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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第3章 クロエとミオ2

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第6話

 野盗に襲われていたのは、馬車4台から成る商隊だった。

 護衛の冒険者も同行しているが、野盗の数は多く苦戦している。


 先に辿り着いていた猫田さんとミオの加勢により、野盗側にもかなりの損害が出始めている。

 野盗は・・・人族と獣人族、それに爬虫人族も見える。20人は下らない。

(でも・・・やっぱり、人間相手は嫌だなぁ・・・)

 正直に言って、私は人間を相手にするのは怖い。ゴブリンやオークなど人間に近い姿をしている魔物でも良い気はしないのだ。

(いや、今はそんなこと言ってられない!)

 私は、左右の腰に差している短刀を引き抜き戦いに飛び込んだ。


 私が到着してから数分も経たないうちに勝敗はほぼ決する。

 ミオと、なにより猫田さんの人並み外れた強さの前に野盗は次々に倒されていく。

 7割近くの仲間を失った野盗が逃げ出すが、頭目と思しき人間は、ミオに気絶させられ捕らえられた。


 野盗には勝利したが、商隊の損害は少なくなかった。

 8名いた護衛の冒険者のうち4人が亡くなっており、残りも重軽傷を負っている。商人達にも被害は出ていた。

 商隊の馬車には、リゾート地でもあるロアー・リブ市で働くために同乗していた女性たちがいたが、彼女等は全員無事だったのは幸いだ。


「とりあえず、生きているヤツを縛っておくんだナ。」

 ミオが商隊の人間に指示を出していると、商隊のリーダーと思われる人物が現れて、ミオと猫田さんに礼を言っている。


 私が、気絶して縛られているボスを見ていると

(ガイコツの彫り物?)

 野盗のボスの右上腕部に『ラッパ(?)を持ったガイコツ』の様な入れ墨があるのが眼に入った。

 全員では無いようだが、他にも同様の彫り物をしている者がいた。

(野盗のチームエンブレムかな?)

 その時の私は、その程度の感想しか持たなかった。


「誰か! 治癒魔法を使える人はいませんか?」

 生き残りの冒険者が叫んでいた。


「はい、私少しならできます。」

「お願いします。 仲間を治療してくださいませんか? 意識がなくてポーションを飲ませられないんです。」

 叫んでいた冒険者に促され、うつ伏せに寝かされている別の冒険者の所に連れていかれた。

(う・・・これは・・・私の魔法では無理かもしれないな・・・。)

 その冒険者を見てそう思ったが、とにかく治癒魔法を施す。

「大地の息吹・・・」

「ああ・・・う・・・・」

 背中をばっさり斬られていた魔法士と見える女性の苦悶の表情が少し和らいでいく。

(良かった・・・効いているみたいだ。)

 治癒魔法を使用し続けていると、目に見えて彼女の容態が良くなってきているのが分かる。


「う・・・あ・・・」

 魔法士の女性が目を少し開く。


「意識が戻りましたか? これ飲めますか?」

 彼女は、私が口元に近づけたヒーリングポーションに気づくと、何とか飲み込む。

 彼女を抱きかかえている私には、ポーションの効果が広がっていくのが感じられた。


「あ・・助けていただき・・・あ、ありがとうございます・・・」

「いえ・・・もう少し早く着いていれば・・・・」

「そんな・・・本当に・・ありがとう・・ございました。」

「はい。」


「・・・・・・そうだ! テリアっ!? テリアっ!?」

 女性魔法士は、彼女の仲間と思われる人物の名前を叫んで左右を見渡す。

「ちょっ・・・まだ、そんなに動いたらダメですよ。 傷が・・・」

「テリアっ! どこなの!? 返事をしてちょうだいっ!!」

「エッタ・・すまない。テリアは・・・・」

 生き残りの冒険者が、エッタと呼んだ女性魔法士に話しかけて途中で言葉を詰まらせた。


 商隊の行先もロアー・リブ市であるとのことであったため、私たちも同行することとなった。

 亡くなった商隊の関係者、冒険者そして野盗の遺体の運搬、さらには捕らえた野盗をも連行しているため、商隊の移動スピードは遅くなる。ロアー・リブ市に着いたのは4日後の夜であった。


 道中、私たちの馬車には余裕があったので、ケガの治療のこともありエッタと呼ばれていた魔法士を同乗させ、さらに、その友人であった治癒士テリアの遺体も乗せていた。

 最初は、殆ど話もせず食事も碌に取らなかったエッタだが、3日目の夜になって話をしてくれた。


「テリアは同じ村の出身で、私の小さい頃からの親友だったんです。 私は火の魔法に適性を認められたので魔法士に、テリアは光の回復魔法が得意だったので治癒士になって、ずっと一緒に冒険者をやって来たんです。」

「・・・・・」

「色んなパーティに参加したりもしてきましたが、私とテリアは一度も離れることなく・・・もう8年も一緒に冒険者をやっていました。 ケンカはよくしましたけど。」

「そうだったんですね。 なにか心に残っている冒険譚とか冒険者とかってあるんですか? 良かったら聞かせてもらえませんか?」

「そうですね。 3年・・・いえ4年前でしょうか。 私たち2人がたまたま滞在していた第11国のフロー市というところで、大規模な魔物討伐のクエストがあったんです。 私たちもそれに参加したんですが・・・」

「・・・・・」

「その時に40名ばかりの冒険者で構成された急造の傭兵団を仕切ってくれたのが『血塗れ斧(ブラッディアクス)』さんでした。」


 ドクンと私の心臓が一際大きく鼓動したように感じた。


「・・・血塗れ斧・・・私も聞いた事はあります。 なんでも男顔負けの強さの女性だとか・・・」

「ええ、とんでもなく強くて、とても気さくな方でした・・・」

「その・・・血塗れ斧さんと一緒に・・・魔・・・いや、女性の魔法使いがいませんでしたか?」

「ええ、ご一緒でしたよ『氷嵐の魔女』さん・・・たしかカメリアさんと仰いましたね。途轍もなく優れた魔法の使い手でした。」

「エッタさんは氷嵐の魔女に会ったことがあるのですか!?」

「え、ええ。 私は彼女のすぐ後ろに居ましたから・・・彼女があまりにお強いもので、私の出番はなかったくらいでした。 氷嵐の魔女の名に違わず、広範囲で高威力の氷魔法が凄まじかったのですが、超高速で放たれる閃光の魔法も得意としていました。 その上、高位の回復魔法も使うものですから、テリアも驚いていました。」

「氷嵐の魔女・・・カメリアって名前だったのですか? 外見とか特徴とか覚えていませんか?」

「はい、確かにカメリアと呼ばれていました・・・外見は・・・そうですね、年は20才前後位じゃないかしら? 透けるような白い肌で赤い目をした、大層お綺麗な方でした。 背は小柄でしたね。 血塗れ斧さんと並ぶと随分と身長差が目立ちましたから。」

「カメリア・・・20才・・? でも・・・白い肌に赤い目・・・」

「どうかしましたかクロエさん? 顔色が優れないようですが・・・」

「そのっ! カメリアさんの髪の色は白じゃなかったですか!?」

「いえ、髪の色は鮮やかな青でした。 青い髪に白い肌、そして赤い目・・・本当に人ならざる美しさでしたよ氷嵐の魔女さんは。 血塗れ斧さんも、氷嵐の魔女さんとは対照的な美人さんでしたけど。」

「そう・・・ですか・・。」

「赤髪の血塗れ斧さんと並ぶと本当に対照的で・・・クロエさん? 本当に大丈夫ですか? お体の具合でも・・・?」

「は、はい。 すみません。 だ、大丈夫です。」


 私が第9国に来たのは『氷の魔女』とか『氷嵐の魔女』とか呼ばれている女魔法使いが、もしかすると姉の鍔姫(つばき)ではないか?と思ったからだ。

 氷嵐の魔女の噂は、姉が里からいなくなった少し後くらいから中央大陸内で急に語られ始める。その噂を辿って着いたのが第9国だ。

 しかも、今から5年ほど前にはアローヘッド市にしばらく滞在していたらしいし、その後も何度かアローヘッド市に現れている。

 噂では、確かに青い髪だとは聞いていたが、その他の特徴はかなり一致しているし、青髪も氷のイメージとかなんらかの理由で間違った情報が伝わっているものかと考えていた。

 年齢に関しては・・・鍔姫姉さんは私よりも4つ上だから、現在19才のはずだが5年前の噂でも20才くらいだと語られている。きっとそれは、姉さんが若い時から完成された美しさだったため、少し年上に見えるのだろうとも思っていたのだが・・・

 実際に見たことのある人から青い髪であったことを聞かされると、やはり別人だったのだろうか・・・でも、姉さんは魔法の天才だった。もしかすると魔法でどうにかしているのかもしれない。実際に会ってこの目で確かめるまではそう思うことにした。


「すみませんエッタさん。 つい余計なお話をさせてしまって・・・」

「いいえ、私も久しぶりにあの2人のことを思い出しました。 テリアと一緒に目標とした方々を・・・テリアはもういないけど、私だけでも目標を忘れないようにこれからも頑張ってみるつもりです。」

「そうですか・・・お互いに頑張りましょうね。」


 私とエッタが話をしている間、ミオは腕組みをし、黙って眼を閉じていたが、耳はずっとこっちを向いていた。


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