第4話
私とミオがホームに戻った時には、既に夜になろうかという時間だった。
「お帰りなさい。 あら、2人は一緒だったの?」
玄関に入ると、夕飯を運んでいたシンシアに遭遇した。
「姉妹でデートだったんだナ。」
「あ、2人だけで女子会はずるいなぁ。 私も誘いなさいよ。」
「ふっふっふっ。 シンシアは女子じゃな・・・・」
言いながらシンシアの顔を見たミオは途中で言葉を止めて眼を逸らした。
「ミオさん。 今度はシンシアも誘って街を回りましょうよ!!」
「え~っ、それだと姉妹水入らずにならないんだナ。」
「お、クローエは良い子だね。 たまには一緒に遊びに行きましょうよ!」
「そうだよミオさん。 シンシアだってたまには羽伸ばさないとね。」
「そうかナ?」
「お~い、シンシア! ミオ達も帰ったんだろ!? 早く飯にしようぜ!!」
居間からグスタフの大きな声が響く。
「あのオッサンは・・・自分は何もしないくせに偉そうなんだから! じゃ、ごはんにしよっか?」
(う~ん。 たまにシンシアは可愛くなるよな。)
「あれ?シンシア? 今日は随分豪華じゃないかナ? 夕食・・・」
「えっ? ええ、今日ギルドに持ち込んだ魔物の素材や遺跡の地図に結構良い値がついてね。」
「へぇ~。」
「さらに遺物やスコップはまだ鑑定中で、まだ値がついていないのよ。」
「そうなんだ。」
「だから、今日くらいはちょっと贅沢にね。」
「おおっ! それじゃあミオも張り切って食べるんだナ。」
「クローエ、あなたもミオを見習って沢山食べなさいよ?」
「ええ~。 私そんなに多くは食べられないよ。 シンシアもじゃん。」
「エルフは基本小食なものよ。」
パーティメンバー揃っての豪華な夕食の途中、グスタフがおもむろに話し出す。
「今度なぁ、南の城塞都市ロアー・リブから荷物を運んできてほしいって依頼が来ているんだよな。 先方の都合で、出発は1週間ほど後になるんだが、ミオ、クロエ、猫田の3人で行ってきてもらえないか? 馬車も貸してもらえるからよ。 しかも2頭立てだぞ。」
「グスタフは行かないの?」
「ああ、俺とシンシアは別件があってな。 悪いが頼めないか?」
「ミオはいいゾ。 クロエと2人で行くからネコタも来なくていいんだナ。」
「ミオ、そうは行かない。 リーダーであるグスタフに頼まれたんだ。 自分も行くよ。」
「え~・・・別にネコタは来なくても良いんだけどナ~。」
「クロエは? 大丈夫か?」
「分かった。 1週間後だね。 じゃあ、早速今から工房に戻らないと!」
「今日はダメだナ。 もう遅いし、明日にしなさい。 あと、工房に行っても夜はホームに戻って来るんだナ。」
「え~。 でも1週間しかないのに・・・」
「クロエっ。 ミオが毎日迎えに行くからナ。 この前みたいなことにならないようにナ。」
「はい・・・」
前回の鍛冶の時のことを言われると従うしかない。またミオに臭いなんて言われるとツラい。
翌日から自分の工房で早速鍛冶を始める。
せっかくロアー・リブ市まで赴くことになったので、ロアー・リブ市の武器屋に私の鍛冶品を置いてもらおうと思ったのだ。
まぁ、アローヘッド市でもまだ全然名前は売れてはいないんだけどね。
後は、猫田さんに預けた刀『鉄芯』の代わりになるものを造ろうと思う。
グスタフの両手剣も結局ダメになったので、造ってあげたいんだけど大物はちょっと難しい。ま、グスタフは予備の剣とか何本も持っているから大丈夫なんだけどね。
遺跡で採掘した良質な鉄鉱石でショートソードを打つ。前回丁の弐式を打った経験が役に立ったので、出発前には同程度の品質のものが4本完成した。
他に片刃の短刀が2本。
いずれもこの国の文字で私の銘を刻んだ。
後、この国で受け入れられるかは分からなかったけど、刀を1本打った。
遺跡で拾った黒鉄鉱を使用した黒鋼製なので、叔父さんの刀には及ばないまでも、今の自分としてはかなり満足できるものが打てた。
普段なら売り物には名前を付けないのだが、今までで1番出来の良い刀を打てたので『甲の壱式』と名付ける。何故壱式なのかと言うと、刀への思い入れが強すぎたためか、今まで名前を付けるほど満足の行った刀が打てたことが無かったためだ。
刀はこの国では珍しいと思ったので鞘も製作し、この刀の茎には私の銘の他に、八州国語で『壱式』とだけ刻んでみた。
自分用の武器は何にしようか迷ったが、ミオがウイップの練習していたのを思い出して鎖鎌を造ってみた。鎖部分は一から造る時間が無かったので、売っている鎖だけど、いつか鎖部分も造りたいと思う。 この鎖鎌も黒鋼製で『丁の参式』と命名する。
後は、岩犬戦で猫田さんが使用していた槍、丙の九式に少し手を加え改良した。
結局、ミオは宣言した通り、毎日夕方近くなると工房に私を迎えにきた。ホームに向かう途中で浴場に寄ってサッパリしてから帰る日々が続いた。
ホームにて夕食が終わると、グスタフが依頼の話を始める。
「ロアー・リブ行きの件だが、明後日の朝に馬車が来るからそれで出発してくれ。 御者はついていないんだが・・・ミオは馬車扱えたよな?」
「まあナ。 前にグスタフたちに仕込まれたし大丈夫だナ。」
「猫田とクロエは乗れるか?」
「私は経験ないけど・・・今回教えてもらってできるようになりたい。」
「自分は・・多分出来ると思うよ。」
「そうか、なら安心だ。王都まで10日、そこからロアー・リブまで6日位か? 往復だと1月ちょいだな。」
「ロアー・リブ市は、海が近いんだよね?」
「そうだな。 夏なら海で遊べたかもな。 今はちょっと時期じゃないな。」
「別に泳ぎたいわけじゃないけど・・・1日位は自由時間をもらえないかな?」
久しぶりに海をゆっくり眺めてみたいってのもあったが、本当の所は街の武器屋を回って、私の武器を買ってくれる店を探すつもりだ。
「たまにはいいんじゃない? せっかくロアー・リブ市まで行くんだし。」
「ま、1日位ならいいだろう。 本当ならもっとゆっくりしてこいと言いたいんだが、依頼者の手前な・・・」
シンシアもグスタフも同意してくれた。
「よし、クロエはミオと遊ぶんだナ。 ネコタは荷物番を頼むんだナ。」
「分かったよミオ。 荷物は自分に任せてくれ。」
「そう言えば、受け取る荷物ってなんなのナ?」
「悪いが俺も知らん。 アローヘッドの領主オルブライト侯爵家がらみの依頼らしい。 ロアー・リブにあるアローヘッド領事館に行けばわかるとさ。 そうだ、自由時間の話だが領事館に寄る前にしてくれや。 依頼品を持ったまま遊びに行くってのはどうもな。 バレたら文句言われそうだし、万が一盗まれたりしてもマズいしな。」
「分かったナ。 ところで、グスタフとシンシアはミオ達がいない間何するんだナ?」
「ん? ああ、ちょっと人と会ったり、例の遺跡の件でギルドに行ったりだな。 残りの時間はゆっくりさせてもらうさ。 その代わり、この依頼の報酬は3人で分けてくれや。」
「ホントかナ!?」
「それは助かる。 自分はいまだ貧乏だから助かるよグスタフ。」
「街道を通るからと言っても、野盗や魔物だってでるかもしれないんだから気を付けなさいよ?」
「シンシア心配するナ。 ミオがクロエを守るからナ。」
「自分もいるからな。 任せてくれ。」
「よ~し、ミオさん、猫田さん、しっかり依頼を果たしましょうね。」
2日後の朝、ミオと猫田さんと私の3人は馬車で出発する。まず目指すは王都サジタリアだ。グスタフの話だと馬車で10日位かかるんだっけ?
まだ少し肌寒いけど、空気の澄んだ清々しい朝だった。




