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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第3章 クロエとミオ2

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第3話

 遺跡での戦いから4週間。

 私たちは、ホームのある城塞都市アローヘッドまで辿りついた。


 帰途においても何度も魔物との遭遇戦はあったけど、翼竜の群れやあの岩の魔物ほどではなかったため、全員無事にホームに帰り着くことが出来た。

 既に年は明け、神暦3,173年の2月になっていた。


 ホームに着いてから2日ほどは、皆泥のように眠ってしまっていた。

 1月以上安心して眠れる場所にいなかったからだろう。


 ホームに戻って3日目の朝、私がミオのベッドで目を覚ますと隣で眠っているはずのミオの姿は既になかった。

 私は眼をこすりながらミオの部屋を出て1階に下りる。


「ミオさ~ん?」

 居間に着くがそこにもミオの姿はなかった。代わりに猫田さんがいた。

「やあ、お早うクロエ。」

「猫田さん、お早うございます。 ミオさん知りませんか?」

「自分がここにいる間には見ていないね。 そうだ、まずはコレを返さないとね。」

 猫田さんは、私の刀を差しだす。

「いや、これはかなりの業物だね。 クロエが造ったものなのかい?」

「いいえ。 この刀は、私の師匠が打ってくれたものです。 恥ずかしながら、私の腕ではここまでのものはまだ打てたことがありません。」

「そうか、大切なものだな。 すまないね、自分が丁弐式を折ってしまったばかりに。」

「いえ、それについては私の力不足も大いにあったと反省しています。」

「相手も悪かったしね。」

「はい。 刃物との相性は最悪でしたね。 でも、この刀と猫田さんの力が合わされば岩をも切り裂けるんですよね。」

「どうだろう? 今回は、皆の攻撃があってこそだと思うけどね。」

「猫田さんさえよろしければ、その刀は猫田さんが使っていただけませんか?」

「大事なものなんだろう?」

「ええ、だからこそ刀の力を引き出せる猫田さんに使って欲しいんです。 私では宝の持ち腐れですから。」

「・・・・」

「猫田さんはお気づきと思いますが、私は刀の扱いがそれほどうまくはないんです。」

「うん。 正直言ってしまうと、短刀を使い始めてからの方が動きは良かったとは感じていたけどね。」

「はい。 私の国では割と邪道とされている流派・・・『凰流(おおとりりゅう)』と言うんですけど、私にはそっちの方が合っていたみたいで。 逆に正統剣術『鳳流(おおとりりゅう)』の方はイマイチでしたので。」

「え? オオトリ流とオオトリ流・・・同じなのではないのかい?」

「あ、そうですね。 発音は同じなんですけど、字が違うんです。 分かりにくいですよね。」

「そうだね。 正統なオオトリと邪道なオオトリは、何が違うんだい?」

「うーんと・・・簡単に言うと、どちらも私の国に数多に存在した流派を統一した物なんです。 で、正統な方は、剣と槍、弓、馬術なんかを集めたものです。 邪道な方は、正統な方に入らなかったようなもの・・・例えば、暗器の扱いや剣にしても二刀流の技なんかを集めたものなんですよ。」

「なるほどね。 騎士とかは正統な方のオオトリを学ぶんだね。」

「そんなんです。 それで、段々ともう1つの方の凰流は廃れて行ったんです。」

「だからクロエは、短刀二刀流の方が得意なんだね。」

「そうです。」

「分かった。 この刀はありがたく使わせてもらうよ。 刀の名前はなんて言うんだい?」

「いえ、名前は特に付いていません。銘も刻まれていないので『無銘』ってことになるんでしょうけど・・・そうですね、刀を打った師匠の名前をいただいて『黒鉄』・・・いえ『鉄芯』なんてどうでしょう?」

「鉄芯・・・頑丈そうでいい名だ。そう呼ばせてもらうよ。」

「はい。 ところで猫田さんって、武器なら何でも扱えるんですか?」

「どうかな? 今まで触った物は、なんだか使い方を知っていたようなんだが。」

「多分ですけど・・・猫田さんは、初めての武器を持って構えたときに武器の使い方が分かるんじゃないですか?」

「・・・・・確かに、そう言う感覚みたいなものはあるように思えるね。」

「構えた時に、何か揺らぎみたいなものを感じるんです。 あと、もう一つ。」

「何だい?」

「あの岩犬との戦闘中に、猫田さんは空中の何もないところを蹴りましたよね?」

「よく見ていたね。 あれも何故だか『できる』という確信があったとしか・・・すまないね。 嘘を言っている訳ではないんだ。」

「あれは『気』の力ですか?」

「『き』? 自分にもよく分からない。 元々知っていたものを思い出しているのか、瞬間に閃いているのか・・・まぁ、また不審点が増えてしまったかな。 本当の自分があるとして、それが戻った時にどうなるのか少し不安になるね。」

 猫田さんは、少し寂しそうな顔をした。


(そう言えば、中央大陸では『気』ってほとんど認知されていないんだっけ?)


「自分からもひとついいかい?」

「はい。」

「あの戦闘中にクロエは黒い炎を使っていたよね。 2回ほど。 平気なのかい?」

「ええ、本来の業火は私の魔法なんです。 あの黒い痣を先代から引き継いだ時に発現したものなんですよ。 だから、岩犬との戦闘中に使った業火はその魔法です。 ミオさんの時は、遠くに・・しかも強力な業火を瞬時に出現させるために神様の力を借りたので・・・」

「なるほど、左手の周りに出す分には、寿命は減らないか、減っていたとしても微々たるもの・・・そう言う事かな?」

「そうです。 業火自体は鍛冶の時にも使っていますから。」

「そうか・・・それならば良いのだが。」

「ふふ、そうですね。 すっかり話し込んじゃいましたけど、猫田さん、私、少し外に出てきますので。」

「分かったよ。 気を付けて。」


 私が玄関のドアを開けようとすると、居間に降りて来たシンシアに呼び止められる。

「クローエ出かけるの?」

「うん。ちょっとね。」

 私は、ミオを探しに行くとは言わなかった。


「悪いけど、ちょっと私に付き合ってくれない?」

「・・・いいけど・・・なに?」

「ギルドにね。 あの遺跡の調査報告と、素材を引き取ってもらうつもりよ。」

「ああ、そうか。 まだだったものね。 じゃあ私も鉱石を・・・」

「あなたの集めた鉱石はいいわ。 自分で使いたいんでしょう?」

「いいの?」

「ええ、それ以外のものだけでも十分だと踏んでいるから。」



 シンシアと2人で冒険者ギルドにやってきた。

 シンシアは受付の女性に話をした後

「クローエ、あっちで素材を引き渡しが終わったらもういいわよ。 私はちょっと話していくことがあるから。」

「うん。 分かった。」

 素材引き取り所で、翼竜を始めとした魔物の素材や拾った『遺物』かもしれないもの、それにスコップなんかを渡す。


「これは恐らく魔導帝国時代のものよ。 しっかり鑑定して頂戴。」


 シンシアが引き取り所の職員にそんなことを話している。

 ところで、魔物の素材だが、例の岩の犬の尻尾は、帰って来る途中で溶けたみたいに無くなっていた。恐らくアレは古代高等人類が造った魔法生物だったのではないかとシンシアは言っていた。


 シンシアと別れた私は、ギルドから出る前に訓練施設を覗いてみた。

「あ・・・ミオさんだ。」

 施設の一角で、ミオがなにやらロープの様なものを振り回しているのが見えた。

 私は、すぐにはミオに声を掛けることはしないで、ギルドの食事処で軽く食事をしながらミオを待つことにした。


 しばらくすると用事が済んだのかシンシアが出ていくのが見えた。

 その横顔は、心なしかウキウキしているように見えた。

「素材が高く売れたのかな?」

 その後もしばらくミオを待っている。

 お昼の時間が過ぎてもまだ出てこない。まだ寒い季節だったけど、日差しが暖かくて気持ちよかったので、私は少しウトウトしてしまい、いつの間にか寝ていたようだ。


 目を覚ますと、向かいの席にミオが座ってミルクを片手に大きなパンを食べていた。

 水浴びをした後の様で、髪の毛はまだ少し湿っているように見える。

「お、クロエ起きたのかナ。」

「あ・・はい。 寝ちゃってたみたいです。」

「ふふふ・・・クロエはお姉ちゃんを探しに来たんだナ?」

「まぁ・・・そう言う訳でも・・・ありますね。」

「そっか、そっか~。 お姉ちゃん嬉しいんだナ。」

「ミオさんは、何をやっていたんです?」

「ああ、鞭の訓練だナ。 遺跡のときミオはリーチ不足で全然活躍できなかったからナ。」

「ミオさん、鞭使えるんですか?」

「ま、昔ナ。 ちょっと習わされたことがあってナ。 性に合わなかったから全然使ってなかったんだけど・・・空飛ぶヤツとかには殴るよりも役に立つかと思ってナ。」

「そうなんですね。 心得があるなら一から学ぶよりも良いですね。」

「そうだナ。 で、クロエはこれからどうするんだナ?」

「特に考えていませんが・・・」

「そっか。 じゃ、お姉ちゃんとデートだナ。 ミオはご飯もまだだしナ。」

(えっ? 今パンを食べていませんか? ま、いいやミオさんだし。)

「そうですね。 ミオ姉さん。」

「ミオお姉ちゃんって呼んでほしいナ。」

「え~。 それはちょっとハズかしいな。」

 いつかの様に、ミオと2人で街をブラつく。ご飯を食べたり、お店を眺めたり。

(鍔姫姉さんとは、こういう事したこと無かったな・・・・。)

 また、私は姉のことを思い出していた。


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