第5話
私たちがアローヘッド市を立ってから9日後、無事に王都サジタリアの城壁をくぐる。
道中では、野獣に遭遇して幾度か戦闘もあったが、当初の予定よりも1日早く到着した。
王都はさすがに王都というだけはあった。高く堅牢で巨大な城壁に囲まれており、城壁内はアローヘッド市の数倍はあろうかという広大さだ。中心には王城が見える。敷地は広大で、街には広い大通りが何本も走っているが、大通りを1本脇道に入ると建物が密集していて窮屈な感じだ。王都だけに人が集まり、結果キャパシティを超えるくらいに集まってしまったのだろう。
王都で武器屋の物色もしたかったが、まだ旅の中間地点であるので、物資の補給だけして素通りすることにした。そのうちに王都に来る機会はあるだろうし。
大通りを馬車で通過しながら街の景色を眺める・・大通り沿いには、大きな店舗が並んでおり壮観であった。
「ミオさんは、王都に来たことはあるんですよね?」
「まあナ。 来たことはあるけどナ。」
「あんまり好きじゃない感じですか?」
「そう言う訳でも無いんだけどナ。 ここは人が多すぎるし、緑が少なすぎでナ。 落ち着かないんだナ。」
ミオの言うとおり、建物が多すぎて緑は随分少ないように見える。アローヘッドの方が都市部は狭いが、中期計画によって建築規制などもあり、緑も計画的に敷設されている。工業地区を新しく造ったのもその計画の一環によるものだろう。
王都では人が集まりすぎてそのような計画もできなかったのだろうか?それともアローヘッドの行政府が優秀なのか?
「火事とか起きたら大変そうですね。」
「そうだナ。 過去には何度も大規模火災は起きているらしいからナ。 その都度に姿を変えながらも結局はまたこんなになっちゃうみたいだナ。 他の国の王都もこんだ感じなんだナ。」
「そうなんですね。 人が増えすぎるのも困りものなんですね。」
「そ~だナ。」
ミオはそう答えると眼を閉じた。
今日は天気も良く日差しがとても暖かい。馬車で揺られていると眠くなるのも頷ける。
私は、母国から船で第3国に入り、第4国を経由して第9国に来ている。第4国の王都キャンサードには立ち寄ったことがあるけど、物資の補給だけしてすぐに発ったので、大きくて圧倒された記憶しかない。そう言えばキャンサードは城塞都市ではなかったことを思い出した。
「猫田さん、御者代わりましょうか?」
私は、王都を後にしてから少し経った頃に、馬車の客車から御者席に座る猫田さんの隣に移動する。
この旅にはシンシアが同行していないので、猫田さんは眼を隠すために色の濃い眼鏡をかけている。度無しの伊達眼鏡だが、それなりのお値段だったので猫田さんにとっては手痛い出費だったようだ。
「・・・まだ昼過ぎだし王都からも近いから問題ないか。 それでは、夕食までの間お願いできるかな?」
「ええ、この道中で大分慣れましたから。 任せてください。 でも、猫田さんは御者も最初から上手でしたよね? 武器以外でも自在に操れるんですね。」
「どうかな? 馬の扱いは戦闘技術にも関連するからね・・・ではクロエ、自分は休ませてもらうよ、何かあったらすぐに呼んでくれ。」
「分かりました。ゆっくり休んでください。」
最近猫田さんは少し悩んでいる?ような感じがする。自分が戦闘に関する知識を詰め込まれて造られた兵器のような存在なのではないかと思い始めているようだ。
確かに猫田さんの戦闘技術は凄すぎる。恐らくは初めて持ったはずの刀ですら達人レベルで使いこなすのだから。
でも、猫田さんはいつも淡々としているようでいて、結構そうでもない時もある。
寒くなってきた頃に気が付いたことだが、猫田さんは寒いのが苦手らしい。冬の間は、もこもこした上着をいつも着用して暖房の側に張り付いていた。今も結構な厚着をしている。 それでいて猫舌なようで、ご飯がお鍋の時なんかは嬉しそうなのに食べるのに苦労していたりする様はなんか面白かった。
本当は猫目の人族ではなく、人族の耳を持つネコ獣人なのでは?と思ったりもした。
王都サジタリアを離れて3日目の昼下がり、御者を務めていた私は、街道の先に煙が幾筋か上がっているのを認めた。
一旦馬車を止めて、客車で休んでいる2人を起こす。
「ミオさんっ! 猫田さんっ! 起きてください!!」
「なんだ・・クロエ?? ・・・お姉ちゃんに遊んでほしいのかナ?」
「どうしたクロエ交代かい?」
2人は、正反対の対応をする。まあ、2人とも「らしい」反応だが・・・じゃなっくって
「煙が見えるんです。 ご飯時じゃないし、薪の煙ではないと思います。」
「ん・・・」
眼鏡を外して猫田さんが煙の方向を見ている。
「商隊が野党かなにかに襲われているのかもしれないね。 どうする?」
「行きましょう! 猫田さんの言うとおりだとしたら放っておけませんよ!」
「分かった。 とりあえず、もっと近づいてみよう。 戦闘準備はしてくれよっ!」
そう言いながら、猫田さんは丙の九式・改をロングスピアに組み替える。素槍だった穂先の下に刃止めを追加したため、シルエットは十文字槍みたいになった。
ミオは、まだむにゃむにゃ言っていたが、馬車の急発進により眼が覚めたようだ。
煙に近づくにつれて、爆発の光に続いて爆発音、剣戟の音などが聞こえて来る。
「やはり野盗かっ?」
まだ少し距離がある所で馬車を止める。
「クロエは馬車を寄せてから来てくれっ! ミオは自分と突っ込むぞ!!」
「分かったんだナ。 クロエはゆっくり来るんだナ~!」
そう言って2人は戦場にスゥっと駆けていく。2人の消音技術は大したものだ。
「おっと、感心している場合じゃないや。」
街道脇に馬車を寄せると、私は2人を追って走り出した。




