第12話
ロアー・リブ市を離れてから、王都までの道のりは順調そのものだった。
行きの道中では、商隊を襲う野盗との遭遇もあって予定よりも遅くなったが、帰りは1日早く王都に到着してしまった。
ただ、夜になってしまったため王都の城門が閉ざされる直前で、もう少し遅かったら王都を目の前にしながら野営する嵌めになる所だった。
城門をくぐると、さすがは王都だ。夜になっても大通りは明るく、人も沢山出ている。
早めに宿を決めようということで、王都に入った直後から宿を物色しながら進む。
大通り沿いの宿は、きれいで立派だけどちょっとお高い。
やむなく大通りから少し外れたところにある『子うさぎ亭』という名の宿を取った。
可愛らしい名前だが、宿の従業員は皆ウサギ種の獣人だったので納得。
宿ではツインルームが取れなかったので、1人部屋を3つにする。
夕食を摂り、皆自室に引き上げる。依頼の荷は猫田さんが預かることになり、ミオは本日御者を務めていたためお疲れのようですぐに眠るとのこと。
なんか久しぶりの1人部屋で泊まることになった私は、なんとなく眠れそうになかった。
「王都は街灯も結構多いし、人もまだ沢山歩いていたから大丈夫だよね?」
なんて、自分に言い聞かせるように独り言を吐く。
「よし、ちょっとだけ王都見学してみよう!」
そう決めた私は、一度は解いた冒険用の装備を再度装着する。籠手やレッグアーマーなどは省いた簡易式だが、いつもの短刀2振りに加え、今回まだ未使用の丁の参式も持つ。
ミオたちに気付かれないようにそっと部屋を出て外に向かう。
フロントでカギを預ける際に「明るいところは大丈夫だが、くれぐれも街灯の無い場所には近づかないように」とウサギさんに声を掛けてもらった。
まあ、当然と言えば当然だね。
大通りをしばらく歩いてみる。
街灯も多く明るいし人も多いが、さすがに開いているお店は宿屋や酒場を始めとした飲食店ばかりだ。装備品を売っているようなお店はもう閉店している。
迷子になると困るので、宿の場所を見失わないように随時目印を決めておく。大通りには要所要所に市街の案内図もあるので、都度確認はしておく。
私は、自分が心配性・・・いや、慎重派なのだと思う。
大通りから少し脇に入っても、まだまだ賑わっている。
私は、露店で飲み歩きできるドリンクを購入し、ブラブラ歩く。
その内、自然とグスタフとシンシアのこと、ミオと猫田さんのことを考えていた。
(シンシアやミオさんの気持ちが本当なら応援したいし、ぜひうまく行ってほしいなぁ)
などと考えているうちに、いつの間にか街灯もなく暗い場所にいる自分に気付く。
光は、周囲の家からこぼれるわずかな光と、雲に隠れがちな月明かりのみだ。
(マズい・・・スグに明るいところに戻らなきゃ)
今ならまだ迷子になるほどではない。自分の身も危険だが、なによりこのシチュエーションは、物語の主人公が厄介ごとに巻き込まれるヤツだ!!
私は、急いで大通りを目指すべく、進む方向を変える・・・
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ~」
それ程遠くない所から、若い女性の悲鳴が聞こえた。
(ウソでしょ? 私は主人公ってタイプじゃないのに・・・)
私にとっての主人公とは、剣にも魔法にも天賦の才を持ち、その上誰よりも恵まれた容姿を持っていた姉鍔姫のような人だ。
鍔姫に比べると、私などは平凡極まりない。
しかし、女性の悲鳴を聞いてしまったからには助けに行かない訳にはいかない。
私は、急いで声のした方向に駆けて出した。
走っている最中にも1度悲鳴が聞こえたが、それきりだった。
代わりに金属がぶつかる甲高い音が聞こえて来る。
(誰かが戦っている・・?)
剣戟の音が聞こえる方に急いで駆け寄る。
いた! ざっと見る限り、1人が4人を相手に戦っている。地面には倒れているのが2人。肩を抱き合ってうずくまっている2人がいる。
恐らくだが、うずくまるのは悲鳴を上げた女性で、4人が盗賊かなにか、1人は私よりも先に助けに入った人だと決めつける。倒れているのはどっちか分からない。
4人のうち1人がうずくまる2人に近寄ろうとする。
私は、うずくまる2人と近寄ろうとする1人の間に割って入った。
やはり、うずくまっていたのは女性2名だ。腰が抜けて動けないのだろう。
近寄って来るのは、顔で判断するのは悪いけど、見るからに悪党っぽい。
私は女性に声を掛ける。
「あいつが悪い奴ですか?」
女性は、声が出せない様だったが、必死に頷くことで肯定の意を示す。
私は腰から鎖鎌丁の参式を手に取る。
「おいっ!そこの君!!早く彼女たちを連れて逃げろっ!!」
3人と戦闘中の男が私に向かって声を上げた。
そうは言っても、腰を抜かした人間2人を連れて逃げることは無理だ。
「1人なら何とかできますっ!!」
向かってくる悪党から眼を逸らさずに声を返す。
悪党は無言のまま剣を構えると、こっちに向かって走りだす。
私は、右手の鎌をわざと目立つように振り上げ、悪党の視線を誘導すると同時に、腰の位置から怪力の左手で分銅を射出する。
「ぐおっ!」
高速で放たれた分銅を腹に喰らった悪党は、短く声を上げて倒れ込んだ。
うめき声が聞こえるので、死んではいないだろう。
私は、ダメ押しにジャンプしてから全体重をかけて悪党を踏んでおいた。
いつかのミオのように、宙返りもできればかっこよかったかもしれないが。
その後、すぐに3人を相手にしている剣士の助太刀に向かおうとして視線を向けると、最後の1人が倒されるところが見えた。
しかし、私の目は彼の使用していた剣に釘付けとなる。
そのシルエットは、辺りが暗い中でもはっきりと捉えることができた。
細長く、美しい孤を描く刀身、そしてその刀身は夜の闇でさえも飲み込むような漆黒だった。
剣士は、血を払うように一振りし、刀身を拭う。そして剣を鞘に納めた後、こちらに向かって歩いてくる。
「夜露・・・・?」
私は、ありえないと思いながらも、生まれ故郷とともに焼失したはずの宝刀『黒刀夜露』の名を口にしていた。
~第3章 クロエとミオ2 終わり~




