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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第3章 クロエとミオ2

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第2話

「ここは・・・採掘場か?」

 扉の中にはかなり開けた空間が広がっていた。

 室内は通路と異なり壁も床も人工物ではない。壁には掘削した後が見て取れるし、奥に進むとずっと下の方まで螺旋状に掘り下げられているようだ。


 地面には、我々の祖先が使っていたであろうスコップやツルハシのご先祖さまが落ちている。金属部分以外は風化してしまったのか残っていない。


「これは・・・スコップか? スコップでも金になるよな?」

「魔導帝国時代のものだったらね。 歴史的価値もだけど、その材質もただの鉄って訳じゃないんじゃない? こんなにしっかりと残っているんだし。」

「よし、回収だナ。 ネコタも拾え。」

「そうだな。」


 4人は落ちているものを漁っているが、私は岩壁の方に引き寄せられる。本来なら螺旋の下の方に行きたいが、さすがにそれは危険すぎる。壁にもまだ反応がいくつもあるため、私は自分のツルハシを出して、壁を掘る。

 こんな時には、左手の怪力に本当に感謝だ。反応が表面に近いところを優先的に掘っては、次に移動・・・を繰り返す。

 いままで見た中でも最上級品質と思える鉄鉱石、鍛えると硬度がありながらも粘りのある黒鋼の素材となる黒鉄鉱、魔力伝導率の高い魔晄石。他にも、もしかしたら!?と気になる素材も採れた。

 私は、夢中で鉱石の採掘をしていた。

 他の皆も、大昔の採掘道具や運搬中に落ちたのであろう鉱石を一心不乱に拾っていた。


「ん?」

 ミオの耳がピンッと反応して入り口の方を向く。

 少し遅れてシンシアも何かの音に気付いたように入り口に振り向いた。

「おい、なにか来るんだナ。」

「グスタフっ! 扉を閉め・・・」

 通路の見える位置に移動していたシンシアの言葉が途中で止まる。

 グスタフが扉に向かって走って行く途中、通路の方に眼をやる。

「危ねぇっ!!」

 グスタフは咄嗟に進行方向をシンシアに向けると、そのままシンシアに向かって飛んだ。2人は転がりながら倒れこむ・・・と同時に、通路から部屋に向かって炎の渦が突き抜けて来た。


「あちちちち・・・大丈夫かシンシア!?」

「ええっ!! あ、ありがとうグスタフ!」

「扉は間に合わねぇっ! やるぞ!!」

「「おうっ!!」」

 猫田さんとミオが応じ、荷物を地面に投げ捨てる。

 私もツルハシを投げ捨て、背にある刀を抜いて皆の近くに駆け寄る・・・。


 ウオオオオオオオオーーーーン!!!


 雄叫びを上げながらグスタフの3倍もあろうかという2首の魔物が入り口の半分開いた扉を突き破って採掘場内に侵入してきた。


「うおおおおっ~~!!」

 両手剣で魔物の突進を受けたグスタフが後方に吹き飛ばされる。


「シンシアっ! 下がれっ!!」

 吹っ飛ぶグスタフと入れ替わるようにミオが前に出る。

 猫田さんもミオとは逆方向から魔物に飛びかかる。


 ガキンッ!


 猫田さんの放った突きは、およそ生物に当たったものとは思えない音とともに跳ね返された。

 攻撃を跳ね返されて空中にいる猫田さんに、魔物の2つある首のうち右側の首が伸びる。


「猫田さん! 危ない!!」


 私は思わず叫び声をあげた。いくら猫田さんでも空中じゃ躱せない。私は、また業火を使おうとするが、その瞬間に猫田さんは空中で何かを蹴とばした様な動きをしたかと思うと、軌道を変えて噛みつき攻撃を躱し無事着地した。

(何! 今何をしたの!?)

 いや、今はそれどころではない。すぐに私も戦うべく魔物を視界に捉える。


「何アレ?」

 思わず声が出た。魔物は大きな犬の様な形をしている(首は2つあるが)が、その表面は岩のようだった。


 ミオが素早い動きで魔物に近づき、左前足を数発殴って飛びのく、変わってさっき着地したばかりの猫田さんが再び槍で突きを入れるが、岩の皮膚をわずかに削っただけで、あまり効果がないように見える。


 私は、足を止めずに土魔法を使用する。

「大地の鉾っ!」

 尖った岩が魔物に当たる・・・ハデな音がしたが突き通せはしなかった。


 直後に幾重もの風の刃が魔物にヒットした。

 距離を取っていたシンシアの魔法だ。魔物の外皮が少し削られたのだろうか、土くれがボロボロと落ちる。

 猫田さんとミオは、近づいて攻撃を入れては離れるを交互に繰り返している。

 私はミオの後ろを走り抜けて、魔物の左後ろ足に刀で一撃を入れる。


 ガチンっ!と大きな音がする。

「痛ったぁ~。」

 打ち込んだ腕が痺れるが、左手の握力のお陰で刀を落とすことはなかった。

「固い・・・私の一刀術では無理だなこれは・・・」

 走りながらそう口にする。


 ズガガガガガガガ・・・!!


 今後はシンシアの氷魔法が魔物左側面に降り注ぐ。魔物は少しだけよろけるがダメージはあまりないようだ・・・が、表面は少し凍っている。


 魔法の方が厄介だと見たのか、魔物の4つの眼がシンシアを追う。

 最初に放った『炎のブレス』を吹こうというのか、息を吸い込むような動作を始めた。

 その瞬間を猫田さんは見逃さなかった。


 あっという間に魔物との距離を詰めた猫田さんは、魔物の右首の右眼に思い切り槍を突き立てる。


 ギャアアアアアァァァァァァ!!


 槍は魔物の眼に深々と突き刺さった。槍の刺さった所から白い体液が飛び散る・・が、すぐに止まる。

 同時に、ボンっと魔物の口からは吹き損ねたブレスなのか火の手があがった。


 猫田さんは槍を抜こうとしているが、深く刺さりすぎたのか、槍を引き抜くことが出来ずに手放す。

 槍を失った猫田さんは、後ろに飛びのきながら、腰の剣を抜いた。


 唸り声を上げながら魔物の右首は猫田さんを追い、左首はシンシアを追っている。

 チャンスと見たミオは再度接近し、左前足に素早く数発叩きこんで、また離れる・・・が、そこを狙った魔物の尻尾がミオを襲う。

 ミオは両腕の手甲で辛うじて防御はするものの、すごい勢いで私の横を吹っ飛んで行った。

 直後、最初の突進で吹き飛ばされていたグスタフが豪快な掛け声を上げて突撃。ミオを薙ぎ払った尻尾に強力な一撃を打ち込んだ。


 ギャウウウンッ!!!


 尻尾の先端が切断された。先ほどと同様に白い体液が飛び散るが、すぐに止まる。

 よくよく見ると、尻尾部分は岩ではなく生物のそれに見えた。


 再び猫田さんが魔物の死角となった右側に回り込んでいく。

 私は逆に左側に近づくが、私目掛けて後ろ足が巻き上げた土煙と石礫に阻まれた。

 左腕をくの字に曲げてガードする。それでも体中に石礫が勢いよくヒットする。

(痛たたたたたたた・・・!)

 ガードしきれなかった部分に多数の石礫が当たるが、それほど大きなダメージではない。


 カキンっ!カアンっ!

 煙で姿は見えないが、猫田さんが攻撃を仕掛けているであろう音だけが聞こえる。


「クソがっ!!」

 グスタフも土煙の中に突っ込んでいく。


 ガキンッ!!

 グスタフの一撃でも岩の皮膚は簡単には破れない。


 キンっ!という甲高い音を上げて、猫田さんのショートソードが折れる。

「しまった!」

 つい、声を上げてしまった猫田さんに向け、ヒュンっと風切り音を上げて魔物の右前足が繰り出された。

 間一髪躱すが、猫田さんは風圧だけで少し飛ばされている。


 武器を2つ共失った猫田さんは、飛ばされながらもスローイングナイフを一気に4本投擲したが、無惨にも岩の鎧に阻まれた。

 猫田さんの手には最後の1本が握られている。


 魔物は好機と見たのか、猫田さんに向かって左右の前足を連続で繰り出す。

 ギリギリ躱す猫田さん。


「こっちを無視してんじゃねぇぞ!!」

 魔物の側面にグスタフが切り込む。しかし、有効打は与えられない。

 シンシアも氷魔法を撃つがこれも有効打にならない。


 猫田さんは、死角となった魔物の右半身側をキープするために、魔物を中心に左へ左へと避けている。つまり、段々と私のいる方に近づいてくる。


(猫田さんなら私よりうまく使ってくれるはず!!)


「猫田さん!! ここですっ!!」

 私は大声で叫ぶと、その場に自分の刀を突き立てる。

 猫田さんならきっと気づいてくれると信じて・・・そして、少しでも魔物の気を引こうと腰の2本の短刀を引き抜き、猫田さんの後ろを通り抜けて魔物の左側面に向かう。

 狙いはシンシアが凍らせていた左わき腹だ。


「業火っ!」


 神様の力なしで発動した業火が私の左手を青黒く燃え上がらせる。不思議なことだが、グローブは黒炎に包まれていても燃えない・・・が、左手に持つ黒い短刀は燃え上がる。

 私は、凍り付いた左わき腹に燃え上がる短刀を思い切り突き立てた!


 猫田さんは、私が残した刀を見つけると、素早く引き抜き構えに移る・・・すると例の如く空気が震える・・その一瞬で刀の使い方を理解したかの如く、猫田さんは最適なタイミングで魔物の右前足に斬りつける。


 バキンっ!


 魔物の左右で、ほぼ同時に破壊音が響く。

 バラバラと左わき腹と右前足の岩の皮膚が崩れて落ちる。

 岩が崩れ落ちた内側には、尻尾と同様のツルっとした皮膚が現れる。どうやら、岩の皮膚は本当に皮膚の上に着ている鎧のようなものらしい。

 私と猫田さんの攻撃は、残念ながら本体へのダメージにはならなかったようだ。

 しかし、一部分だが鎧をはがすことは出来た。


 再びグスタフが突進をかける。猫田さんも向かっていく。

 私は、先に飛ばされたミオの方をチラと見るが、シンシアが向かっているのが見えたので、猫田さんたちに少し遅れて魔物に向かう。


 グスタフは岩の鎧の取れた右前足を狙う。

 猫田さんは頭、腹、左足・・と、次々と岩の鎧を削っていく。

 私は猫田さんが破壊した後に続き、むき出しの皮膚を狙う。


 なかなか決定打は与えられないが、少しずつ魔物を覆う岩の鎧は剥がれ、本体にもダメージが入り始めた。


 魔物が少し距離を取った。私たちも一旦魔物から離れて、息を整える。

 しばし、私たちと魔物は向き合ったままとなる。


 その間にシンシアは、ミオの所にたどり着いていた。


 シンシアが見る限り、ミオに大きな外傷はないように思える。

「ミオっ! 起きなさい!!」

 ピタピタとミオの頬を叩く・・・ビクっとミオの体が反応し、眼を開ける。

「ゲホっ! ゲホっ! ゲホっ!! ・・・・痛い~~~っ!!」

「これ飲みなさい!」

 シンシアはミオにヒーリングポーションを渡す。

「ありがと。シンシア。」

 ゴクリとポーションを飲み干し、すぐに立ち上がったミオは入り口方向を見る。

「みんなゴメン。 すぐに行くんだナ。」

 呟いたかと思うと魔物目掛けて駆け出した。


「よし、そろそろケリを付けようぜ。」

 半分ほどまで岩の鎧を剥がされた魔物を前に、グスタフが私たちに声をかけると同時に両手剣を構えなおす。

「そうだな。 やろうか、リーダー。」

「うん。」

 猫田さんと私もグスタフに答える。


 先に動いたのは魔物の方だった。

 採掘場が震えるほどの大きな咆哮を上げたかと思うとグスタフに向けて突進してくる。


 グスタフは両手剣を地面に突き立て盾の代わりとして、体全体で支える。

 ドカンっ!と衝撃音が巻き起こり、土煙が舞った。


「ぐわああああ・・・」


 土煙の中から、血を撒き散らしながらグスタフが転がり出て来た。

「グスタ・・・」

「クロエッ! 猫田を!!」

 私が声を掛け終わる前に、倒れたグスタフから指示が飛んだ。

「分かった!」

 私も土煙に突っ込んでいく猫田さんを追う。


 薄くなってきた土煙の向こうに、大きな魔物の足元を縦横無尽に駆け回る影が見える。

 その陰の動きに従って、甲高い音と土塊が落ちる音が連続して聞こえる。


 ギャウウウンッ!!!


 犬のような鳴き声が聞こえた。

 左前足を猫田さんに飛ばされた魔物がバランスを崩して前のめりになる。


「業火っ!!」

 私は再度左手に業火を展開。目の前に落ちて来る左首の顔面・・・岩の鎧が欠けている眉間に打ち込んだ。


 ―――――――!!!!!!


 魔物は声なき叫びをあげた。

 私にはかなりの手ごたえが感じられていた。間違いなく骨を貫いた感触があった。

 攻撃の後、暴れた左首に吹き飛ばされるも、なんとか着地は出来たが足が踏ん張り切れずにゴロゴロと転がり仰向けに倒れてしまった。

 首だけを動かし、魔物の方向を見ると、猫田さんが左首を斬り飛ばしているのが見えた。

 が、その背後には、右目に槍が刺さったままの右首が口を大きく開けて迫ってきている。

「あ・・・」

 猫田さんが噛まれる・・・・そう思った瞬間、物凄いスピードでミオが飛んで来る。


「おりゃあぁぁぁぁぁ~~~~!!」

 気合の叫びをあげたミオが、左右の手を組みハンマーのようにした拳を思い切り振り下ろした。


 バキンっ!!ズドォン!!


 ハンマー打ち下ろしにより頭蓋が砕ける音と、ほぼ同時に右首が地面に叩きつけられる凄い音がした。

 猫田さんは無事に脱出し、ミオは突っ込んできた勢いのまま魔物の背中を転げていく。


 右首の頭蓋を割られ、左首、左前足を失った魔物は、まだ死んではいなかった。だが、倒れた場所から動けないでいる。


 私も倒れたまま動けない。もう魔力切れ寸前だ。


「クロエ~っ!!!」

 ミオが私の名前を叫びながら走って来る。


 姿を確認するだけの力はもうないが、グスタフが猫田さんに声を掛けているのが聞こえる。2人とも無事だったんだろう。遠くからシンシアの声も聞こえたと思う。


(よかった・・・。 皆生きているみたいだ。)

 安心して、私は眼を閉じる・・・が、すぐに口に何かを突っ込まれた。

「クロエっ! 寝ている場合じゃないナ。 はやく飲むのナ!!」

 ミオの声だ。ならばと、飲み込んだ。マジックポーションだ。

「ミオさん・・・ありがとう。」

 魔力が少し回復した私は、起き上がりミオに礼を言う。

「気にするな。 ポーションはクロエのだしナ。」

 そう言ってミオは自分が口にしていたポーションの容器を投げ捨て、グスタフ達の方に歩いていく。

 え?私は右太ももの所に付けているポーションホルスターを見る。そこには、先ほどまであったはずのマジックポーションが無かった。何故かヒーリングポーションも消えていた。

(ミオさ~~ん。)


「みんな動けるか?」

 グスタフの問いかけに、皆が無言で頷く。

「よし、速やかに撤収だ。 荷物を回収して、さっさと出よう。」

「そうしましょう。 もうポーションも殆ど使ってしまったわ。」

「あの岩みたいなのはどうするんだナ?」

「あんなの、見たことも聞いた事もないわ。 持ち帰りたいけど無理ね。 大きさもだけど、まだ完全に死んでいないようだし。」

「切り落とした尻尾の先端だけでも回収しておくかい?」

「だな。そうしよう。すぐに立つぞ。」

「「「「了解!」」」」

 皆、満身創痍ではあったが、投げ捨てた装備を回収し足早に採掘場を出る。そのまままっすぐに階段の部屋を目指す。もちろん脇道への注意は怠れないので、ダッシュでとは行かなかったけれど。

 途中、先の戦闘で倒したコウモリなどの死骸を漁るネズミのような魔物や、虫型の魔物は蹴散らしつつも何とか階段の部屋に辿り着き、地上に出ることができた。


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