第9話
武器屋を出た後にミオが「まずは、ここのギルド飯だナ。」と言うのでギルド向かう。
ロアー・リブ市の冒険者ギルドもアローヘッド市のものと同じような大きさと造りだった。もちろん食堂もある。
私たちが入ると、たむろしていた冒険者から奇異の目を向けられるが、ミオは無視してさっさと空いている席に腰掛けてホールスタッフを呼ぶ。
「とりあえず、ホットミルクを・・クロエもそれでいいナ? じゃあ2つお願いするナ。 メニューは・・・・これだナ。 なにかオススメはある?」
ホールスタッフは、今朝水揚げされたお魚のカルパッチョ?とかいうのを勧めて来たので、ミオはそれも注文した。
先に出て来たホットミルクをチビチビ舐めながらカルパッチョとやらを待つ。
中央大陸だけでも12の国家があるし、中央大陸以外との貿易も行われているため、この国の食文化は非常に幅が広い。しかし、魚介類に関しては島国だった八州国の方が進んでいるように思う。
アローヘッド市は港町ではなかったからかもしれないが、アローヘッド市で魚と言えば干物を焼いたものだ。川魚は取れるが調理方法は焼くか揚げるかだ。お刺身が懐かしい。
そうこうしている内に注文の品がテーブルの上に置かれる。
「「生だ・・・・」」
私とミオは2人同時に同じセリフを言葉にした。
私は思いがけず対面することになった生魚料理に狂喜するが、ミオはゲンナリしている。
「ミオさんっ! これっ! カルパッチョ? わぁ~この国に来てから生魚の料理は初めてかもしれません! さすが港町ですねっ!!」
「クロエ・・・お魚はナ、焼いたりして食べるものなんだナ。 獣人でも生なんか食べたらお腹下すんだナ。」
「いえいえ、新鮮なお魚は生で食べるとおいしいんです。 私の国でも生の魚料理はあったんですよ。」
「クロエ、お姉ちゃんの言う事が信じられないのかナ・・・」
「お姉ちゃんこそ、妹のこと信じてくれないんですか?」
なんて、やりとりが少し続いたが、新鮮なお魚がもったいないと私はカルパッチョを口に運ぶ・・・おいしい。オイルで食べるのは初めてだけど悪くない。ああ、お醤油があればもっと素晴らしいのに・・・それだけはザンネンだけど・・・ん?
ミオからの冷たい視線を感じて顔を上げると、ミオは今まで見たこともないような微妙な表情をしていた。
「クロエ・・・・」
「ミオさん、食わず嫌いでしょ? ちょっと食べてみて! 食べてダメだったら仕方ないけど、食べもしないのにそんな顔されたら私かなしいよ、お姉ちゃん。」
「ぐ・・・クロエ・・・ミオをお姉ちゃんと呼んでおけば、ミオがなんでも言うこと聞くと思っているナ・・・」
「うん。 お姉ちゃん。」
「くっ・・・そうだよ、その通りなんだナ。」
ミオは覚悟を決めて一切れ口の中に放り込み・・・咀嚼を終えて飲み込む。
「お、お~なんだコレ? 初めての食感・・・意外と悪く・・・」
「おい嬢ちゃん等、見ない顔だがやけに盛り上がっているようじゃねぇか」
いかにもといった感じの4人組の冒険者がミオの言葉を遮り、割り込んできた。
ああっ!もう!どうしてそんなベタなことを平気でやれるの?この後の展開が目に浮かぶよ・・・
しかし、相変わらずミオはモテるな~。 ちょっと羨ましくも思う。
「新顔ならまずは常連の皆さんに挨拶からだろう? こっち来て酌でもしてくれや。」
そう言って男は、ミオの手首を掴もうとするがすっと躱される。
「おい、なに避けてんだこのネコ女! やさしくして言っているうちに・・・」
バンっ!
ミオがテーブルを叩くように手をついて、黙ったまま椅子から立ち上がる。
立ち上がったミオは店員を見つけると
「代金はここに置いていくからナ。」
そう言ってテーブルの上に代金を置く。
「んじゃ、行こうクロエッ。」
テンプレ冒険者など見えていないかのように私に声をかけて外に向かって歩いていく。
正直に言えば、私にはミオがテンプレ通りに暴れて連中をぶちのめした後に、お店から修理代金を請求されるところまでが見えていたのだが、さすがにミオもそんなベタな展開は望まなかったようだ。
「あ、待って下さいミオさん。」
予想を裏切られて一瞬行動が遅れた私だったが、すぐにミオの後を追う。
ギルドの外に出てもミオは振り向かずにズンズンと進んでいく。
「おいコラ! 待ちやがれっ!」
追って来たテンプレ冒険者は、私を追い越して再度ミオの手首を掴もうとする。
あ~来ちゃった・・・テンプレ展開その2だ。
ミオは手首を掴もうとした男の手首を逆に掴んで引くと同時に足首を超スピードで払う。
男は宙に舞った。
あ、ここは行くんだね。 まあ、外だしね。
男が宙に舞ったのを見た残り3人のテンプレさんたちも一斉に動き出すが、2人は私の土魔法によるでっぱりに躓いて転ぶ。
最初の男が背中から地面に落ちる。
残りの1人は、ミオに飛びかかるが強烈な前蹴りをまともに喰らって、後ろに吹っ飛んで行く。ミオは前蹴りの後にピョんとジャンプからの宙返りを行い、下りざまに倒れていた2人の背中に着地する。背中を思い切り踏まれた男2人は、仲良くカエルみたいな声を上げた。
「クロエっ! 行こう!!」
私に振り返りさわやかに笑ったミオは、私の手を取り走り出した。
「はい!」
私もミオに遅れまいと走る。ここだけ切り取れば青春だな~なんて思いながらも、お店を壊さずに済んで良かったと胸を撫で下ろした。
その後は、ミオと2人で海の幸を食べまくり、デザートも何種類かいただいた。
「そうだ、猫田さんにもお礼に何か買っていきましょう!」
「ん・・・ネコタか? ん~そうだな。 今日くらいはケーキの1つでも買ってやるか?」
「そうしましょう!」
ミオはなぜか猫田さんには当たりが強い気がする。猫田さんがキライ・・・じゃなく、実は猫田さんの強さに・・・なんてこともあるのかもしれないな・・・なんて思った。
宿に戻ると、もう夕食時になっていた。
私はミオとの食べ歩きでお腹いっぱいだったので、夕食は辞退した(ミオは食べた)。
猫田さんにはお礼と称して、お土産のケーキを渡したところ、猫田さんは喜んで受け取ってくれた。
先に部屋に戻った私は、1人ベッドに横になる。
最近はいつもミオと寝ていたから、ベッドに1人で横になるのは久しぶりのような気がする。
「なんか色々あった旅だったな・・・私の刀・・大事にしてくれる人が買ってくれるといいなぁ・・・あ、まだ肝心な依頼品も受け取ってないし、旅はまだ半分だぞ。 気を抜くには早いよね・・・うん、はやい・・・」
そんな独り言を言っているうちに私は眠ってしまった。




