第3話
「起きてくれ! おい! 起きてくれないか!!」
誰かの声のようなものが聞こえる・・・?
「起きます・・起きますよ・・・ん・・・体が・・痛い・・。」
翌朝・・と言っても昼頃だろうか?床で眠り込んでいた私は、床の硬さと、どこからか聞こえてくる声に耐えられず目を覚ました。
「なんで・・・こんなところで寝ているんだ?私・・?」
独り言を言いながら当たりを見回すと、作業台の上で目隠しをされ、両手足を縛られた男性がこちらに顔を向けている。
「・・・・!?」
一瞬で眼が冴え、体中の毛が逆立ったような気がした。
「???? んん~~??」
目の前の予期せぬ光景に、思考が追い付かない。
「え? 誰? ここは??・・・私の工房・・・だよね??」
眼を白黒させながらなおも周囲を見渡す・・。私は動揺を隠しきれない・・・というか目一杯狼狽えていた。
そこに作業台の上にいた男性が声を掛けてくる。
「良かった。 やっと目を覚ましてくれたか・・。 自分も状況がよくわからないのだが、キミが自分をここに連れてきて軟禁しているってことで良いのだろうか?」
目隠し+両手足を縛られていながら、男性は意外と冷静に話をしてきた。
「な・・な・・なっ・・!?」
と、相変わらず動揺していた私だったが、ようやく少し思い出してきた。
(そうか、昨夜行き倒れた人を運んできたんだ!!)
「は、はい。 あ、いや、いやいやいや、軟禁は違うんですが、いや? 違わないのかな? じゃなくって、お怪我をされて倒れていたので、一応治癒魔法で・・。」
「そうだったのか、すまない。 助けてもらったことには感謝する。 しかし、この状況は軟禁と思われても仕方がないかな。」
目隠し+縛られた男は、拘束されている手足をバタバタしながらも妙に淡々と話す。
「えぇ・・まぁ・・・。 この辺りは、まだ人があまりいないので、他に頼れる人もいなくって・・・。 なので、念のため両手足は拘束させていただきました。」
「あぁ・・・それでコレか・・・。」
彼は、改めて縛られた両手首と足首を差し出した。
「それは賢明な判断と言えるのかもしれないな。 それで・・・・早速で申し訳ないが、拘束を解いてはもらえないだろうか?」
「ええっと・・・ごめんなさい。 1人だと怖いので、もう少し待ってもらえませんか? 街にいる仲間を呼んできますから。」
「うむ・・まぁそれはそうか。 賢明な判断といえるだろうな。 それでは、待ちましょう。 お仲間はそちらの方以外にも?」
目隠し+縛られているのに、淡々とした物言いで入り口の方向を向いて答えた。
「おおっ! お前、ミオに気づいていたのかナ。」
いつからいたのか、入り口の方から可愛らしい声がした。
私はまたも驚いて声のした方向に目線を送る・・・そこには、包みを持ったクセっ毛の可愛らしい獣人族の女の子が、ニコニコしながら立っていた。
「ミオさん!! 戻ってらしたのですか!?」
実家に帰っていたという、星夜の灯火のパーティメンバーのミオである。
ミオ=グリスは、獣人族の中でも最強の一角とされるトラ種の獣人だ。戦闘において頼りになるのはもちろんだが、普段はとてもやさしい。
私よりも2つ年上の17才で、年が近いこともあってか、私に色々と世話を焼いてくれるカワイイお姉さんだ。背は私よりも少し低い。
「おう、今朝早くにナ。 クロエがホームじゃなく工房に帰ったとグスタフ聞いたから、お土産を届けに来たのナ。」
ミオは手に持っていた土産の入っていると思われる包みを掲げてブラブラさせている。
「でも、なんか予想外の展開になっていて・・・お姉ちゃんは悲しいんだナ。」
言葉とは裏腹に、ミオはなんか笑みを浮かべている。
私は、慌てて昨晩からの経緯をミオに説明する。
ミオは、私があたふたしながら話す様子をニッコニコの笑顔で「うニャうニャ」相槌を打ちながら聞いてくれた。
「なるほどナ~。」
一応納得はしてもらえたのだろうか?
「すまないが、話が通じたのならこの拘束を解いてはもらえないだろうか? あと、申し訳ないついでに、何か食べ物いただけると助かります。」
拘束男が、頃合いを図って口を挟む。
「おい、行き倒れ男。 オマエ、なんでミオがいるってわかったんだナ? ミオがいたことには、クロエも気づいていなかったんだナ。」
「・・・。 何故かと言われると・・・気配を感じたとしか言いようがないが・・。 目隠しされていた分、気配に敏感になっていたのだろうか・・??」
拘束男は、自分のことなのに自信なさげに答える。
「クロエ、拘束を解いても平気だナ。 ミオの見立てでは、すぐに暴れるような奴ではないようだナ。」
そう私に言った後、今度は拘束男に向かって話す。
「行き倒れ男。 だからって、完全にオマエを信用したわけじゃないんだからナ。 一応忠告はしておくけど、変な気を起こしたら即あの世逝きナ。 ミオはとっても強いんだからナ。」
ミオは、鋭い爪でひっかく素振りをみせる。
(目隠しで見えていないと思うけど・・・)
ようやく冷静さを取り戻しつつあった私は、心の中でミオにツッコむ。
「丁度お土産の饅頭もあるし、食事もなんとかなるんだナ。」
手に持っていた包みを再びブラブラさせてアピールする。
お土産と言っても故郷のものではなく、工房に来る途中で買ったもののようだ。
「どうせ、クロエの所には碌な食べ物は無いんだナ?」
「はい・・・ミオさんの仰る通りです。」
「私もおなかすいたし・・クロエっ! 行き倒れ男の拘束を解いたら、お茶でも淹れてもらえないかナ。」
ミオは、自分が持ってきたお土産を食べる気満々のようだ。
「あの・・・。 なんか、最初に聞くべきだったと思うんですが、あなたはどうしてあそこで倒れていたんですか? あ、後、お名前は・・・?」
私は、彼の拘束を解きながら、最初に聞くべきだったことを聞く。
「・・・申し訳ないが、どちらも答えられない。」
「!!」
ミオの表情が曇る。
彼は、ミオの態度の変化に気づいたのか話を続ける。
「すまない。 答えを渋っているのではなく、自分にも分からないのだ。 誤解されるような言い回しをしてしまったことを詫びる。」
手足の拘束を解き、目隠しを外し、彼が眼を開いたとき私は戦慄する。
ミオも眼を見開いて、彼の瞳を見て言い放つ。
「お前!! なんなんだナ!! その眼は!!」
男は、外見上はどうみても人族であったが、その瞳は金色の猫目をしていた。
私は、彼の眼に驚くあまり、昨晩男と一緒に拾ってきた槍のことは、すっかり忘れてしまっていた。




