・・」
「13か14だったんじゃないかしら?」
「ま、まじか・・20才前後だと思っていた。 まぁ、あの胸を見た今なら納得できるが。」
「次に胸のことを言ったら殺すわよ。 んで、エルザの年齢は?」
「にじゅ・・・19才だ。」
「なによそれ。 無理がありすぎるし、今までの会話の内容と矛盾してるわよ。」
「うるさいぞ。」
「そうね。 若く見積もって25才ってところでしょ? もっと上だったり?」
「うるさい。 19だっての。」
「クーはもうすぐ12才になるよ!!」
この件があったことで、私とエルザの距離は近づいたと思う。もう3年近く一緒だけど、今日一日で縮まった距離の方が大きいんじゃないかとも思う。
もちろんクーちゃんとも一層仲良くなれた気がする。別れの日を思うとツライ。
お風呂から上がり居間に戻ると・・・ゲオルグとパトリックが思いっきりくつろいでいる。
このお屋敷で、こんなにくつろげる胆の太さには感嘆すら覚える。
「おぅ、風呂空いたからお前らも入っとけよ。」
「なんか、スゲェ声が聞こえたんだが?」
「何でもないわよ。 ちょっと虫が出ただけ。 ね?」
「そうだよ。 何でもなかった。」
「そうか? クー、なんかすごい物見なかったっけ?」
「エルザ・・・」
「いや、気のせいだったかも?」
「なんか、お前らずいぶん仲良くなったんじゃね?」
「いや、一緒のお風呂で語り合ったら仲良しパラメータ上がるでしょ?」
「じゃ、俺も一緒に入れば良かったかな・・・」
「死ね。」
「変態。」
「おじちゃん・・・」
「なんだよ。 言葉のあやだって。 そんな眼で見るなよ。」
そんな感じで、豪邸生活第1日目は終了した。




